3月24日 NHK海外ネットワーク
いま映画はCGや3Dが全盛の時代。
高度な技術を駆使してどんな映像表現も可能になった。
その映画界を驚かせたのが今年のアカデミー賞。
白黒で音声のないサイレント映画が
作品賞など5部門を受賞したのである。
監督
「サイレント映画には今の映画にはない魅力がある。」
サイレント映画が盛んだったのは1920年代。
その時代の映画が持つ独特の魅力。
アカデミー賞をサイレント映画が受賞したのは
第1回以来じつに83年ぶりのこと。
受賞作品には映画がもつ独特の表現方法がいっぱい詰まっている。
『アーティスト』
舞台は1920年代末のアメリカ。
ハリウッドの大スターとスターの会談を駆け上るヒロイン。
映画の主流が
サイレント(無声映画)からトーキー(発声映画)に移っていく時代の
ロマンスが描かれている。
CGや3Dが全盛の時代になぜサイレント映画をを撮ろうとしたのか。
ミシェル・アザナヴィシウス監督(仏)
「映像と俳優の演技と古典的なストーリー。
映画のいちばん根源的なものを追求したことが
観客を感動させたのだと思っています。」
監督がこだわったのは
1920年代に盛んだったサイレント映画の手法を再現することだった。
大胆な構図や
白黒の光と影、
セリフに頼らず登場人物のしぐさで心のうちを描く。
時代は1929年、世界大恐慌を迎える。
サイレント映画が落ち目となっていた主人公は財産を失う。
間とっくは主人公の没落振りをあらわすため
サイレントの手法を使った。
「人気があるときは
タキシードに真っ白のシャツをあわせて
コントラストをはっきりさせ存在感を高めました。
落ち目になってくると
背景もグレー、彼の服もグレーにして
背景に彼が埋没しているというふうにしたんです。」
効果的に使われたのが階段。
階段を下りる男性と
駆け上がる女性がすれ違う場面。
ふたりの立場が逆転していくことを暗示している。
スターの座に上っていく女性はつねに階段を勢いよく駆け上がる。
一方、男性は主演映画もヒットせず落ち目の階段を下っていく。
これがサイレント映画の魅力である。
「セリフを聞くのではなく
映像を見ていればわかるような映画に仕上げたのです。」
およそ100年も前に花開いたサイレント映画の表現手法。
6万4,000本余の映画のフィルムが収蔵されている場所
サイレント映画に魅せられた一人
東京国立近代美術館 フィルムセンター主任研究員 岡田秀則さん
「『アーティスト』という映画は83年ぶりにサイレント映画として
アカデミー賞を受賞したが
第1回 83年前の受賞作がこちら航空映画で『つばさ』。」
リンドバーグが大西洋を横断した1927年に撮影されたこの映画
航空機が注目された時代に迫力ある空中戦を見事に描いた。
岡田秀則さん
「現在、私たちが見ている映画は
無声(サイレント)映画の遺産の上に立っているということができる。
言葉 セリフ無しで物語や登場人物の感情まで表現できるような
演出技法を編み出してきた。」
岡田さんは『アーティスト』のクライマックスシーンにひとつに注目した。
「“後の救出劇”アメリカの無声映画で非常に良く使われる
“Last Minute Rescue”と言うが
二人の動きを交互に見せるときの編集のリズム 呼吸
そういったところにサスペンスを作りだす要素がある。」
映画には
サイレントからトーキーに変わる時代のスターへの深い愛情もうかがえる。
フレッド・アステアとジンジャー・ロジャース。
「無声映画にはひとをこうふんさせたり
喜ばせたりする技法が詰まっている。
いろんな技術が発達したが
そこに映画の面白みが感じられることを再発見してくれたと思う。」