とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

村上春樹『騎士団長殺し』①「気に入っていると本人は言っていたし、それを疑う理由もとくに見つからなかった」

2017-04-09 06:45:41 | 騎士団長殺し
 村上春樹の『騎士団長殺し』を読んでいる。気になったことをメモ的に書き残す。

 19「私の後ろに何が見える」307ページ。免色さんが「私」が描いた肖像画を、絵の具も十分乾いていないのに自分の家に持ち帰ったという話を聞いて、「私」の不倫相手の女性が、免色がその絵のことを「気に入ったのね」と尋ねたことに対して、

「気に入っていると本人は言っていたし、それを疑う理由もとくに見つからなかった」

と答えた。

 このセリフが気になる。とても理屈っぽいセリフである。論理的といえば論理的なのだが、実際の会話の中で使われるとふたりの距離感を示すことになる。「私」は常に冷静に論理的な思考をする人のようである。

 そのあとの回想場面で、宮城県の海沿いの町で出会った女性に、その時「私」が読んでいた森鴎外の『阿部一族』について説明したあと、

「私はその本を読み終え、もう一度読み返していた。話がなかなか面白かったこともわるが、森鴎外がいったい何のために、どのような観点からそんな小説を書いたのか、書かなくてはならなかったのか、うまく説明できなかったということもある。でもそんな説明を始めると話が長くなる。ここは読書クラブではない。」

 と簡単な説明にとどめた理由を理屈っぽく解説している。

 このような論理的な記載が村上春樹の小説には多かったような気もする。そして論理と現実のはざまで物語が生まれているような気もする。

コメント
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