今年もあとわずか。
年末の最後の最後にやって来た、予期せぬ痛み。
29日に挨拶も兼ねて、静岡の得意先に行ってきた。
得意先との打ち合わせは、1時間もかからずに終わった。
パッケージデザインの仕事が2点とそれぞれの商品説明が裏表2枚、そしてロゴのマイナーチェンジである。
これは、私にとって、それほど得意な分野ではないが、クライアントが、かなり具体的な希望を言ってくれたので、イメージが湧きやすく、ストレスを感じない打ち合わせとなった。
仕事を出すとき、クライアントによっては曖昧なことしか言わず、「~の雰囲気で、~的な感じで」という人がよくいて、こういう人に限って、出来上がりを持っていくと「なんか、違うんだよねえ。イメージが、なんかねえ」などと言うのである。
「俺が言いたかったのは、違うイメージだったんだけどねえ」
そう言いながら、また抽象論で、話をまとめようとする。
私が具体的な部分を突っ込んで聞くと、「いや、その辺は察してよ」などと言うのである。
クライアント様は、神様なので、これ以上は言いませんが・・・・・。
しかし、今回はやりやすそうだ。
確実に、クライアントと私のイメージが一致している。
いいクライアント様だ。
だから、気分は、いつになく軽い。
ハミングが出そうなほどだった。
その勢いで、私は、静岡に住む友人のチャーシューデブ・スガ君の事務所に行こうとした。
だが、にぎやかな商店街を歩いているとき、急に私の右腹が痛み出したのだ。
刺すような痛み、というのとは少し違う。
胃の右側に、何か細いものが刺さっているようだが、痛み自体は刺すようなものではなく、胃を長さ20センチのメスのような金属で固定されたような痛みである。
胃の右側が固定されているから、体を折り曲げることができず、しゃがむこともできない、体をひねることもできない、それは、私にとって、初めて体験する痛みだった。
痛いからといって、脂汗が出るわけではない。
気分が悪いわけでもない。
ただ、右腹が固定されて、痛いのである。
昨晩は、自家製ピザと、カボチャと緑黄色野菜のコンソメスープ、それにカニかま、トマト、レタスのサラダだった。
これは、問題ないメニューだと思うし、今日は道端で拾い食いもしていない。
なぜ、腹が痛むのか、理解できない。
息はできる。
大きく息を吸っても、腹は痛まない。
しかし、上半身が動かせないという不思議な現象。
もしかして、何かに、呪われたか。
昨日、アパートの駐輪場で、間違って踏んでしまった季節外れのゴキブリの呪いか。
それとも、友だちから借りたものの10ページ読んで飽きてしまった「池上彰の学べるニュース1」の呪いか。
あるいは、SUIKAでボールペンを買おうとして、「いや、やっぱり現金で払います」と言い直したとき、マジで睨んできた売店のオバさんの呪いか。
それくらいしか、私は呪われることはしていないと思うのだが・・・・・。
しかし、その呪いが合体して、私に天罰を下している可能性はある。
罪深い男だ・・・・・私は。
などと言っている場合ではなく・・・・・痛い!
のた打ち回るほどではないが、とにかく痛い。
幸いなことに、足は動かせるので、私は不自然に上半身を立てたまま、足を出来損ないのロボットのように動かして、商店街を歩いた。
所々にベンチがあるので、座りたいのだが、立つときの痛さを考えたら、座るのが怖い。
どうしたらいいんだ、俺?
7秒ほど考え、スガ君に事情を言って、迎えに来てもらうというのが一番いい、という結論に至った。
iPhoneをポケットから出し、スガ君の携帯に電話をした(この動作は、痛くなかった)。
4コールで、スガ君が出た。
私は、何者かに体を固定されたような呪縛に絡め取られながら、かろうじて言った。
助けてくれ、胃が痛いんだ。
「イ・・・ガイタイ?」
いや、スガ君。
胃が、い・た・い。
「イ・・・ガ・・・イ・・・タイ? タイ?」
スガ君。
俺は、今ここで君とコントをしようとは思っていないんだ。
コントは、またの機会にしてくれないか。
だから・・・・・、
「とにかく、迎えに来やがれ!」
怒鳴った。
私は、怒鳴りながら自分のいる場所を告げ、両手で右腹を押さえながら、デブが来るのを待った。
デブは、メルセデスでやってきた。
「どうしたんですか。Mさん」
だから、胃が痛いんだよ。
両手で右の腹を押さえた私の姿を見て、スガ君は、やっと納得したようだ。
「ああ、胃が痛いんですか?」
私は、そう言ったつもりだが。
聞き間違いようのない日本語が、なぜ理解できないのか?
