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ベルリンの壁崩壊30年 人口流出に悩むルーマニア

2019-12-05 07:00:00 | 報道/ニュース

11月8日 NHKBS1「国際報道2019」


1989年11月9日
アメリカなど西側陣営と旧ソビエトなど東側陣営による東西冷戦の象徴
「ベルリンの壁」に民衆が押し寄せた。
自由や統合を求める人々は
それまで立ちはだかってきた壁を破壊。
そのうねりは東ヨーロッパ各国で共産党政権の崩壊をもたらし
東西冷戦は終結した。
その後
東側諸国は経済成長を果たし
相次いでEUに加盟。
しかし今新たな問題に直面している。

ルーマニアではベルリンの壁の崩壊をきっかけに
独裁的なチャウシェスク政権の打倒を目指す激しい抗議運動が巻き起こった。
そして壁が崩壊した翌月
チャウシェスク大統領夫妻は処刑され
独裁に終止符が打たれた。
ヨーロッパではその4年後の1993年
EU(ヨーロッパ連合)が発足。
東側諸国も相次いで加盟し
経済成長を遂げたルーマニアも2007年に加わった。
ところが今そのルーマニアで人口の流出が深刻になっている。
30年前のチャウシェスク時代に比べて国の人口が15%余も減ったという統計もある。
ベルリンの壁の崩壊がルーマニアに何をもたらしたのか。

ルーマニアの首都ブカレストの中心にそびえる巨大な「国民の館」。
かつてチャウシェスク大統領が宮殿として使うために建てさせた。
今その隣に巨大な教会の建設が進められている。
国民の館に匹敵する存在感を放つ
高さ120mの教会。
政治への影響を強めるルーマニア正教会との関係を重視する政府が
国の一大事業として建設している。
しかし多くの国民は
教会の建設に巨額の税金を投入するより医療や教育に予算を回してほしい
と不満を募らせている。
(市民)
「全くの無駄金だわ。
 ルーマニアにとって意味がない。」
「国の進む方向は間違っている。
 まるで泥棒みたいだ。」
ルーマニアはベルリンの壁崩壊後も汚職が蔓延し
大規模な抗議デモが繰り返し起きている。
EU加盟後も西側諸国との経済格差は埋まらず
国民1人あたりのGDPはEU平均の約3分の1。
EUの最貧国の1つと言われている。
さらにEU域内での移動の自由は
皮肉にも賃金が高く社会制度などが充実している
西側諸国への人材の流出を後押しする形となっている。
30年前 約2,300万人だった人口は
現在1,900万人台にまで減っている。
運送会社で働くクリステアさん(31)。
給料が2倍近いオーストリアでの働き口を求めて面接を重ねている。
(クリステアさん)
「また警官への賄賂の話か。
 この国はこんなのばかりだ。」
ルーマニアには汚職やいわゆるコネ採用などが蔓延し
将来への希望が見いだせないという。
(クリステアさん)
「他の国に行くと人々は落ち着いて幸せそうだが
 ルーマニアはみんなピリピリしている。
 国外で普通の生活がしたい。」
ルーマニアを出ていく人の3分の2が30歳以下の若者だとみられている。
深刻な影響を受けているのが農村部である。
ブカレストから約400キロ北のボティザ村。
かつて盛んだった石炭産業や林業が衰退。
働き盛りの若者は西側諸国に出稼ぎに行くため村を離れた。
「若者は他の国に行っている。
 残っているもののほとんどは老人だ。」
ペトレウッシュさん(50)。
夫はイタリアに
子どもたちもイギリスやドイツなどで出稼ぎをしている。
娘に代わって孫の面倒を見るのが日課である。
国を支えるはずの若者が次々と国を離れてしまう現状に
ペトレウッシュさんは不安を募らせている。
(ペトレウッシュさん)
「ここでは仕事もなく
 若者たちが何もできない。
 EU加盟時は生活が良くなると思ったが
 今はそんな希望はないわ。
 チャウシェスクの時代の方がまだましだったわ。」
人口問題を調べているNGOは
こうした空洞化は国の停滞をもたらしていると指摘する。
(NGO代表 カリストルさん)
「ルーマニアの人口減少は大変深刻で
 特に労働力人口の3割が国外に出ている。
 経済成長や発展が妨げられてしまっている。」
特に深刻なのが専門知識や技術のある人材の流出である。
ブカレストの病院に勤める医師のキルクレスクさん。
かつて率いた手術チームの医師の半分がイギリスやドイツなどに去ってしまったという。
西側諸国では10倍以上の収入が得られるケースもあり
若い医師たちがルーマニアを離れる大きな要因になっている。
(医師 キルクレスクさん)
「ルーマニアの病院には医師が半分しかいない。
 誰が治療を行なえばいいのか。
 EUはルーマニアが育てた医師を奪い取っていく。」

ルーマニアでは人々が望んだ自由を手にした結果
国民が流出し
国歌が危機に立たされている現状がある。
EUもこうした域内の格差を是正するため
東側諸国を中心に分担金を重点的に配分し経済の支援にあたっている。
またルーマニア政府も危機感を強めている。
11月に発足した暫定政権は
まず汚職対策を重視する姿勢を強調し
社会を変えようと乗り出している。
医療現場についても
政府は一昨年 医師の給与の大幅値上げに踏み切った。
ただルーマニアでは今も1日に6人の医師が国外に去ろうとしているという推計もあって
人材の流出は依然として大きな課題となっている。
ウィーンの研究所による
ヨーロッパの人口動態の変化を表した地図を見ると
ルーマニアだけでなく東側諸国の多くの国が人口減少に直面し
東西の格差が一目瞭然となっている。
ベルリンの壁が亡くなって30年がたっても
東西ヨーロッパの間にはこの見えない壁が残っていると言える。
東側諸国にある西側に対して抱いている不信感や劣等感ともいえる感情。
西側は“自分たちこそヨーロッパの主流だ”と思っていて
東側のことは“新参者”あるいは“植民地”とみなしているという声が聞かれる。
こうした反動からいまルーマニアの隣国ハンガリーでは
EU批判を前面に掲げる政権が議会の3分の2を占め圧倒的な権力を誇るなど
反EUへの支持が広がっている。
30年前に自由と繁栄を夢見て実現したベルリンの壁の崩壊。
しかしヨーロッパの在り方への不信感は根強く
理想の統合の実現は道半ばとなっている。


 


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