○ 昔の日本の会社の定款には、「質権の登録及び信託財産表示」等として、「当会社の発行する株式につき質権の登録、変更若しくは抹消、又は信託財産の表示若しくは抹消を請求するには、当会社所定の書式による請求書に当事者が署名又は記名押印してしなければならない。」等と記載されていました。しかし、信託財産としての表示は実際上殆どありませんでした。また、最近の会社、特に上場会社の定款の株式の箇所には、質権のことも信託財産のことも記載しなくなりました。上場株式等については、株式等振替制度(いわゆる「ほふり」)が導入され、上場会社について株券等を廃止し、株主等の権利の管理(発生、移転及び消滅)を、機構及び証券会社等に開設された口座で電子的に行うようになったのも原因の一つだと思います。ところが、今度は上場会社の大株主として、信託銀行が信託口として登場し、誰が実質の株主か分からなくなってきました。今回は、米国等で一般的な信託ですが、その会社法にはどのように規定されているのか等の話です。日本の会社法にはこういった規定はありませんね。<o:p></o:p>
○ 模範事業会社法Chapter 7 ShareholdersにはSubchapter CとしてVOTING TRUSTS AND AGREEMENTSとして、§ 7.30. VOTING TRUSTS(議決権信託)、§ 7.31. VOTING AGREEMENTS(議決権拘束契約)と§ 7.32. SHAREHOLDER AGREEMENTS(株主間協定)の規定があります。つまりこの3つはそれぞれ関連したものとして纏めてられているわけですね。株主間協定のうち議決権の事についてのみ定めたものが議決権拘束契約と普通は考えていいですね。しかし、議決権拘束契約ということで言えば、別に株主間に限定せずに、会社の取引先等の利害関係者と株主間で、一定の事項の議決権を拘束する約束をしてもいいですね。そういう例外も考えられます。§7.31では、Two or more shareholders等と書いていますが、契約は自由ですから株主以外と株主間で議決権拘束の契約も結べますね。具体的な条文は以下です。§ 7.32.は長いので省略して議決権信託と議決権拘束契約について述べましょう。<o:p></o:p>
○ § 7.30. VOTING TRUSTS
(a) One or more shareholders may create a voting trust, conferring on a trustee the right to vote or otherwise act for them, by signing an agreement setting out the provisions of the trust (which may include anything consistent with its purpose) and transferring their shares to the trustee. When a voting trust agreement is signed, the trustee shall prepare a list of the names and addresses of all owners of beneficial interests in the trust, together with the number and class of shares each transferred to the trust, and deliver copies of the list and agreement to the corporation’s principal office.
(b) A voting trust becomes effective on the date the first shares subject to the trust are registered in the trustee’s name. A voting trust is valid for not more than 10 years after its effective date unless extended under subsection (c). (c) =延長の場合も最長は10年以下にするという規定です。<o:p></o:p>
§ 7.31. VOTING AGREEMENTS
(a) Two or more shareholders may provide for the manner in which they will vote their shares by signing an agreement for that purpose. A voting agreement created under this section is not subject to the provisions of section 7.30.
(b) A voting agreement created under this section is specifically enforceable.<o:p></o:p>
○ 議決権信託と議決権拘束契約の関係
議決権拘束契約の問題点は、合意内容に反して議決権の行使がされた場合です。契約内容に違反する議決権行使がなされても、会社に対してはその行使は有効ですね。債権者は、契約違反の債務者に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求権を持ちますが、特殊な場合(違約罰の定めがある場合、配当増額の議案提出とその決議できる持株比率の確保等が出来ている場合等)以外は損害額の算定など出来ませんね。損害賠償なのに、損害額の算出が困難、あるいは無理に屁理屈こねて損害額を算出しても立証が困難ですね。この欠点をカバーする方法として、即ち合意内容を確実に実現したい場合に議決権信託が利用されますね。信用できる受託者は、信託目的に反する行動は取りませんからね。<o:p></o:p>
○ 議決権信託の利用
例えば、受託者が自ら株式の40%を有している場合、他の株主から30%の議決権の信託を受ければ、合計の70%の議決権を入手したことになり、会社の支配権を得ることができますね。一方で、議決権を信託した株主は、配当などの権利を受益者として享受します。オーナー企業の相続で長男(社長を引き継ぎ)が40%の株式を取得して、他の家に嫁に行った姉妹が合計30%取得、経営は兄に任せて配当はもらいますということが可能となりますね。これは信託利用の一形態です。信託を利用するといろいろな利用方法があると思います。研究熱心な方は、研究して私に教えてください。
尚、ご参考までに日本でも活用の動きがあります。H20年9月に中小企業庁から「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における中間整理について」が公表されています。ご興味のある方は参照されては如何でしょうか。<o:p></o:p>
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