なぜ人は「ウンコ」と言うのか。
直接ウンコとは関係ないが、ウンコ的な存在の人を私は知っている。
桶川のイベント企画および広告代理店の「おバカなフクシマさん」だ。
このおバカに関しては、かつてコチラに書いたことがあった。
フクシマさんは、おバカではあるが、繊細なおバカである。東日本大震災のあと、ボランティアで宮城県に赴いたフクシマさんは、その凄惨な様にショックを受け、うつ病になった。
その後、4年前に幸いにも復活して、フクシマさんは「おバカリターンズ」を果たした。
フクシマさんとの仕事では、いつも打ち合わせは20分くらいで終った。普通は、そこでバイバイするのだろうが、我々はここからが長いのだ。
フクシマさんは、「接待ターイム!」と叫んで、私の前に一番搾りの500缶と柿ピーを置くのである。
さらに、それと同時に、ある人物が現れる。女優の麻生久美子さんに似た美人事務員さんだ。
この人は、お美しい顔をしているのに、なぜか会話の中に頻繁に「ウンコ」が出てくる人だ。
母親がロシア人、父親が韓国人。しかし、生まれも育ちも日本なので国籍は日本。
日本語、英語、ロシア語、ハングルを操るマルチリンガルの才女。だが、会話に「ウンコ」。
「この間、日比谷線に乗ったら、目の前でウンコを食べているおじさんがいたんですよ。嘘でしょ! と思いますよね。バッグからメガネを出して確認したら、それはカリントウでしたぁ。紛らわしいったらありゃしない! 地下鉄でカリントウを食べるのは、やめてくれないかしら!」
カリントウをウンコに間違えるのもやめて欲しいと思う。
「うちの柴犬のポーリー。納豆が好きなんですよ。ただ、散歩をしたときにウンコは絶対にしますよね。そのウンコをマジマジと見ると、納豆が消化されずに、丸ごと残っていることがあるんですよね。でも、消化されているときもあるみたいなんですよ。あれって、なんなんでしょうね」
知らんわ。
そんな楽しい会話は、フクシマさんのうつ病とともに消え、麻生久美子似もドサクサに紛れて結婚したから、桶川の得意先がつまらなくなった。
プロとして恥ずかしいことだが、22歳年下のフクシマさんとの友情だけで仕事をいただいていたので、それ以降桶川の会社からの仕事は断っていた。
だが、フクシマさんがリターンズしてすぐ、フクシマさんからお誘いがあった。
「また、仕事しましょうよ」
昔さいたま市に住んでいた頃は、桶川は近かった。10キロ程度の距離だから歩いても行けるはずだ(歩いたことはないが)。
ただ、埼玉から東京に帰ってからは、桶川がとてつもなく遠くなった。東京武蔵野から40キロ以上あるのだ。歩いたら片道10時間はかかる。途中で宿場町の旅籠に泊まらなければならないくらい桶川が遠くなった。
行くだけで丸2日かかりますよ。無理です。私はフクシマさんの申し出を、泣いたふりをして断った。
「では、こういうのは、どうですか。俺の得意先が日本橋にあるんですけど、得意先での打ち合わせのあとに、必ず息抜きにファミレスに寄るんですよ。ここを利用するというのは、どうでしょう。俺が日本橋まで足を運びます。Mさんのところから日本橋まで歩いてどれくらいですか。桶川よりは近いんじゃないですか」
何をバカなことを言っているんですか、フクシマさん。最寄りの武蔵境駅から東京駅までは電車で40分。東京駅から日本橋までは歩いて10分程度。1時間もかからずに行けますよ。歩くわけないでしょう。江戸時代じゃないんだから。
「クッソー、裏切られたぁ!」
金曜日の午後1時、日本橋のファミリーレストランで、フクシマさんと打ち合わせをした。
フクシマさんとの打ち合わせは楽だ。あらかじめパターン化したフォーマットを作ってあるから、クライアントにそれを選んでもらうだけで仕事は終わったも同然。