とうとう豚に成り上がったか。
「いやいや、Mさん。豚には成り上がれませんよ。ゼッタイに」
まだ、コントをしようというのか、君は。
とにかく、メルセデスに乗せろ。
「あのー、お言葉を返すようですが、ベンツなのでは?」
これは、メルセデスでは、ないのか?
「メルセデス・ベンツです」
だから、コントはいいから、俺を助けてくれ。
上半身を立てた状態のまま、私は宇宙遊泳をするシャトルの乗組員のような動作で、後部座席に座った。
右腹を固定している「何か」は、まだ私の自由を奪っていた。
私の中で、不安が増幅していった。
これは、なにか悪い病気なのではないだろうか。
たとえば・・・・・・・、口にするのも恐ろしいような。
スガ君が、運転しながら私に話しかけてきたが、私はまったく聞いていなかった。
両手で右腹を押さえながら、喉元をせり上がってくる不安と戦うことで精一杯だったからだ。
スガ君の事務所に着いた。
彼は、3階建てマンションの一室を借りて、看板を掲げていた。
そして、そのマンションの3階には、スガ君の住まいがあった。
事務所は1階の1LDK。
そこは、応接セットや書棚がモデルルームのように配列されていて、清潔感を感じる空間だった。
部屋に入るなり、スガ君が言った。
「Mさん、お昼はどうしましょうか。もう1時を過ぎてますけど」
スガ君。
俺は、胃が痛いんだよ。
昼メシどころでは、ないんだ。
常識で、考えてみてくれないかな。
そう抗議したとき、応接セットのテーブルの真ん中に竹編みのバスケットが置いてあるのが見えた。
底には、紙ナプキンが敷いてあって、その上にコロッケが山盛りになっていた。
その山盛りのデザインが、なぜか私の食欲を誘った。
胃が痛いのに、なぜ食欲が・・・・・?
私は、ソファに座り、左手で胃を押さえたまま、右手でコロッケを手に取った。
迷うことなく、口に運んだ。
それは、コロッケではなく、メンチカツだった。
それも、噛むたびに肉汁が出るほどのジューシーなメンチカツだった。
「それ、近所の肉屋で売っているメンチカツなんですけど、美味しいでしょ。俺、小腹が空いたときに、10個ぐらい軽くいっちゃいますから」
小腹が空いて10個というのは常識外だが、確かに美味い。
噛んだときの味は濃厚だが、あとを引かない上品さがある。
私は、立て続けに2個食っていた。
そして、うめえな、これ、と言いながら、スガ君に、ビールを要求した。
そんな私に、スガ君が言った。
「Mさん、胃が痛かったんじゃ・・・」
そう言われて、私は真面目に考えてみた。
今日は、静岡に行くために、朝早く家を出た。
朝メシを抜いていた。
そして、思い返してみれば、昨日作った自家製ピザは、家族プラス居候に大変好評で、私はピザを食うことができず、コンソメスープだけで終わっていたのだ。
そして、今日、昼メシ時。
あまりに腹が減りすぎて、私の胃に、今までにない症状が出たということ(それほどまでに腹が減るのは、私にしては珍しいことだったので、気づかなかったのだ)。
それが、不可解な胃痛の真相だった。
メンチカツのほかに、食い物はないかい?
「お赤飯とフランクフルトくらいしか、ありませんけど」
じゃあ、それをいただこうか。
「いや、それより、外で何か食べましょうよ」
いま食べたいの!
いま食べなきゃ、死んじゃうの!
