井の頭線に乗っていたときのことだ。
渋谷から吉祥寺へ。
車内は、12時前ということもあってか中途半端な混み方をしていた。
満員というわけではない。
しかし、座席は、ほぼ埋まっていた。
電車が久我山駅に着いた。
そのとき、親子3人連れが、車内に入ってきた。
奥さんが、一つだけ空いた席に、ためらうことなく座った。
旦那さんは、大きな紙袋を3つ手に提げていた。
ボーナスで、楽しいものを買ったと見受けられた。
奥さんは、とても満足そうな顔をしていた。
しかし、そのとき幼い抗議の声が聞こえた。
「ママは、ずるいよ。
ママは、軽いバッグ一つだけど、パパは大きな荷物を3つも持っているんだよ。
座るのは、ママじゃなくて、パパでしょ!」
幼い声の主は、5、6歳くらいの女の子だ。
幼いが、張りのある声で「ずるいよ!」とまた抗議した。
奥さんは、「ゴメンゴメン」とばつが悪そうな顔で、夫に席を譲った。
席をゲットできた夫は、笑いながら「ありがとな」と娘の頭を撫でた。
それは、車内が笑顔になる光景だった。
その光景を見て、我が娘の幼稚園の面接を思い出した。
17年前、娘が4歳のときのことだった。
娘とヨメと私は、面接官の前にいた。
面接官は、園長先生と年輩の先生の二人だった。
当たり障りのないことを聞かれたので、当たり障りのない答えを返した。
娘も、子どもらしい当たり前の答えを返していたと思う。
最後に、園長先生が、娘に聞いた。
「夏帆ちゃんは、お父さんお母さんのことを、どう思いますか?」
これも、まともな問いかけだった。
しかし、このあと娘は、みんなが、ぶっ飛ぶようなことを言ったのだ。
「ママは、パパを、こき使い過ぎです!」
全員の口元が「え」になった。
娘は、かまわずに続けた。
「パパは、仕事もして、料理も作って、洗濯もして、ゴミも出します。買い物にも行きます。
働き過ぎなんです!」
「え」の口から、最初に立ち直ったのは、園長先生だった。
「それで、お母さんは、何をしているの?」
笑顔で聞いた。
「ママは、掃除だけです。
キレイ好きなんです」
そして、大きく息を溜めてから「スッゴク!」と力を込めて言った。
園長先生と年輩の先生は、手を叩いて喜んだ。
しかし、我々夫婦は、蒼白だった。
やっちまった、と思った。
そのときのことを、韓国留学中の娘に、Skypeのビデオ電話で「覚えているか」と聞いてみた。
「覚えているぞい。
あれは、初めて覚えた難しい言葉だったから、使ってみたかったのさ。
ファンキーなガキだったろ?」
ファンキーすぎて、ぶっ飛んだよ。
そして、娘は、こう話を続けた。
「だいぶ前から薄々気づいていたんだけどな・・・。
おまえって、本来はナマケモノだよな」
よくご存知で。
私は、40年前に死んだ祖母のことを今も尊敬していた。
祖母は、若い頃、男尊女卑の時代に、島根県で師範学校の教師をしていた。
とても優秀な教育者だったと聞く。
その優秀な教育者が、私が小学校に上がる前日に、こう言ったのだ。
「あなたは馬鹿で怠け者だから、絶対に休んでは駄目ですよ。
休まなければ、あなたは必ずできます。
いいですね」
馬鹿で怠け者の私は、祖母の言いつけを守った。
学校は休まなかったし、陸上部の練習も仕事も休まなかった。
熱があっても学校に行ったし、練習にも仕事にも行った。
休まなかったおかげで、できることが増えた。
祖母は、正しいことを言ったと思った。
同じように、娘も休まない。
小中高大学と休んだことがない。
アルバイトも休んだことがない。
留学先でも皆勤だ。
39度近い熱があったときも学校に行った。
私が、休めば、と言うと、娘はムキになって「では聞くけどな・・・おまえは熱が出たら休んだか?」と口を尖らせた。
そう言われたら、何も言えない。
「無理をするなよ」と送り出すしかない。
「ボクもおまえも、結局は怠け者なんだよな。
休むのが怖いんだ。
休んだら、ただのクズ人間だからな」
「マミーがおまえをこき使うのは、その辺のことを知っているからだろうな。
こいつは、休ませたら、休みっぱなしになるって思っているんだろう」
たしかに、俺は、クズ人間だな。
納得した。
そうつぶやいたとき、画面に金髪の女の子が顔を出した。
娘のクラスメイトであり、ルームメイトであるブルガリア人だ。
身長181センチのGカップ。
顔は、妖精のように可愛い。
その子が、「KUZU? WHAT?」と娘に聞いた。
「Let's call him KUZU」と、娘が私を指さして答えた。
妖精が、この世の美をすべて集めたような笑顔で「クズ」と言った。
娘も「クズ」。
そして、妖精が「クズ」。
また、娘が「クズ」。
「クズ」の4打席連続ホームランか~い!
しかし、娘と妖精に、クズと言われるなら、私は本望だ。
いつ死んでもいい。
こう思う俺は、本当に「クズ」なのだろうか?
さて、みなさま・・・ハッピー・クリスマス!
