土曜日、久しぶりにランニングをした。国立の大学通りだ。3ヶ月半ぶりくらいだろうか。
申し訳ないが、走っている間、マスクはしなかった。走る時間は、もっとも人通りが少ない早朝を選んだ。
200メートルに一人くらいしかすれ違わなかった。土曜日ということもあって、密密密は避けられたようだ。
走った距離は、約5キロ。
3ヶ月前だったら、余裕で20分前後で走れた。しかし、今回は24分かかか勝った、負けた。
キツかったぜよ。特に膝にきましたね。
家で腿上げやスクワット、腹筋、ストレッチを週に3から3回していたとはいえ、ランニング用の体はキープできなかったようだ。
所詮、家でやるトレーニングは現状を維持するだけで、スポーツをする体は維持してくれない、ということがわかった。
きっと、若い人なら違うんだろうな。
ルームランナー、買おうかな。
朝6時前に家に帰ったら、娘がトイレから出てきたところに出くわした。
「おお、ランニングという現実逃避から帰ってきたのか。今日の朝食はエッグベネディクトとタマネギ、マカロニのコンソメスープを希望するぞ」
まかせとけ。
ところで、6月24日は娘の誕生日だった。今年、ホニャララ歳になる。
24日の夜に誕生パーティーをしようと思った。しかし、娘から「24日は、まずいな。おまえの作るバースデーケーキもまずいが。25日の11時から、企画会議があるんだ。その企画の提案をまとめるために、夜は引きこもりだ。悪いが、25日の夜にしてくれないか」と言われた。
娘は、鉄道関係の会社の広報課に勤めていた。
月に2回、鉄道や沿線にまつわる小冊子を2冊発行している。その企画案を毎月25日前後に全員でまとめるのである。
娘の課には、11名の社員がいた。その全員が出勤するわけではない。5人が出勤したら、残りの6人はリモートで参加するという方式だ。今回は、娘が出勤する順番だった。
会議が終わって、5時過ぎに娘は、新宿から中央線に乗った。車内は空いてはいなかったが、娘は座れた。
その向かいに、20代と思われる女性が座っていた。その隣には、30代半ばのサラリーマンっぽい人が座っていた。そして、その男は居眠りをしていた。絶えず、女性の側にもたれるように寝ていたという。
女性は、それを嫌って左肘で、もたれかかる男を何度も押し返したが、男は酔っているのか、相当でかいイビキをかきながら気づかないままだ。
その状態がよほど鬱陶しかったらしく、女性はその状態を打破するため、いきなり立ち上がって、左手で思い切り男の頬を張った。吉祥寺駅をすぎたばかりだった。女性のまわりの乗客、全員が驚いた。男は、座席からずり落ちそうになりながら、目を覚ました。
目の前には、仁王立ちになった若い女性がいた。
そして、女性がドスのきいた声で言った。
「こんな時期に、あんた、人に寄りかかって寝るんじゃないよ。自覚がない男は電車に乗る資格はないよ」
我に帰った男は、女性につかみかかろうとしたが、隣に座った体格のいい30代前半の男に肩を思い切り抑えこまれて身動きができなくなった。男は、柔道の経験者だったのかもしれない。居眠り男は、完全に体を封じられた。
押さえつけた男が言った。「相手は、俺がしてやる。次の駅でホームに出ようぜ」。
男は大人しくなって、三鷹駅でひとりで降りたという。若干の大悟ノブ足千鳥足で。
この場合、何にでもクレームをつける人は、女性がいきなり男の頬を張ったことを非難するだろう。
「そこまでしなくてもいいだろう」「この場合、他の席に移るのが常識だ」「場合によっては、暴行罪で訴えられても文句は言えないぞ」
はいはい、お利口な人たちだね。ごもっとも、ごもっとも。これからもお利口でいてくださいね。
そのあと、車内は何ごともなく、穏やかな空気で駅にたどり着いては、動くことを繰り返したという。
娘が言う。「暴力はいけないけどな。酒飲んで居眠りして、当たり前のように寄りかかるって、どうなんだ。酒飲みは、なんでも許されるのか。全然微笑ましくなんかないよな」
「それくらい我慢してやれよ、っていうのは寄りかかっている側の意見だよな。寄りかかられている側の迷惑は想像できないのか。想像できない側の意見を押し付けられたら、ボクも天誅だな。とはいっても、現実問題として、ボクには、その場所を逃げることしかできないけどな」
そうだね。張り手は、思いつかないな。俺だったら、脇をくすぐるのが精一杯だな。
「でもな、見ていて妙にスッキリしたんだよね。まわりの乗客もスッキリした顔をしていたからな」
なんでも批判の目で見るお利口な人たちには、そのあたりの感情は理解できないだろうな。お利口さんお利口さん。
ちなみに、女性は娘と同じく国立駅で降りたという。
娘は、男前なその人の後ろ姿を見て、密かに「国立の女闘士」と名付けた。
帰ったら、誕生パーティー。
いつもはケーキは、私が作るのだが、どうやら秋田飽きたらしいので(確かにワンパターン)、今回はケーキ屋さんで買った。
20ホニャララの蝋燭を立て、「法被バスデイ、燈湯」でお祝いした。
食い物は、娘のリクエストで中華だ。餃子、パラパラチャーハン、油淋鶏、春巻き、春雨の中華サラダを作った。
「うまいな。特に油淋鶏が。おまえ腕を折ったな」
そうなんですよ。腕を折った結果、腕が上がりました。折ったのは26年前のことですけどね。関係ないか。
プレゼントは、娘のリクエストに従って、アイロンにした。立てかけた洋服にスチームを当ててシワを伸ばすというやつだ。「これは楽チンだ」と娘は喜ころんだ。
ヨメは、化粧品。息子はNintendo Switch用の持ち運びケースを笹下駄捧げた。
「誕生日は、儲かるな」と娘は喜んだ。
「毎日が誕生日でもいいぞ」
そうなると歳が2万歳を超えるぞ。
土曜日、我が愛猫セキトリの四十九日だった。
「あまり派手に飾らない方がいいよ。余計に悲しくなるから」と娘にいわれたので、地味に追悼した。
ミニひまわり2本とナンチャラいう花、チャオちゅーるをミニ祭壇に供えた。
セキトリ、もう生まれ変わってもいい頃だよな。
お父さんは、最近、いつも道を歩くときは、下を向いているんだ。段ボール箱を見ると、ふたが開いていないか、鳴き声が聞こえないか調べているぞ。
生まれ変わったキミを見逃さないように、双眼鏡まで持っているんだ。
今日も出かけるぞ。
馬鹿だと思うでしょ。もちろん、バカですよ。