2021年3月3日 読売新聞「編集手帳」
絵本の魅力を文章にするのはむずかしい。
ただしタイトルをここに示すだけで、
みなさんを深呼吸に誘えそうな荒井良二さんの作品がある。
『あさになったので まどをあけますよ』(偕成社)
1、2ページ目に山々の稜線の連なる風景が描かれ、
窓からの視線の持ち主である男の子のつぶやきが添えられている。
<やまは
やっぱり
そこにいて
きは
やっぱり
ここにいる
だから
ぼくは
ここがすき>
次ページからは街に住む子、
川や海の見える場所に住む子に視点を変えるが、
どの風景も「だから…ここがすき」と子供たちのことばで結ばれる。
荒井さんは東日本大震災を意識して描いたそうだが、
日常を突如奪われたいまの子供たちにも通じる視点だろう。
去年のいまごろは学校の一斉休校が始まったばかりで、
混乱の極みにいた。
かれこれ1年を経て日常をどれほど取り戻せたかと考えると、
忸怩(じくじ)たる思いがふくらむ。
朝が訪れて、
何を心配することなく窓を開けられる状態にはまだないだろう。
きょうはコロナ禍に迎える2回目の桃の節句。
地球が太陽を1周したかと思うと、
大人として胸が痛い。