5月29日 テレビ朝日「グッド!モーニング」 池上彰のニュース検定
スペイン風邪は日本国内でも数多くの犠牲者を出した。
その中でも注目されたのはこのふたりである。
劇作家の島村抱月(1871-1918)と
女優の松井須磨子(1886-1919)である。
ふたりともスペイン風邪の犠牲になったわけではない。
亡くなったのは島村抱月だけだった。
人々の関心を集めたのは
島村抱月の死んだ2か月後に
松井須磨子が後追い自殺をしたからである。
ふたりは当時もっとも有名な不倫カップルだったのである。
島村抱月は著名な劇作家だった。
妻子があったにもかかわらず
自らが目をかけた女優 松井須磨子と同棲していた。
そして須磨子は抱月が手がけた舞台で人気が急上昇する。
とりわけ
トルストイの小説をもとに抱月が舞台化した「復活」で
須磨子が歌う「カチューシャの唄」が人々の心をとらえた。
レコードが発売され
累計で2万枚売れたのである。
日本で初めての“ヒット曲”と言われている。
その島村抱月と松井須磨子の運命を狂わせたのがスペイン風邪だった。
実は最初にかかったのは須磨子である。
1918年(大正7年)10月末のことだった。
抱月は熱にうなされる須磨子を看病したことでスペイン風邪に感染したのである。
抱月は47歳
須磨子は32歳だった。
須磨子はその後回復するが
抱月はわずか数日で亡くなった。
スペイン風邪は
発症してから数日で呼吸困難になり死亡するケースが多くあったのである。
感染力が強く
看病する家族や医師が次々と感染した。
こうしたなか
有名カップルの悲劇が
国民にスペイン風邪の恐ろしさを改めて知らしめたのである。