2週間前の日曜日、大学時代の2年下の友人カネコの娘・ショウコに3人目のガキが生まれた。
これをブログに載せていいのかを、私は122秒悩んだ。
ショウコは、私のブログをいつもチェックしているのだ。そして、自分に気のくわない内容が載っていたら、次に会ったときに「お仕置き」が待っているという恐怖。
6歳からの合気道歴23年の関節技だ。とても痛い。私は、いつも平気な顔をしているが、とても痛い。イタイんだよ。
ショウコにガキが生まれたのは、とても喜ばしいことだが、ブログを書く場面では、私はいつもお茶目になってしまうという愛すべき癖がある。
お茶目なブログは、合気道女子の関節技のターゲットになりやすい。
だから、載せるのをやめようか、と123秒悩んだ。しかし、よくよく考えると、ガキ誕生を載せないと、ショウコのお怒りに触れて、もっと強い「MAX関節技」をかけられる怖れも否定できない。
結局、最後は関節技だよな。124秒悩んだ私は、覚悟を決めて「ショウコのガキ誕生」を載せることを決心した。
ショウコの旦那は、中学の英語の教師をしていた。今年36歳になる、つまらない男だ。生真面目な牧師と言ったイメージだ。いえいえ、つまらない男では、ございません。とても、誠実な旦那様でございます。
私は、ショウコの旦那マサに、昔こう言ったことがある。
強制はしないが、出産には立ち会ったほうがいい。命が湧き上がる瞬間を見たら、俺はこの子のためなら、なんでもできる、という決心と覚悟が、脳細胞に焼き付けられるんだ。俺の脳は、ヘナチョコで朝食ったものも忘れるくらいだが、その決心と覚悟だけは、未だに焼き付いているよ。
私のお節介な忠告にマサは大きく頷いた。目に決心が宿っていた。
私の友人の中で、出産に立ち会ったやつはいない。私が、立ち会ったよ、というと「正気か。そんなところでカッコつけて何が楽しい」などと呆れられた。
まあ、痴漢の違いってやつだな。「痴漢?」ああ、ごめん、価値観だった。お前の顔を見たら痴漢に見えたもんだから。「・・・・・」
マサにとって幸運だったのは、ガキ全員が日曜日に生まれたことだ。平日だったら、中学の教師が都合よく休むのは難しかっただろう。
マサは、つまらない男だが、つまらない運は「持っている男」のようだ。いえいえ、つまらない男ではございません。理想的な旦那様でございます。
過去2回、ショウコが産気づいたとき、私は八王子の産院の廊下で、芋洗坂係長にしか見えないカネコと待っていた。
今回も産院に駆けつけた。過去2回と違うのは、私の娘も付いてきたことだ。
「ショウコねえの赤ちゃんに会いたい」と以前から心待ちにしていたのだ。
ショウコは、私の子どもたちの面倒をよく見てくれた。ドライブに連れて行ったり、ドライブに連れて行ったり、ドライブに連れて行ってくれたりしたのだ。
特に、娘はショウコに懐いていた。こんな乱暴な女のどこが気に入ったのか知らないが・・・いえ、乱暴ではございません。ただ、力が有り余っているだけでございます。
看護師さんに呼ばれて、マサが神妙な面持ちで、分娩室に入っていった。入る前に、カネコと私、娘に向かってお辞儀をした。周りを気にしすぎる、なんてつまらない男なんだ。いえ、紳士的な旦那様でございます。
20分くらい経ったころだろうか廊下で待っていた私たちのところに看護師さんがやってきた。
「産まれました。女のお子さんです」
その途端、芋洗坂係長にしか見えない紅の豚が両手で顔を覆った。豚の泣く姿は見たくないので、私は左に座っていた娘に、あとで赤ちゃんの顔を見せてもらおうな、と声をかけた。すると、あら不思議。娘も泣いているではないか。
娘は、乃木坂46の齋藤飛鳥さんに69パーセント似た、美しい顔で泣いていた。豚の泣き顔を見なくてよかったと思った。
