ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

スイス人は多言語をいとも簡単に駆使します

2010年09月14日 | イノベーション
 9月13日午後に東京工業大学大学院で開催された「MOTワークショップ」を拝聴しました。
  ゲスト講演者は、スイス連邦工科大学のヒューゴ・チルキー(Hugo Tschirky)教授というMOT(マネジメント・オブ・テクノロジー、技術経営)の大家です。多数の著作をお持ちで、日本では、その翻訳書「科学経営のための実践的MOT」(発行は日経BP、2005年1月)を上梓されています。


 スイス連邦工科大学は略称が“ETH”と表記され、A.アインシュタインなどのノーベル賞受賞者を多数輩出している名門大学院です。物理学や化学、医学などの理学・工学に加えて、MOTの分野でも優れた業績を上げているからです。

 チルキー教授は1968年にスイス連邦工科大学大学院で原子力工学専攻で博士号を取得された後に、スイスのカール・ツァイス・チューリッヒ社のCEO(最高経営責任者)やスイスのセルベルス社のCEOを歴任されました。1976年には経営学でも博士号を取得されています。1978年には米国ハーバード大学のビジネススクールの経営学プログラムに参加され。2000年には米国MITの客員教授も務められています。


 チルキー教授は毎年数回、日本に来日されるほどの親日家で、1992年にサバティカル休暇(欧米などの大学の教授が7年ごとにとるまとまった休暇)として東京工業大学の客員教授として滞在して以来、東京工業大学の大ファンなのだそうです。

 チルキー教授の今回の講演のタイトルは「The Innovation Architecture Bridging the Gap between Market and Technology」でした。強いて訳する「市場と技術の深い溝を結ぶイノベーション・アーキテクチャー」とでもなるのでしょうか。前半部の“イノベーション・アーキテクチャー”は浅学なので翻訳できませんでした。

 お話の中身は、私には難しいので、つまみ食い的に説明すると、最近の製品は多様な要素技術から構成されているので、その製品に盛り込まれた要素技術を整理した「テクノロジー・プラットフォーム」を考えることが重要とのことです。その製品のコア・テクノロジー(キー要素技術)に、プロダクト・テクノロジー(機能や設計の要素技術)、プロセス・テクノロジー(生産の要素技術)、サポート・テクノロジーを整理し、各ビジネス領域(事業)で技術インパクトを分析することが新しい製品や事業を産み出すカギとなるというようなご説明に聞こえました。

 これからが本題です。チルキー教授は講演のイントロダクションで、いきなりOHPシートに筆ペンで「智行合一」とお書きになったのです。この四文字がMOTの本質を示していると説明されました。ものごとをよく分析し、考えてから実践するのが、MOTであるとのことのようです。教授は、スイスの自宅でNHKの衛星放送を受信するほどの親日家です。実は、講演の自己紹介部分は日本語でお話されました。「薔薇」を漢字で書くことができるほど、漢字に精通されているそうです。

 この後も、講演の中で「為虎添翼」「意先筆後」などをOHPシートに書いて、講演会場をわかせます。なかなかのパフォーマンスです。聴講している日本人に「為虎添翼」の意味を尋ねます。「分からない」と答えると、「日本人でしょ。漢字が分からないのですか」と笑わせます。




 「為虎添翼」は翼という強いものを身につけると、虎のように強いものになるとの意味だそうです。日本の革新企業がMOTという強いツールを会得すると、競争力が一層高い革新企業になるとの意味を込めているそうです。

 スイス人ですから、ドイツ語とフランス語、イタリア語の3カ国語を話すのは普通です。これに英語が加わっています。でも、多言語(マリチリンガル)を操る能力が優れているので、もっと多くの言語を使うことができる方のようです。日本語は、日本の企業の経営や研究開発、事業などのケーススタディーを調査されるために、学ばれたと想像しています。今回のイノベーション・アーキテクチャーやテクノロジー・プラットフォームの事例として、キヤノン、川崎重工業、セコムなどの事例を簡単に紹介されました。

 最近、日本では楽天やユニクロなどが英語を社内での公用語にすると発表して話題を集めています。でも、大手電機メーカーや自動車メーカーでは、外国人の研究開発者や技術者などを交えた会議では、共通言語として英語を使うのが当たり前なのだそうです。外資系の企業では、世界各国の事務所や事業所などを結んで、電話会議をするそうです。当然、英語でです。身振り手振りができない電話会議は、英語での高いコミュニケーション能力が必要なのだそうです。英語が苦手な者にとっては、グローバル化はなかなかつらい環境で仕事をすることになりそうです。何とかしないと‥‥。

 イノベーションはまずコミュニケーションありきです。専門家同士が互いに最善案を提示し、その融合の中から最適解が生まれるからです。話せてなんぼなのです。