12月19日 読売新聞「編集手帳」
寅次郎
「バカヤロウ、
あのお嬢さんがラーメンなんか作るかい、
てめえの考えは貧しいからいけねえよ」――
『続 男はつらいよ』のセリフから引いた。
説教の相手は寺男の源公である。
「そいじゃ何作るんだよ」と聞くが、
寅さんにこう言わせるところが脚本の妙手だろう。
「きまってるじゃねえか、
スパゲッチーよ」
考えが貧しいからいけねえよ…
言葉がきついようで迷ったものの、
選手の気持ちを代弁するかに思い、
引用させていただく。
日本陸連が東京五輪の100メートル、
200メートルの代表選考について原則どちらか1種目と提案した問題である。
金メダルをめざす男子400メートルリレーの負担軽減が目的という。
けがや疲労を防ぎメダル奪取に確実を期す考えだが、
100、
200の両方に執念を燃やすサニブラウン・ハキーム選手からは困惑の声が聞かれる。
寅さんには次のセリフもある。
「貧しいねえ、
きみたちは。
二言目には金だ。
金なんてなくったっていいじゃないか、
美しい愛さえあれば」
(『寅次郎の休日』)。
つい、
金をきんと読んでしまう。
競技を見守る人の多くはスポーツへの愛情派で、
成果主義ではないだろう。