ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

燃料電池普及のカギは触媒の低価格化だそうです

2010年09月04日 | イノベーション
  9月2日に電気通信大学は燃料電池イノベーション研究センターの開所式を開催しました。
 現在、日本は家庭用の燃料電池を世界で唯一発売している先進国です。テレビのCM(コマーシャルメッセージ)で時々聞くことがある「エネファーム」という商品名で販売されているものです。

 同じように、燃料電池を積んで電気モーターを動かす燃料電池自動車も開発途上です。この写真は2009年10月に開催された東京モータショーに展示されたホンダ(本田技研工業)の燃料電池自動車です。


 航続距離は600キロメートルです。この点が航続距離が100キロメートル程度の電気自動車に比べて優れています。

 燃料電池は、水素ガスと酸素ガスを反応させて水をつくる際に発電する電気化学反応を利用しますす。家庭用も自動車用も、PEFC(固体高分子形燃料電池)というタイプの燃料電池を用いています。電気化学反応では白金(Pt)という触媒を利用しています。貴金属の白金を惜しげもなく大量に使っているため、燃料電池システムは非常に高価です。現在、数10台がリースされている燃料電池自動車は「1台が1億円する」と噂されています。最初は3億円とのいわれました。

 現在、燃料電池の白金粒子の多くは触媒として真面目に働いていないと推定されています。炭素の上に付着した白金粒子が触媒としてどんなふうな電気化学反応を起こしているかは、実はあまりよく分かっていません。この白金の触媒としての働きを、そのまま観察する手法として、XAFS(X線吸収微細構造)という究極のX線解析法を利用しようというのが、電通大に設けられた燃料電池イノベーション研究センターの使命です。

 このXAFSという難解なX線解析法は、X線源には物質透過力が強い放射光が必要になります。このため、兵庫県佐用町に設置されている大型放射光施設「SPring-8」(運営は財団法人高輝度光科学研究センター)に「BL36XU 先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン」を新設し、XAFS解析法を実現します。これによって、白金触媒粒子の構造変化や電子状態の変化、触媒の溶解や劣化する機構などを解明するのだそうです。

 同研究センターは、2010年5月1日から約5年間設置され、その運営予算は総額約35億円の見込みだそうです。今回、「ビームラインを新設する設備投資だけで12億~13億円かかる見込み」と、岩澤康裕センター長は説明します。最先端計測はお金がかかるようです。

  同センターに研究開発資金を出資する、経済産業省系の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)新エネルギー部によると、「2010年3月に任意法人の燃料電池実用化推進協議会が発表した燃料電池自動車の普及シナリオは、2015年に燃料電池自動車が普及し始め、2025年に200万台普及し、水素供給ステーション1000カ所を目指すとしている」そうです。この普及シナリオを実現するためには、燃料電池自動車の事業を始める企業は2012年~2013年ごろに、ある程度の事業投資判断を下すことになります。この事業投資判断には、燃料電池が普及するのに必要な現実的なコストになる見通しが必要になります。このためには、「白金触媒が有効に働き、燃料電池システムが低コスト化する見通しが不可欠になる」のだそうです。

 燃料電池自動車の生産規模を50万台、搭載する燃料電池スタックの出力を100kWという前提で試算すると、「燃料電池スタックを1台当たり約25万円というの普及価格帯にするには、白金触媒のコストを7万~8万円にまで下げることが前提になる」そうです。このため、白金触媒が真面目に働く条件を見つけて、少ない白金量で済むようにすることが重要になります。これによって、「燃料電池自動車1台当たりの価格が500万円にまで引き下げられる」と推論されています。この燃料電池の低価格化を、日本の自動車メーカーや部品メーカーが達成できるかどうかで、日本が世界市場で燃料電池自動車の主導権をとれるかどうかが左右されるだろうということです。

 現在、電気自動車の普及期の初期に入り、搭載するリチウムイオン2次電池の低価格化、長寿命化が課題になっていますが、その先の燃料電池自動車の開発も始まっています。燃料電池自動車は、電池をリチウムイオン2次電池から燃料電池に代替した電気自動車と考えると、次世代の電気自動車とみなすことができます。多種多様な先端技術が準備されていると感じています。このことを一般の方々に分かりやすく伝えることも重要と感じています。