仰ぎ見ていた存在だったのだが:
自動車産業:
戦後から今日までを生き抜いてきたので言えるので、アメリカ合衆国とは我々にとっては尊敬すべき仰ぎ見る存在だった。アメリカ製の品物であれば何でも尊敬されたし、持っていれば「ステータスシンボル」になった。自動車などは、我が国には僅かにダットサンがあっただけだったので、アメ車は特別に幅を利かせていた。Chevroletは兎も角として外車は格好が良く見えた。
その偉大なる繁栄する国・アメリカを代表していた自動車産業が何時の間にか急速に衰退して、ビッグスリーどころではなくなっていた。飽くまでも私独自の見解だが「自動車を始めとしてアメリカの製造業が没落したのは、職能別労働組合の制度とそこに所属する組合員の労働力の質による」のである。
我が国でも、復興・復旧が進むにつれて産業と技術が進歩発展して、嘗ては侮蔑の対象だった「Made in Japan」が優れた品質と経済的な価格の代名詞の如くになっていた。そして、DatsunだけではなくToyotaもHondaもSubaruもアメリカ合衆国での売れ行きが伸びてきていた。ビッグスリーの衰退も始まった・
そこに、輸入車の増加を快く思わなかったアメリカ政府が「排ガス規制法」を設けた。ところが、アメリカの自動車メーカーたちは規制に到達できずにいる間に、日本車は悠々と達成してアメリカ向け輸出を伸ばしてしまった。保護貿易政策を採るアメリカは輸入車の規制を図る為に、日本のメーカーにアメリカでの現地生産を要求し、トヨタを始めとしたメーカーはそれに従った。
今や、アメリカの大都市に行って街角に10分も経って観察していれば「アメリカでも未だに4ドアセダンが作られていたのか」と思わせられるほど日本車、ドイツ車他の欧州車と韓国車が走っている状況なのだ。だが、これらの外車(アメリカブランド以外の意味)はトランプ前大統領がお怒りだった輸入車とは限らないのだ。現地生産が多くなっているのだ。
私は「何故、外国のメーカーがアメリカで現地生産するとアメリカのメーカーよりも品質が優れた車が出来るのか」知らないが、それらの車を作っているのはアメリカの労務者たちなのだ。同じUAWの組合員が作っているはずなのに、何故品質に優劣の差が出るのだろうか不思議だ。
私は労働組合の在り方が日本とアメリカとでは根本的に異なっている辺りに、労働力の質の違いが生じていると思っている。簡単に言ってしまえば「アメリカでは組合とは会社とは別個の法律によって保護されている存在である事」と「組合員が会社側に転属する(昇進するのではない)事は先ずあり得ない」から生じている問題だと思う。
日本製鉄のUSスティール買収:
この案件は私が予想した通りで民主党政権が反対を唱え、トランプ候補(当時)も同調した。「国内産業保護と組合員の職の安定/安全」が狙いであるようだ、私が聞いた限りでもUSW所属の組合員たちは歓迎していても。反対するとはどう考えても正しい政策ではないとしか思えない。
今や、鉄鋼産業界では粗鋼(crude steelと言うのだと知った)の生産量では中国(多くは国営メーカ-)と韓国を代表するPOSCO(旧浦項製鉄)占めるシェアーが圧倒的で、USSも何とかしなければ新興勢力の勢いに圧倒されて埋没してしまうかもしれないのだ。その流れを断とうと、劣勢に立たされつつある日本製鉄が言わば救いの手を差し伸べたと言って誤りではないようにすら思えた。
まさか、バイデン大統領もトランプ次期大統領もこういう状況をご存じないとは思えないが、私はアメリカ政府も共和党も反対などしていても良い状況に置かれているとは思えないのだ。
製紙産業を見れば、1990年代末期から中国、インドネシア、韓国、ブラジル等々の新興勢力が最新鋭の生産設備を導入して、古物化した設備しか持ち合わせがないアメリカ市場を高品質と低価格の印刷用紙で席巻していた。連邦政府はこの輸入を高率の関税で閉め出して国内のメーカーを保護した。ところが、時代の流れに勝てなかった印刷用紙メーカーが続々とChapter 11の保護を申請して倒れてしまった。
鉄鋼も時代の流れは新興勢力が最新鋭の設備を導入して経済的な価格で世界の市場に進出していくのだから、旧式の設備で戦ってきた日本やアメリカが劣勢に立たされたのは、印刷用紙の状況にも似ている。最早、鉄鋼業界ではtariff manの出番の時期は過ぎてしまっているとしか見えないのだが。
トランプ次期大統領は就任後には、このような新旧交代の時期が色々な産業界で生じていることを確りと確かめる必要があるのではないだろうか。恐ろしいのは、新興勢力の発展が続く為に「何時の日か、関税で保護したくなるような産業が残っていない日」が来て、誰もアメリカの製造業を仰ぎ見ることがなくなるのではないかという事。