ということで、お赤飯のパックとフランクフルト2本を食いながら、エビスビールを2本飲んだ私の胃は、何の痛みを訴えることもなく、4回連続のゲップを繰り返し、満足の意思表示をしたのでした。
めでたし、めでたし・・・・・・。
そして、良いお年を。
年末の最後の最後にやって来た、予期せぬ痛み。
29日に挨拶も兼ねて、静岡の得意先に行ってきた。
得意先との打ち合わせは、1時間もかからずに終わった。
パッケージデザインの仕事が2点とそれぞれの商品説明が裏表2枚、そしてロゴのマイナーチェンジである。
これは、私にとって、それほど得意な分野ではないが、クライアントが、かなり具体的な希望を言ってくれたので、イメージが湧きやすく、ストレスを感じない打ち合わせとなった。
仕事を出すとき、クライアントによっては曖昧なことしか言わず、「~の雰囲気で、~的な感じで」という人がよくいて、こういう人に限って、出来上がりを持っていくと「なんか、違うんだよねえ。イメージが、なんかねえ」などと言うのである。
「俺が言いたかったのは、違うイメージだったんだけどねえ」
そう言いながら、また抽象論で、話をまとめようとする。
私が具体的な部分を突っ込んで聞くと、「いや、その辺は察してよ」などと言うのである。
クライアント様は、神様なので、これ以上は言いませんが・・・・・。
しかし、今回はやりやすそうだ。
確実に、クライアントと私のイメージが一致している。
いいクライアント様だ。
だから、気分は、いつになく軽い。
ハミングが出そうなほどだった。
その勢いで、私は、静岡に住む友人のチャーシューデブ・スガ君の事務所に行こうとした。
だが、にぎやかな商店街を歩いているとき、急に私の右腹が痛み出したのだ。
刺すような痛み、というのとは少し違う。
胃の右側に、何か細いものが刺さっているようだが、痛み自体は刺すようなものではなく、胃を長さ20センチのメスのような金属で固定されたような痛みである。
胃の右側が固定されているから、体を折り曲げることができず、しゃがむこともできない、体をひねることもできない、それは、私にとって、初めて体験する痛みだった。
痛いからといって、脂汗が出るわけではない。
気分が悪いわけでもない。
ただ、右腹が固定されて、痛いのである。
昨晩は、自家製ピザと、カボチャと緑黄色野菜のコンソメスープ、それにカニかま、トマト、レタスのサラダだった。
これは、問題ないメニューだと思うし、今日は道端で拾い食いもしていない。
なぜ、腹が痛むのか、理解できない。
息はできる。
大きく息を吸っても、腹は痛まない。
しかし、上半身が動かせないという不思議な現象。
もしかして、何かに、呪われたか。
昨日、アパートの駐輪場で、間違って踏んでしまった季節外れのゴキブリの呪いか。
それとも、友だちから借りたものの10ページ読んで飽きてしまった「池上彰の学べるニュース1」の呪いか。
あるいは、SUIKAでボールペンを買おうとして、「いや、やっぱり現金で払います」と言い直したとき、マジで睨んできた売店のオバさんの呪いか。
それくらいしか、私は呪われることはしていないと思うのだが・・・・・。
しかし、その呪いが合体して、私に天罰を下している可能性はある。
罪深い男だ・・・・・私は。
などと言っている場合ではなく・・・・・痛い!
のた打ち回るほどではないが、とにかく痛い。
幸いなことに、足は動かせるので、私は不自然に上半身を立てたまま、足を出来損ないのロボットのように動かして、商店街を歩いた。
所々にベンチがあるので、座りたいのだが、立つときの痛さを考えたら、座るのが怖い。
どうしたらいいんだ、俺?
7秒ほど考え、スガ君に事情を言って、迎えに来てもらうというのが一番いい、という結論に至った。
iPhoneをポケットから出し、スガ君の携帯に電話をした(この動作は、痛くなかった)。
4コールで、スガ君が出た。
私は、何者かに体を固定されたような呪縛に絡め取られながら、かろうじて言った。
助けてくれ、胃が痛いんだ。
「イ・・・ガイタイ?」
いや、スガ君。
胃が、い・た・い。
「イ・・・ガ・・・イ・・・タイ? タイ?」
スガ君。
俺は、今ここで君とコントをしようとは思っていないんだ。
コントは、またの機会にしてくれないか。
だから・・・・・、
「とにかく、迎えに来やがれ!」
怒鳴った。
私は、怒鳴りながら自分のいる場所を告げ、両手で右腹を押さえながら、デブが来るのを待った。
デブは、メルセデスでやってきた。
「どうしたんですか。Mさん」
だから、胃が痛いんだよ。
両手で右の腹を押さえた私の姿を見て、スガ君は、やっと納得したようだ。
「ああ、胃が痛いんですか?」
私は、そう言ったつもりだが。
聞き間違いようのない日本語が、なぜ理解できないのか?
