アリカ合衆国教育省廃止の大統領令に署名:
見出しのようなニュースが流れていた。トランプ大統領はアメリカ国民の中で識字率や基本的計算能力(numeracy=一桁の足し算と引き算が出来ること)が欠けているとの報告を聞いて激怒して教育省廃止を指令したことのようだ。だが、廃止は国会の議決を経なければならないのだそうだ。後難を怖れて言えば「ここにもトランプ氏の不勉強さが現れている」のである。
私が再三取り上げて論じたことで、1994年7月にNHKと読売新聞共催のパネルディスカッションが開催され、当時のUSTRの長だったカーラ・ヒルズ大使が参加された。大使は「アメリカが対日輸出を増やして貿易赤字を削減する為には、労働者階層の初等教育の充実と識字率の向上が必須である」と述べられた。聴衆の一人だった私は「何だ。大使は問題点を的確に把握しておられるじゃないか」と感心した。
ところが、数日後に柏木雄介東京銀行会長(ウエアーハウザー顧問)が上記の2点に加えて、numeracyの向上も必須であると指摘されたのだった。再度言うが、重要な点は「1994年のことであり、USTRの責任者がアメリカ側の問題点を東京の公開の席で表明された」という事。因みに、このディスカションには当時の宮沢喜一総理も出席しておられた。
私自身は職責上で、何度も事業部の工場で三直四交替勤務の組合員を集めて「君らの仕事の質をもう一息上げて、製品の品質向上に励んで同業他社の水準を抜いてくれれば、我が事業部の市場価値が世界最高の地位を確保するので、君らの職も限りなく安定するのでより一層の努力を」と激励していた。しかし、この経験から彼等の中には英語の読み・書きが満足に出来ない者たちがいるとも承知するようになった。
ご注意願いたいことは、私の経験とても40年近くも前の出来事なのである。また、カーラ・ヒルズ大使の指摘は31年前のことだった。それにも拘わらず、2025年の今日、この種の問題の存在がトランプ大統領に上がって激怒されたとは、どういう不手際なのだろうか。30年間も放置されていたか、それとも為す術を知らずにいたとでも言うのだろうか。
私がもっと問題だと思うことは「トランプ氏は2017年から2021年まで大統領の職におられた」という事実なのだ。「その4年間にここまで指摘してきた三項目の問題点を知らなかったとはどういうことか」と言いたいのだ。それでは、大統領はブレット・スティーブンスがNY Times上で指摘したように「歴史から何も学んでいなかった」ことになりはしないのかという事。
マスメディアはこの教育省廃止の大統領令を報じるのであれば、これくらいの背景の情報を流せないのかと言いたくなる。「君らもブレット・スティーブンスに歴史に学んでいないと誹られるのではないか」と言って終わる。