フライヤー用のフォーマット、フリーペーパー、新聞、雑誌、看板、招待状などを数種類パターン化するまでの準備には時間がかかったが、できてからは楽チンになった。これを採用してから時短になって、納期が圧倒的に早くなった。コストパフォーマンスもいいから、クライアントもお喜びだそうだ。
オーダーメイドもできるが、金と時間がかかるので、見積もりを見た時点で、ほとんどのクライアントが「ああ、フォーマットで」と答えるという。
今回は中古車フェアの看板広告だった。あらかじめパターンを選んでいただいていたので、あとは必要な事項を配置し、マイナーチェンジを施すというだけの仕事だ。
打ち合わせは15分程度で終わった。
そして、「接待ターイム!」。
フクシマさんが叫んだとき、サプライズがあった。
麻生久美子似が、イリュージョンのように、床の下から子どもを連れて姿を現したのだ。子どもは女の子。3歳過ぎだろうか。将来、美人さん決定! の整った顔立ちの女の子だった。
麻生久美子似とは5年ぶりくらいだった。相変わらずお美しい。
10歳以上年の離れた大学教授と結婚したということは、会社を辞めるときに聞いた。きっとお上品な暮らしをしているに違いない。肌ツヤがよく着ているものも質素だが高級感があった。きっと幸せなのだろう。
しかし、その上品なお顔が、「この子のウンコに付き合っていたら疲れちゃって、なんか食べましょうよ」といきなり言うのである。
5年経ってもウンコかい!
娘さんのランちゃんは、パフェを頼み、フクシマさんと麻生久美子似は、和食のセットを頼んだ。私は生ビールとフライドポテト、ソーセージグリルだった。
ランちゃんはパフェを食べながら、お絵かき帳にフニャフニャした絵を真剣に描いていた。
そんな和みモードの中で、フクシマさんが10年近く前に3人で奥多摩に行った小旅行のことを思い出話として言い出した。
フクシマさんの愛車のRVRで、バーベキューをしに奥多摩まで行ったのである。なぜ、そんな展開になったのかは、おバカ3人まったく覚えていない。
ただ、「深緑だから、奥多摩だよね」「奥多摩だったら、バーベキューしかないっしょ」というバカにしか理解できない動機で、奥多摩に行ったのだと思う。
バーベキュー前に、近辺を散策した。
そこで我々は、たまに「熊出没注意」という立て看板と遭遇した。
「クマ怖いじゃないっすか」と怖じ気づくフクシマさん。
そんなフクシマさんを私と麻生久美子似は、おちょくるのだ。
あれ、フクシマさんは確かM治大学文学部クマ語学科の出ですよね。気づきませんでしたか。あの立て看板の裏には、クマ語で「人間出没注意」って書かれているんですよ。だから、クマは怖がって人に近づきませんから。
「あー、気づきませんでした。でも、それなら安心ですね」
そのあとで、麻生久美子似が「蛇に注意」の立て看板を見つけた。
「ああ、でも、大丈夫ですから。いま確認したら、裏にヘビ語で『人間に注意』って書いてありました。ヘビさんも人間には近づかないと思いますよ」
さすがR教大学文学部ヘビ語学科出身。頼りになります。
そんなバカな会話は、我々の間では、当たり前だった。
でも、そのあとで、麻生さんはさらに面白いことを言ったのだ。覚えてますか。
「もちろん、覚えています」
「ヘビはよくトグロを巻くって言いますけど、トグロを巻いたヘビのウンコは、やっぱりトグロを巻いているんでしょうかね、ガハハ」
「そんな感じでしょうか」
正解です。
そんな話をしているとき、パフェを食べていたランちゃんが、パフェのある部分を指差して無邪気に言った。
それは茶色のウエハースだった。
「ねえ、ママ。これの色って、さっきランちゃんがしたウンコの色に似ているよね」
おっそロシア。
「血は争えない」っててててて、やつですかぁーーー。