11月27日 読売新聞「編集手帳」
その虫の名は変遷をたどってきた。
平安期はアクタムシかツノムシ、
信長・秀吉の時代はアブラムシと呼ばれ、
江戸時代に入ると、
ゴキカブリという名が登場する。
ああ、
だんだんと近づいてきた。
ゴキカブリは、
木製のお椀「御器」に「かぶりつく」の意である。
そこから「カ」が抜け落ちたのは一説に、
日本昆虫学の祖・松村松年が、
明治期に出版した学術書に誤記したことに始まるといわれる。
令和を迎えた今日この頃では、
名を口にするのも嫌な人は「G」と呼んでいる。。
その虫についてイメージを覆す報に接した。
法政大や鹿児島大などの研究チームが南西諸島で、
光沢のあるメタリックブルーの体を持つ新種2種を発見したという。
青く光り輝きながら、
すばしっこく家具のすき間に逃げ込む、
壁をよじ登る、
羽を瞬(またた)かせて飛ぶ――
少し想像するだけで自然界の奥行きを感じる。
巣ごもりの奨励された時期が過ぎた頃、
時事川柳欄(大阪版)に載った句を思い出す。
<ゴキブリが来る定刻の定位置に 山本啓>。
警察用語でいえば、
張り込みだろう。
家にいる時間が長いほど会うことも増えそうである。