iPhoneが震えたのでディスプレイを見た。
知らない番号だった。
知らない番号の場合は、出ないようにしている。
しかし、このときは何か感じるものがあったので出た。
大学時代の同級生オノからだった。
オノに関しては、コチラに書いたことがある。
オノは、携帯電話を持っていない。
「彼女のを借りて、かけているんだ」とオノ。
そして、いきなり「結婚の立ち会いをしてもらいたいんだけど」と続けた。
結婚の立ち会い? 結婚式ではなく?
「結婚式なんかする余裕はないよ。婚姻届を出すところを見届けてほしいんだ。ケジメが欲しくてね」
立ち会いなんかしなくても、婚姻届が立派なケジメになると思うが。
「彼女が一人でも祝ってくれる人が欲しいって言うんだ。でも、俺の方には肉親はいないし、いま働いている総菜屋のオヤジさんに頼もうとも思ったけど、負担をかけるような気がしてやめたんだ。すると、マツしか残らなくてね。ダメかい」
めでたいことなので引き受けた。
墨田区役所に、一緒に行って、出すところを見届けた。
ただ、それだけのことだった。
お役所の人に、「おめでとうございます」と言われたパートナーのシズコさんは、涙を隠そうとしなかった。
「絶対に泣くと思ったから、今日はお化粧をしてこなかったんですよ」と面白いことを言った。
オノも泣きそうだった。
婚姻届の立ち会いだけでは素っ気ないと思った私は、二人にご馳走をすることにした。
オノの家で、寿司を振る舞おうと思ったのだ。
出前ではなく、私が握る素人寿司だ。
我が家では、よく寿司を握った。
我が家はビンボーなので、寿司ネタはほとんど野菜だ。ニンジンやエリンギ、カボチャ、パプリカ、カニかまなど。
しかし、今回は奮発して、魚も買ってきた。マグロの赤身、サーモン、ホタテ、オノの大好きなイカ、他に玉子と太巻き寿司を作る。
家でよく作るから、最近は重さ、形、シャリの空気の量をほぼ均一化できるようになった。
あらかじめ、ご飯は炊いておいてもらった。
しかし、完成までには一時間はかかる。だから、散歩ついでに駅前まで行ってきてくれ、とオノに言った。
これが終わったら、帰ってすぐ仕事をしなければならない。だから、ケーキを作る暇がなかった。
来るとき、駅前のケーキ屋にケーキを注文してきたので、それを取ってきてもらおうと思った。
正式な夫婦になってからの初めての散歩も兼ねて。
にぎり寿司は慣れているので、簡単にできた。太巻きは、具は玉子とツナ、カニかま、レタスだ。巻き簾は、おそらくないだろうと思ったので、自宅から持ってきた。
実は巻き寿司は苦手だ。うまく具が中央に寄らない。こんな大事な日に失敗したらケチがつくと思ったので、慎重に巻いた。でも、ちょっとだけ外側に寄った。
申し訳ねえ。
おすましは、素麺があったので、素麺にエノキダケ、三つ葉を入れたものを作った。
出来上がった頃、うまい具合に新婚さんが帰ってきた。
ケーキ入刀。
幸せそうな、そしてはにかんだ二人の笑顔がよかった。
その場面をデジタルカメラで撮って、じゃあ、俺は仕事があるので、と立ち上がった。
「え?」「え?」と二人は、いいリアクションで驚いてくれた。
「新婚さん、食べんしゃーい」と言って、私は消えた。
お幸せに。
さて、私事ですが、ヘモグロビンの数値が11.4まで劇的に回復した。
ですので、これから、娘と娘のお友だちのミーちゃんと東京駅から深夜バスで大阪に行ってきまする。
串カツを食いまくるのだ(ちなみに、串カツは東京でも食えると文句を言う人がいるが、食い物は空気感が大事だ。大阪で食うからこそ、串カツは串カツなのだ。わかんないかなあ)。
ああ、もう楽しみで仕方がない。