先週の日曜日、東京は雨だった。
私の心にも雨は降った。
先週の続き。
「タピオカ」の踊りの講習をアホのイナバくんに頼んで・・・違いました「パプリカ」でした。
パプリカの動画は、イナバくんにメールで送ってもらったので、一応観た(イナバくんとイナバくんのガキ二人が、ニコニコしながら踊った動画だ)。
・・・・・・・・・・・・・・・・・(へー、イナバくんのガキ二人がダンスがうまいのはわかったけど)。
友人の極道コピーライターのススキダの得意先が、今年創立40周年を迎えるというので、3月はじめに面倒くさいパーティを開く予定だという。
そこで、若手社員がまるで幼稚園のお遊戯のように、パプリカを踊りたいと言い出したのだ。
無邪気ですね。
ダンスといえば、私の中では、アホのイナバくんしか思い浮かばなかった。
イナバくんに聞いて、インストラクターをお願いしたら即座に「いいですよ」と返事が来た。
しかし、アホだぞ、彼が飼われているボルゾイ犬さえ認めるアホだぞ。心配になった私は、ついていくことにしたったった。
東急東横線代官山駅から徒歩7分で目的地に着いた。
ススキダは、エスティマで既に来ていた。イナバくんもメルセデスで来ていた。
俺、昼メシ食ってねえぞ、なんか食わせろや、と言ったら、イナバくんが、カロリーメイトをくれた。
ありがとね。
カロリーメイトを食いながら会社のエレベーターに乗って、最上階に着陸した。
そこに、社員食堂があった。
社員食堂では、関係者の方々が、すでに待っておられた。
若い9人の面倒くさい人たちが、私服姿で待っておられた。
「やる気まんまん」には見えないですけどね。
テキトーに挨拶を交わした。
イナバくんは、「どうも」と言いながら、いきなり9人に小さなゼッケンを配った。
「ボク、人の名前を覚えられないので、番号で覚えます。肩にゼッケンを付けてください」
みなさん、安全ピンで肩にゼッケンを付けた。イナバくんの奥さんが、ゼッケンを作ってくれたらしい。
そして、イナバくんもゼッケンを付けた。イナバくんのだけは、でかい。10番のゼッケンだ。胸につけて誇らしげだ。
「エースナンバー!」叫んだ。
イナバくんは、サッカーが三度のサッカーよりも好きなのだ。色々なメディアで、サッカーを観まくって暮らしていた。
しかしね、イナバくん。インストラクターに、ゼッケンはいらないんじゃないかね。
イナバくんが言った。
「パプリカ、やります」
それは、合ってると思うけど、たとえば「今日は、みなさんと一緒に、楽しくパプリカを歌って踊りましょう。ボクも楽しみにしています。わからないところは聞いてください」程度のことは、言った方がいいんじゃないかな。
心配になった私はイナバくんに、beat it やってみたら、とアドバイスした。
すると、イナバくんは、マイケル・ジャクソンの名曲 beat it を踊り始めた。腰と足、手の動きが調和したMJらしい軽快なダンスだ。
だが、コピーするのは絶対にむずかしいと思う。
イナバくんは、簡単にダンスをこなしていた。
社員さんたちの目からは、釘がたくさん出て、イナバくんのダンスに釘付けになった。
そして、終わったら、大拍手。
つかみは、オッケー。
イナバくんとは、事前に打ち合わせをしていた。
最初の1時間は、踊る人のスキルを確かめよう。そして、20分の休憩をはさんで、1時間のダンスレッスン。さらに20分の休憩をはさんで、ダンスの仕上げにかかる。
一人ひとりに踊ってもらうと、みなさんスキルがそれなりに高いのは、わかった。
ほぼ20代の男女。女性6人男性3人だ。今時の若い人は、ダンスが身についているんですかい?
私らデスコ世代は、単純な動きしかできない。しかし、今の若い人は適応力があるから、色々な動きについていける。タイムズ ゴー オン。
イナバくんが、手を叩いて言った。「いやー、みなさん、お上手お上手。オロドキました」驚きました、だね。
休憩。
でっかいクーラーボックスの中に、お茶やらスポーツドリンクが入っていて、自由に飲めるようになっていた。
そのクーラーボックスの横に小さな発砲スチロールのクーラーボックスがあった。ふたに私の名前が貼ってあった。
開けると一番搾りの350缶が4本入っていた。
これは?
