新国立劇場小劇場で『アンチポデス』を見ました。物語を求める物語であり、そこに物語を失った現代人の姿が浮かび上がってきます。おもしろい作品でした。
作 アニー・ベイカー
翻訳 小田島創志
演出 小川絵梨子
出演 白井晃、高田聖子、斉藤直樹、伊達暁、チョウヨンホ、亀田佳明、草彅智文、八頭司悠友、加藤梨里香
【あらすじ】
ある会議室に男女8人が集められている。彼らは「新しい物語」を考えるために集められたのである。「新しい物語」を生み出すために、参加者たちは競うようにして自分の「リアル」な物語を披露していく。しかしその内容は単なる下ネタだったり、あざとい内容であったりする。参加者の中にはその雰囲気に耐え切れなくなり、参加を取りやめる者も出てくる。
新たなアイディアは生まず、参加者は現代にはもはや新たな物語りは残っていないように考え始める。追い詰められて疲れ果てた参加者の一人が、「物語の物語」を語り始める。
物語というものは新たに作るのは難しい。どういう物語を作ってもそれは過去の焼き直しでしかありません。しかし私たち人間は物語を求めます。「新しい物語」を欲しているのです。
「物語の物語」という足ディアは一見おもしろいものですが、それとて発想としてはありきたりです。こどもが作文が書けないという作文を書くようなものなのです。だから事態は好転するはずがありません。
最後に参加者のひとりの、言葉を覚えたてのころの「ものがたり」が発見されます。単純な物語であり、他人にとっては他愛のない物語です。しかし物語を愛する心はそこにはあります。同時に物語が物語として成長していく過程を見ることができます。物語は自ら語り始めるのです。
物語は人間がひねくり回して無理やり生み出すものであはなく、自然に生まれてくるものなのです。人間の能力をはるかに超えたところで物語は生まれ育っている、そんなことを考えさせられる演劇でした。
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