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井上康生監督の涙

2020-03-26 07:00:00 | 編集手帳

2月29日 読売新聞「編集手帳」


 詩人の吉野弘さんには、
漢字に着想した作品も多い。
「目」という一字について、
姿形から次のように書いている。

<目に表裏はない
 裏返されて逆さにされて、
 目が回っても!
 とかく、
 心は、
 見たものを見ないと言い
 見ないものを見たと言うが
 目は、
 目それ自身に正直だ>
(「目」の見方)

選考に際して、
誰よりも厳しい目を持たねばならなかった人だろう。
東京五輪柔道の男子代表選手を発表した井上康生監督である。
異例の記者会見になった。
まず口にしたのは、
代表の座を得た者の名ではない。
夢破れた選手の名前だった。

「これまでの選考大会を思い浮かべると、
 ぎりぎりで落ちた選手の顔しか浮かばない。
 永山、橋本、海老沼、藤原、長沢、村尾、飯田、羽賀、影浦…
 すべてをかけてここまで戦ってくれた」。
一人ひとりを丁寧に読み上げ、
途中で何度も声を詰まらせた。
五輪の畳を踏めなくなった彼らも、
監督の目に浮かんだ涙を生涯忘れまい。

努力する中から一人を選ぶなど、
自分にも心を隠さなければ、
辛(つら)くてできない作業なのかもしれない。
でも、
いい場所を選んで広げて見せてくれた。

 


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