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ちょっと浮世離れした人物を演じて、 余人の遠く及ばぬ芝居を見せてくれた人

2014-08-31 07:15:00 | 編集手帳

8月28日 編集手帳

 

知り合って間もない男女が、
喫茶店で会話を交わす。
男性が尋ねた。
「おいくつですか?」。
戸惑いつつ、
女性が答えた。
「26です」

「に、にじゅうろくッ!」。
男性が驚愕(きょうがく)した顔で叫んだ。
店内の目が一斉に二人に向く。
男性の手には砂糖をすくったスプーンが。
「あッ、二つ…」。
女性が消え入りそうな声で言った。

40年ほど前のテレビドラマで、
題名は記憶にない。
「26」もウロ憶(おぼ)えである。
北海道小樽市を舞台にした一話完結の物語で山田洋次さんの脚本だったこと、
男性を米倉斉加年(まさかね)さ んが演じたことは覚えている。

純粋で、
不器用で、
晴朗で、
ちょっと浮世離れした人物を演じて、
余人の遠く及ばぬ芝居を見せてくれた人である。
米倉さんが80歳で急逝した。
大河ドラマ『三姉妹』の中村半次郎。
同じく『勝海舟』の佐久間象山。
舞台『放浪記』の白坂五郎。
味のある役者がまた一人、
消えた。

はる か昔の、
コント風の一場面をもって偲(しの)ぶことが、
晩年はとくに深みのある演技で観客を魅了した人を悼むのに適当かどうかは知らない。
きのうは気がつくと何度か、
雪景色の小樽にある幻の喫茶店にいた。


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