2021年6月2日 読売新聞「編集手帳」
病院のベッドの広さは約2平方メートルだという。
脳神経の難病を患う札幌市の小学5年、
前田海音(みおん)さんの闘病記が絵本『二平方メートルの世界で』(小学館)になった。
3歳から大学病院への入退院を繰り返している。
「もういや」
「一日でいいから薬を飲まなくていい日をください」…
多くの言葉をベッドの上でのみこんできた。
<入院のため休みをもらわなければならない母も、
仕事であまり面会に来られない父も、
一人ですごさなければいけない兄も言葉をのみこんでいる。
本当の気持ちを言ってしまったら…
もうがんばれなくなる気がして>
絵本作家・はたこうしろうさんとの作業は去年秋に始まった。
3年生時の作文が原案となる。
それを読んだ編集者が出版を依頼したところ、
「病と生きる仲間がいること、
いたこと、
を代表して伝えられるなら」と手紙が届いたという。
感染の猛威のなかの病院で、
人助けに奔走したのは医師や看護師ばかりではなかったらしい。
巻末近くに花にとまるチョウを見つめ、
つぶやく場面がある。
<生きていることのすばらしさは気づきにくいということを、
私は知っている>