(君たちが強く望むなら、争いは終わる)
by ジョン・レノン
渋谷から吉祥寺へ。
車内は、12時前ということもあってか中途半端な混み方をしていた。
満員というわけではない。
しかし、座席は、ほぼ埋まっていた。
電車が久我山駅に着いた。
そのとき、親子3人連れが、車内に入ってきた。
奥さんが、一つだけ空いた席に、ためらうことなく座った。
旦那さんは、大きな紙袋を3つ手に提げていた。
ボーナスで、楽しいものを買ったと見受けられた。
奥さんは、とても満足そうな顔をしていた。
しかし、そのとき幼い抗議の声が聞こえた。
「ママは、ずるいよ。
ママは、軽いバッグ一つだけど、パパは大きな荷物を3つも持っているんだよ。
座るのは、ママじゃなくて、パパでしょ!」
幼い声の主は、5、6歳くらいの女の子だ。
幼いが、張りのある声で「ずるいよ!」とまた抗議した。
奥さんは、「ゴメンゴメン」とばつが悪そうな顔で、夫に席を譲った。
席をゲットできた夫は、笑いながら「ありがとな」と娘の頭を撫でた。
それは、車内が笑顔になる光景だった。
その光景を見て、我が娘の幼稚園の面接を思い出した。
17年前、娘が4歳のときのことだった。
娘とヨメと私は、面接官の前にいた。
面接官は、園長先生と年輩の先生の二人だった。
当たり障りのないことを聞かれたので、当たり障りのない答えを返した。
娘も、子どもらしい当たり前の答えを返していたと思う。
最後に、園長先生が、娘に聞いた。
「夏帆ちゃんは、お父さんお母さんのことを、どう思いますか?」
これも、まともな問いかけだった。
しかし、このあと娘は、みんなが、ぶっ飛ぶようなことを言ったのだ。
「ママは、パパを、こき使い過ぎです!」
全員の口元が「え」になった。
娘は、かまわずに続けた。
「パパは、仕事もして、料理も作って、洗濯もして、ゴミも出します。買い物にも行きます。
働き過ぎなんです!」
「え」の口から、最初に立ち直ったのは、園長先生だった。
「それで、お母さんは、何をしているの?」
笑顔で聞いた。
「ママは、掃除だけです。
キレイ好きなんです」
そして、大きく息を溜めてから「スッゴク!」と力を込めて言った。
園長先生と年輩の先生は、手を叩いて喜んだ。
しかし、我々夫婦は、蒼白だった。
やっちまった、と思った。
そのときのことを、韓国留学中の娘に、Skypeのビデオ電話で「覚えているか」と聞いてみた。
「覚えているぞい。
あれは、初めて覚えた難しい言葉だったから、使ってみたかったのさ。
ファンキーなガキだったろ?」
ファンキーすぎて、ぶっ飛んだよ。
そして、娘は、こう話を続けた。
「だいぶ前から薄々気づいていたんだけどな・・・。
おまえって、本来はナマケモノだよな」
よくご存知で。
私は、40年前に死んだ祖母のことを今も尊敬していた。
祖母は、若い頃、男尊女卑の時代に、島根県で師範学校の教師をしていた。
とても優秀な教育者だったと聞く。
その優秀な教育者が、私が小学校に上がる前日に、こう言ったのだ。
「あなたは馬鹿で怠け者だから、絶対に休んでは駄目ですよ。
休まなければ、あなたは必ずできます。
いいですね」
馬鹿で怠け者の私は、祖母の言いつけを守った。
学校は休まなかったし、陸上部の練習も仕事も休まなかった。
熱があっても学校に行ったし、練習にも仕事にも行った。
休まなかったおかげで、できることが増えた。
祖母は、正しいことを言ったと思った。
同じように、娘も休まない。
小中高大学と休んだことがない。
アルバイトも休んだことがない。
留学先でも皆勤だ。
39度近い熱があったときも学校に行った。
私が、休めば、と言うと、娘はムキになって「では聞くけどな・・・おまえは熱が出たら休んだか?」と口を尖らせた。
そう言われたら、何も言えない。
「無理をするなよ」と送り出すしかない。
「ボクもおまえも、結局は怠け者なんだよな。
休むのが怖いんだ。
休んだら、ただのクズ人間だからな」
「マミーがおまえをこき使うのは、その辺のことを知っているからだろうな。
こいつは、休ませたら、休みっぱなしになるって思っているんだろう」
たしかに、俺は、クズ人間だな。
納得した。
そうつぶやいたとき、画面に金髪の女の子が顔を出した。
娘のクラスメイトであり、ルームメイトであるブルガリア人だ。
身長181センチのGカップ。
顔は、妖精のように可愛い。
その子が、「KUZU? WHAT?」と娘に聞いた。
「Let's call him KUZU」と、娘が私を指さして答えた。
妖精が、この世の美をすべて集めたような笑顔で「クズ」と言った。
娘も「クズ」。
そして、妖精が「クズ」。
また、娘が「クズ」。
「クズ」の4打席連続ホームランか~い!
しかし、娘と妖精に、クズと言われるなら、私は本望だ。
いつ死んでもいい。
こう思う俺は、本当に「クズ」なのだろうか?
さて、みなさま・・・ハッピー・クリスマス!
(君たちが強く望むなら、争いは終わる)
by ジョン・レノン