○ 最近は英文契約の事をだいぶ書いてきましたが、久しぶりに会社法の「けち」シリーズの復活です。会社法362条では取締役会の権限等を定めています。2項の取締役会の職務には、取締役会設置会社の業務執行の決定、あるいは取締役の職務の執行の監督等が規定されています。また4項では、取締役会で決定しなければならない事項、即ち取締役に委任してはならない事項を定めており、その6号には、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を即ち内部統制を定めています。また第5項で、大会社では決定を義務化していますね。職務と業務という言葉が出てきますが、どうも同じような意味の様ですね。
○ これを受けて施行規則100条1項で内部統制の体制として以下を定めています。
1) 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
2) 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
3) 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
4) 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
5) 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
○ 金融商品取引法では、内部統制に関する直接の規定はありません。規定としては、24条の4の4に「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制の評価」として、内部統制報告書を提出しなさいと規定されており、193条の2で、内部統制報告書には監査法人などの監査証明を受けなさいと規定されているだけです。
○ 企業会計審議会の実施基準では、内部統制の定義として、①業務の有効性及び効率性、②財務報告の信頼性、③事業活動に関わる法令等並びに資産の保全を目的としています。ここでも「効率性」と言ってます。これは米国のSOX法の元になったCOSO(the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission) の内部統制フレームワークの猿まねですね。
○ 法令等に業務の効率性の規定がありますが、業務は効率的に行わなければならないという事は、法令で定めなければならない事でしょうか?効率的に事業を行おうが、非効率に行おうが、自由ですね。そういったことまで法令でとやかく言われる筋合いのものではありません。なぜこんな言葉を規定したのか如何なものでしょうね。
○ 国際競争に晒されている企業等は勿論業務を効率化しないと生き残っていけません、しかし、効率性を追求しない企業等いくらでもあります。例えば、特製の手作りのバッグや機械式の腕時計を注文して、職人さんに一ヶ月がかりで作ってもらうとか、お醤油の工場でも、温度管理で出来るタンクで6ヶ月で作るのも良いですが、昔ながらの木桶で2年かけて作り、プレミアム醤油で販売することもあります。こういった業務は効率的でしょうか?またこういった業務を効率的に行う必要はあるでしょうか?ありませんね。それが価値ですから。
○ ある企業の事業報告書に、「取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制」と施行規則の用語をそのまま使用し、「各取締役および各執行役員の業務分担を定め、効率的な業務執行を行いうる体制を取っています」と記載されていました。業務分担はあたりまえですね。これを効率的な業務執行の体制としています。実態はどうか知りませんが、どうも「効率的」という言葉を使うことが効率的としているようです。言葉遊びですね。
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