○ 西松建設の元社長等が、裏金作りの外為法違反で逮捕されました。取締役の不正行為ですね。こういった取締役の不正行為により会社に損害が生じるおそれがある場合(事前差止)ついては法360条に株主による差止請求権がありますね。1項では、6ヶ月前から株式を保有している株主は「取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該株式会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。」としています。また3項では、監査役設置会社・委員会設置会社では、一義的には監査役等による牽制・差止が行われるべしとして「著しい損害」とあるのは、「回復することができない損害」とするとされています。
○ 著しい損害:私は、条文のコンメンタール等は読んだことがないので、「著しい損害」と「回復することができない損害」の違いなど知りません。「回復することができない損害」のほうが重大な損害という事を言いたいのでしょうが、普通の感覚から言って両者の違いはわかりません。実際上まずそんな区別など出来ないでしょう。また著しい損害が生じれば回復出来ない損害であるのが常識では無いでしょうか。
― 3項では、何が言いたいのですかですね?まあ、例えば時価のある有価証券(上場株券等)の減損処理で、①時価が取得価額に比し50%以上減損、②回復する見込みがないという場合に、見込みというのは判断ですから、判断違いで回復ということもあるかもしれません。なにしろ株ですのでね。しかし、著しい損害が回復する等というのは特別な例外を除いてないでしょう。即ち、著しい損害=回復することができない損害ですね。
― 3項で、回復することができない損害と厳格化したのは、株主による違法行為差止請求権の濫用を牽制する必要があるとも言われています。おかしな理屈です。非監査役設置会社・委員会設置会社以外の会社の場合の説明にはなっていません。
― 株主がこの差止請求権を行使するケースは少ないでしょうね。経営支配権を掌握している株主なら、差止請求権等行使しなくても圧力をかけることができます。「そんなことしたらあんた首だよ」と圧力をかければ良いことですね。少数株主なら、金と費用をかけて差止請求する等、馬鹿馬鹿しくてやりません。支配株主に持株買ってくれと交渉して撤退する事などを考えるでしょう。
○ 目的の範囲外:監査役の権限は、一般的に法令・定款違反の違法性監査と著しく不当な事項の監査とされていますね。従い、目的の範囲外の行為というのは著しく不当な事項ということになりますね。まあ、著しく不当な事項・行為自体が善管注意義務・忠実義務違反という見解もありますが。しかし、会社の定款の目的では、最後に、「前各号に付随又は関連する一切の事業」などとしています。また政治献金まで目的の範囲内という有名な最高裁の判例(八幡製鉄事件:最大判S45.6.24民集24-6-625)もありますね。西松建設の裏金作りも、違法であることを別にすれば、見方によっては「目的の範囲内」ということですね。その判例では、「一見定款所定の目的と関係がないような行為でも、会社に社会通念上期待ないし要請されるものである限り、これにこたえることは当然なしうべきである」等と言っています。目的の範囲外とは何か分からなくなりますね。
○ この条文の実効性:株主が閉鎖社会の会社の中の不正行為を見つけて差し止め出来るんでしょうかね。合弁会社等の少数株主が、自分が指名した役員をインサイダーとして送り込み内部を調べさせるとか、内部通報者をもっている場合でしょうね。株主が立証責任を果たすにたる証拠を握るのはなかなか困難でしょうね。
○ 385条との関係:一方、監査役による取締役の行為の差止めを規定した385条ではどのように書いているのでしょう?即ち「監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。」と規定しています。要するに、損害には、「著しい損害」と「回復することができない損害」とがあって、監査役設置会社では、監査役は「著しい損害」、株主は「回復することができない損害」の差止請求権があると区別したいのでしょうが、実際どのように区別すればよいのでしょう。よく分からない規定です。
○ 上記に関連して、法令・定款違反、著しく不公正な方法により行われる募集新株・募集新株予約権(247条)の発行(210条)により、株主に損害等が生じるおそれがある場合については差止請求ができるとしています。新株・新株予約権の第三者への有利発行(役職員に株式報酬型お手盛り1円ストックオプションを付与する場合などを含む)等に利用できるとは思います。株主の持株比率希薄化、1株利益の減少という損害もありますが、不当に安い価格での新株発行ですから、会社に損害が生じる場合にも該当すると思います。
○ 事後の責任追及については、①会社に損害が生じたときは、取締役はその損害賠償責任を会社に負いますね(423条)。しかし、そんな責任を負う取締役はめったにいないでしょうから、株主代表訴訟が用意されています(847条)。また株主に損害が生じたときは、429条によって取締役への責任追及ができますね。悪意又は重大な過失があったときだけですけれども。
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