9月29日 NHK海外ネットワーク
仏教徒が国民の9割以上を占めるタイでは
僧侶は人々から尊敬を集めている。
最近は肥満という悩みを抱えている僧侶が急増している。
バンコク近郊ノンタブリ県の僧侶パイラットさん(41)。
朝の托鉢に次々と差し出されるお布施の食べ物は
かつては質素な家庭料理が中心だったが
暮らしが豊かになり
お菓子や屋台の肉料理などカロリーの高いものが増えている。
「ココナッツミルク入りのカレーをお布施しました。
托鉢用に売られているんです。」
集まったものはすべて食べるのが原則だがとても食べきれる量ではない。
可能な限り食べ続けた結果
パイラットさんは13年で50キロも太った。
最近は高血圧と糖尿病にも悩まされている。
(パイラットさん)
「いただいたものは食べないと信者もがっかりするので
たくさん食べるしかない。」
週末にはさらに大量の食事が待ち受けている。
大勢の信者が肉や揚げ物などたくさんの料理を寺院に持ち寄るのである。
僧侶が食べることで
亡くなった先祖や家族が食べたことになると信じられている。
「亡くなった子どもと両親のためにお布施をしました。」
「おいしい料理ばかり持っていくせいで
お坊さんの血圧やコレステロールが高くなったと聞きます。
でもやっぱりいいものを持っていきたいんです。」
最近の調査ではタイの僧侶の半数近くが肥満に悩んでいることが分かった。
肥満は日々の修行に影響を及ぼすまでになっている。
パイラットさんは膝を十分に曲げられないため
お経を読むときはいつもいちばん後ろで足をくずす。
(パイラットさん)
「よくないとわかっているがしかたがない。」
僧侶の肥満は大きな社会問題としてテレビや新聞で繰り返し取り上げられている。
今月も名高い寺院の僧侶がテレビに出演し食べ方に注文をつけた。
「肥満にならないよう
脂肪の多いもの甘いものは控えましょう。」
バンコクにある僧侶専門の病院は新たな肥満対策に乗り出した。
今年5月からダイエットの講習会を始めた。
パイラットさんも参加した。
タイの僧侶は威厳を保つため戒律で運動が禁止されている。
ジョギングもエアロビクスも許されない。
ストレッチでダイエットに挑戦する。
講習会のあとパイラットさんは肉や揚げ物を
野菜と米中心の食事に変更した。
食後は人目につかない部屋の中でのストレッチが日課になった。
托鉢では歩数計を身に着け
歩く距離を1キロから3キロに延ばした。
ダイエットを始めて3か月で10キロの減量に成功した。
しかしまだ体重は130キロ
ウエストは100センチ以上ある。
(パイラットさん)
「以前は托鉢のあと膝が痛くて2~3日休んだが今は平気。
体が健康ならあちこち出かけて托鉢もできる。
張りのある声でお経も読める。
僧侶として長く活動していきたい。」
昔も今も国民の心の支えであり続けるタイの僧侶。
食べきれないほどのお布施と
厳しい戒律の中で
健康な体を取り戻すための取り組みが続いている。