ススキダが、今回の責任者に掛け合って酒の接待をお願いしたのだという。
「彼は、ダンスの先生の師匠ですから、これくらいは、していただかないと」
気が利くな、ススキダ。ありがたく、いただきました。
次の1時間は、パプリカの振り付けに費やした。
私にはまったくわからなかったが、イナバくんがいたるところにアレンジを施して、オリジナルとは少々違うダンスになったみたいだ。ジャンプを何回か取り入れたそうだ。
でも、みんな上手いね。戸惑わずに、ちゃんとついていっているもんね。イナバくんも最初は満足そうだった。
しかし、第2クールの1時間が終わるころ、イナバくんが首を傾げた。「うーん」。普通の人の3倍くらい大きく首を曲げた。痛くないのか。
社員食堂の隅っこに座っていた、すみっコぐらしのススキダと私の前に来たイナバくんは、「いい感じなんですけど、何かが足りないんですよね。パーティ感がトモシイんですよ」おそらく「乏しい」だと思う。
いや、俺には完璧に見えたけど。もう練習なんかいらないんじゃないかね。
「いやいやいやいやー」
そんなに嫌なのかい。
「だって、普通すぎるでしょう。これじゃあ、ただ踊りましたってだけですよ。コンタクトがないです」インパクトだね。
頭を抱えるアホ。
私には、どうでもいいので、2本目の一番搾りをありがたくいたいただいた。
そのとき、何かをひらめいて突然頭を上げたアホが、ポテチもないことを言い出したのだ。ポテチ食いたいな。湖池屋ののり塩ね。
「Mさん、阿波踊り、得意でしたよね」
得意じゃねえよ。
「踊ってみてください」
チミは、何を言っているんだ。パパパプリカはどこいった。いつからここは徳島になった。
「Mさんにできないことはないとボクは思っています。やれます、やれます、絶対にやれます。はい、立ち上がってー」
すごい熱量で語られた。まるで催眠術だ。
踊っちまった。
ススキダの得意先の社員は、突然白髪オヤジが阿波踊りをし始めたのを見て、数秒固まっていた。
どうでもよくなった私は、ススキダを巻き込んだ。おまえが持ってきた仕事だ。責任を持て。
ススキダは、最初腰が引けていたが、意を決して踊り始めると極道らしい凄みが出て滑稽になった。イナバくんが、手を叩いて喜んでくれた。
そして、イナバくんも参入してきた。これこそ本当の踊る阿呆だ。
最後に、イナバくんが我々に振り付けをした。両足を開いて止まり、両手をつけて、両手を頭の上に突き上げるのだ。
イナバくん曰く「東京タワーのポーズです」。
そのあと、音楽が鳴って、みんながパプリカを踊り始めた。我々は、すみっこに退場だ。
終わって、イナバくんが言った。「完璧、カンペッキ、最高。これで出来上がりです」
社員一同、大拍手。ハイファイブ。
いや、待ってね、パプリカと阿波踊り、何のつながりがあるの。納得いかないんですけど。
すると、イナバくんが、また訳のわからないことを言った。
「いいじゃないですか、乗りかかったポニョですから」(何のこっちゃ)
しかし、社員一同にはドカンと受けた。
アホとレベルが一緒なのか。
結局、3月初めに催されるススキダの得意先の40周年パーティーで、イナバくんとススキダ、私の3人で阿波踊りを踊ったあと、社員9人のパプリカが披露されることになった。
何で? 阿波踊りは、アワっぽい顔をした他の社員が踊るのがスジでは?
帰り道、イナバくんのメルセデスで送ってもらいながら、私は当然の疑問をアホにぶつけた。
オレ、完全な部外者なのに、何で、阿波踊り、東京タワーなのよ。
「いいじゃないですか、Mさん、乗りかかったポニョですから」
オレは、ポニョにも船にも乗りたくないわ。
船といえば、新型コロナウイルス。
なまえが付いているようだが、忘れた。なまえなんか得意げに付けている場合じゃないよね。
我が家では、マスクは常備物なので、足りないということはない。
プッシュ式のアルコール消毒液も何年も前から常用しているからストックはある。
ただ携帯除菌ティッシュは、完全に店頭から消えているので、これだけは困る。なので、通販で度数50のウォッカを手に入れて、消毒液代わりにしていた。
スプレーボトルに、ウォッカを入れ、ガーゼに吹きかけるのだ。そして、ファスナー付きのビニール袋に入れ携行していた。
それで電車に乗る前に手を拭き拭き。電車を降りたら拭き拭き拭き。仕事の打ち合わせ前に拭き拭き拭き拭き、打ち合わせ後に拭き拭き拭き拭き拭き。
拭き拭き拭き拭き拭きフキ拭き拭き拭き拭き。
そこまでする必要はないだろうよ、という意見は謙虚に受け止めつつ、やめられないんですよね。
私は、自分が世界で2番目に汚い人間だと思っているので、たくさんの菌を持っていると確信している。コロナウイルスは持っていないと思うが、汚いガイコツ菌を他所様に伝染すのは申し訳ない。
自分が伝染らない努力は、もちろん必要だが、伝染さない努力も必要だと思う。
自己満足? 上等ですよ。