高田純次師匠に92パーセント似た私は泣かなかった。過去2回は泣いたのだが、娘の手前、ちょっと我慢した。
マサが分娩室から出てきた。すぐに、紅の豚と抱き合った。マサの目にも涙があった。バレーボールで国体に出たことがある細マッチョのマサは、紅の豚の怒涛の寄りにも態勢を崩すことなく、平気な顔で抱き合っていた。
ただ、はたから見ると、紅の豚と細マッチョの抱き合いは、コントにしか見えなかったが。いえいえ、とても感動的なシーンでございました。
病室に移ったショウコと新しいガキとご対面した。
過去2回のように、ショウコに「サトルさん、褒めて褒めて」とおねだりされた。
世界一の母ちゃん、あっぱれであるー! と言って、ショウコの頭を撫で撫でした。
過去2回と同じく、ショウコが泣き出した。
娘もまた泣いた。
私も泣きそうになったが、赤ちゃんの顔を見つめることで、涙をこらえた。
まだ、サルだよなあ・・・・・いえいえ、なんと可愛い赤ちゃんだ。上野樹里さんに68パーセント似たショウコの娘だから、きっと美人になるに違いない。
そんなとき、マサが「先輩、いいですか」と誰にも似ていない顔を私に向けた。
ちなみになぜ「先輩」かというと、マサとショウコは私と同じ大学出身なのである。同じ大学出身だから、私のことを先輩と呼ぶ、この芸のなさは犯罪的につまらないと言える。いえいえ、とても礼儀正しい好青年でございます。
「これは、夏帆ちゃんにも聞いて欲しいんだけど、いいかな」
娘は、泣き顔から立ち直っていなかったが、コクンと頷いた。
つまらない、いえ、生真面目な顔で、マサが話し出した。
「一番目が帆香(ほのか)、二番目が悠帆(ゆうほ)。なんで『帆』にこだわるかというと、夏生まれのショウコが夏が好きだから、自分に子どもができたら、夏とか海に関連した名前をつけようと、若い頃から考えていたんですよ」
その中で、「帆」は一番候補だった。あとは「夏」か「海」、「波」。ただ、身近に、贅沢にもこの中の2つの字を使った生き物がいたのである。
つまり、私の娘だ。ショウコは、私の娘を可愛がってくれた。
その可愛がっている子の名前が、自分がいつか我が娘につけたい名前だったなんて、何という運命のいたずら。
だから、最初の子どもが生まれたとき、ショウコは「夏」はあきらめたという。でも「帆」は使いたい。そこで帆香と付けた。
2人目は男の子。「帆」が2つ続けば、「夏」がなくても、夏を味方にできるのではないかと考えて、「悠帆」と付けた。ちょっと、なに言ってるか、わからない。いえいえ、わかります。ごもっともでございます。
「でもね、ショウコは、実はまだ夏にこだわっているんです。ただ、『夏』を使ったら、夏帆ちゃんと同じです。「夏海(なつみ)」も考えましたが、先日、ショウコの友だちに先を越されてしまいました。そこで、ショウコは考えました。女の子が生まれたら『ナツホ』と名付けようと」
野菜の「菜」にサンズイの「津」。菜津帆だという。
「ねえ、いい? サトルさん、夏帆ちゃん」
ショウコのベッドの横で、つまらないマサが、いえ、誠実感溢れるマサが頭を下げた。
いいも何も、私の娘の名前は、専売特許ではないし、商標登録もしていない。まだ、世界デビューもしていないのだ。しかも、漢字が違うのだから、我々に頭を下げられても困る。
だがもし、気がひけるというのなら、いつでもいいから、八王子の「煮干鰯らーめん 圓」のラーメンを奢ってもらおうか。
いつでもいいから、でも、早いほうがいいかな。
心なしか、ショウコの顔が険しくなった気がする。
いや、それは、産後のお疲れからくるものでございますよね。
よくお休みになられてください。
でも、赤ちゃんのお世話で、しばらくは休めませんよね。
お体をお大事に。赤ちゃんもスクスクとね。
関節技は、来年の正月か?