とうとう豚に成り上がったか。
「いやいや、Mさん。豚には成り上がれませんよ。ゼッタイに」
まだ、コントをしようというのか、君は。
とにかく、メルセデスに乗せろ。
「あのー、お言葉を返すようですが、ベンツなのでは?」
これは、メルセデスでは、ないのか?
「メルセデス・ベンツです」
だから、コントはいいから、俺を助けてくれ。
上半身を立てた状態のまま、私は宇宙遊泳をするシャトルの乗組員のような動作で、後部座席に座った。
右腹を固定している「何か」は、まだ私の自由を奪っていた。
私の中で、不安が増幅していった。
これは、なにか悪い病気なのではないだろうか。
たとえば・・・・・・・、口にするのも恐ろしいような。
スガ君が、運転しながら私に話しかけてきたが、私はまったく聞いていなかった。
両手で右腹を押さえながら、喉元をせり上がってくる不安と戦うことで精一杯だったからだ。
スガ君の事務所に着いた。
彼は、3階建てマンションの一室を借りて、看板を掲げていた。
そして、そのマンションの3階には、スガ君の住まいがあった。
事務所は1階の1LDK。
そこは、応接セットや書棚がモデルルームのように配列されていて、清潔感を感じる空間だった。
部屋に入るなり、スガ君が言った。
「Mさん、お昼はどうしましょうか。もう1時を過ぎてますけど」
スガ君。
俺は、胃が痛いんだよ。
昼メシどころでは、ないんだ。
常識で、考えてみてくれないかな。
そう抗議したとき、応接セットのテーブルの真ん中に竹編みのバスケットが置いてあるのが見えた。
底には、紙ナプキンが敷いてあって、その上にコロッケが山盛りになっていた。
その山盛りのデザインが、なぜか私の食欲を誘った。
胃が痛いのに、なぜ食欲が・・・・・?
私は、ソファに座り、左手で胃を押さえたまま、右手でコロッケを手に取った。
迷うことなく、口に運んだ。
それは、コロッケではなく、メンチカツだった。
それも、噛むたびに肉汁が出るほどのジューシーなメンチカツだった。
「それ、近所の肉屋で売っているメンチカツなんですけど、美味しいでしょ。俺、小腹が空いたときに、10個ぐらい軽くいっちゃいますから」
小腹が空いて10個というのは常識外だが、確かに美味い。
噛んだときの味は濃厚だが、あとを引かない上品さがある。
私は、立て続けに2個食っていた。
そして、うめえな、これ、と言いながら、スガ君に、ビールを要求した。
そんな私に、スガ君が言った。
「Mさん、胃が痛かったんじゃ・・・」
そう言われて、私は真面目に考えてみた。
今日は、静岡に行くために、朝早く家を出た。
朝メシを抜いていた。
そして、思い返してみれば、昨日作った自家製ピザは、家族プラス居候に大変好評で、私はピザを食うことができず、コンソメスープだけで終わっていたのだ。
そして、今日、昼メシ時。
あまりに腹が減りすぎて、私の胃に、今までにない症状が出たということ(それほどまでに腹が減るのは、私にしては珍しいことだったので、気づかなかったのだ)。
それが、不可解な胃痛の真相だった。
メンチカツのほかに、食い物はないかい?
「お赤飯とフランクフルトくらいしか、ありませんけど」
じゃあ、それをいただこうか。
「いや、それより、外で何か食べましょうよ」
いま食べたいの!
いま食べなきゃ、死んじゃうの!
ということで、お赤飯のパックとフランクフルト2本を食いながら、エビスビールを2本飲んだ私の胃は、何の痛みを訴えることもなく、4回連続のゲップを繰り返し、満足の意思表示をしたのでした。
めでたし、めでたし・・・・・・。
そして、良いお年を。