“r”の発音について:
矢張り、暫く振りに英語の話題に触れておきたくなった。「またか」などと仰らずに暫時付き合いの程を。
一昨日だったか、偶然にチャンネルを合わせたTBSのBSだったかで「Hero’s Award」という表彰の式典を放映していた。社会貢献をした運動選手を表彰する日本財団が主催する行事だったと、後から検索して知り得たのだ。21年度として表彰されたのはNPBの大投手だった村田兆治さんとオリンピック代表だった陸上競技の寺田明日香さんだった。「何だ。それと英語どどういう関係があるのか」言われそうだが、暫くお待ちを。
受賞者を呼び出していた司会者と思しき女性はかなり達者な英語だったが、“r”を必要以上に響かせた発音で“award”を「アウオード」と言っていたにも拘わらず、番組担当のアナウンサーは全く躊躇うことなく再三再四「ヒーローズ・アワード」と言ってのけていた。女性の発音と食い違っていることには頓着せずに、何処かの会社が作成したのだろう「外来語ハンドブック」の表示通りにしていた。私がこれまでに何度も指摘したことで、天下の有名一流大学出身だと思う彼らが「アワード」ではおかしいと思わない感覚は理解できないのだ。
また、司会者だと思しき女性が“award”という単語で「アウオールド」に近いように“r”を響かせる発音が邪道だと知らない様子なのも、我が国の英語教育の至らなさではないかと、ウンザリしながら聞いていた。まともな英語教師だったら「一部のアメリカ人というか、アメリカのある地域では“r”を響かせて発音するのだが、それは上品ではないと看做されている」と教えておくべき事なのである。
更に、我が国のテレビ局とうの報道機関に蔓延してしまっている“award”を「アワード」と発音するのは誤りというべきか、不正確な発音であると知られていないのは、本当に情けないのだ。如何なる辞書を見ても「アワード」などという発音記号は記載されていない。思うに、何処かに巣食うカタカナ語製造業者が好い加減な表記をしたのを、公共の電波を使っているテレビ局が何の疑問にも思わずに、局員に使わせている不見識振りだと思っている。不見識は何もテレビ局だけではなく、方々の団体でもシレッとして「アワード」呼ばわりしている。情けない。
私がこれまでに繰り返して批判してきた事で、我が国では英語の綴りで、a、e、i、o、uの後に“r”が来た場合に歴史的にも、前からずっと今も尚、英語そのものの発音を無視して「ル」としてしまっているのだ。先日のオリンピックの際にも女子のゴルフで優勝したNelly Kordaさんを「コーダ」ではなく平然と「コルダさん」にしてしまった。それ以前の例では、COVID用のワクチンの製薬会社Modernaを「モデルナ」としてしまっていた。どう読んでも「マダーナ」で、最悪でも「モダーナ」しかあり得ないのに。
私はこのように我が国の英語の単語や固有名詞に“r”が入っている場合に「ル」とする習慣が何故始まったのかが不思議でならない。クイーンズイングリッシュでは先ずあり得ない発音だし、アメリカ語でも“r“を響かせるのは少数派である。先ほど取り上げた麗澤大学准教授のMorgan氏を、産経新聞はちゃんと「モーガン」と表記していたが、我が国には古くから「モルガン銀行」があり、その英語の表記はMorganである。
他の「ル」の例を参考までに挙げておくと「エネルギー」は“energy”だったし、「レトルト食品」は“retort”である。COVIDの治療薬のRemdesivirも何故か「レミでシビル」になっていたし、Merck社のMolnupiravirは「モルヌピラビル」となっていた。私は不勉強でMerckが「メルク」か「マーク」なのかは調べていない。
私はこの「ルと表記したい症候群」を責めるのは詮無いことだと解っている。それは、最早何処かの誰かが意図的であったかなかったは別にして、過去の先例に従って「ル」としてしまい、それが遍く国内に広まってしまっているからだ。だが、この広くない我が国の何処かで誰かが「おかしい」と指摘しないことには、このような奇妙な表記と表現がまかり通ってしまうのは良くないと少しでも知って貰いたいから、無駄な努力と承知で書いているのだ。