2月22日 NHK海外ネットワーク
去年 アカデミー賞作品賞に輝いたのは19世紀アメリカの黒人奴隷の悲劇を描いた映画だったが
今年も人種差別の問題を扱った「セルマ」がノミネートされた。
1960年代 キング牧師と共に差別撤廃を求める公民権運動に取り組んだ黒人たちの姿を描いた作品である。
あれから半世紀。
なぜ今この映画がアメリカで注目を集めているのか。
アメリカで公開中の映画「セルマ」。
1965年 公民権運動の指導者 マーチン・ルーサー・キング牧師に率いられた住民たちが
人種差別の撤廃を求めて立ちあがる。
警察の激しい暴力に会いながらも運動を続ける様子が描かれている。
(映画を見た人)
「心を揺さぶられた。
自分も何かしなくてはという気持ちにさせられた。」
「住民たちは驚くべきことを達成した。
キング牧師の理想と精神は素晴らしい。」
映画の舞台となった南部アラバマ州の町 セルマ。
50年前に自由と平等を求めて多くの人が渡った橋はアメリカの公民権運動を象徴する場所として知られている。
50年前 投票権を求める黒人の住民600人が約85キロ離れた州都モンゴメリーに向けて歩き始めた。
(警察官)
「更新を続けると身に危険が及ぶぞ。
速やかに解散し家に帰れ。」
参加者たちが橋を渡ったとき行く手には警官隊が立ちはだかった。
激しい暴力の様子は全米に放送され人種差別撤廃を求める大きな流れにつながった。
行進の参加者は最終的には2万5,000人に膨らみ
この年 投票権法が成立。
2月 当時デモ行進に参加した人たちが出発点となった教会に集まった。
公民権運動での功績をたたえられ連邦議会から表彰を受けたのである。
その1人 ジョアン・ブランドさん(61)は11歳の時に姉とともに更新した。
セルマで育ったジョアンさんは人種差別を肌身で感じてきた。
幼い頃病気になった母親をなくしていた。
運ばれた病院で“黒人用の血液は無い”と言われ
輸血による治療が間に合わなかったのである。
(ジョアン・ブランドさん)
「不当に扱われていることはずっとわかっていた。
改善されているが完全に白人と同じ条件ではない。
だから私たちは今でも苦労している。」
ジョアンさんにとって去年 人種を巡る問題をあらためて痛感させられる出来事があった。
ミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人の少年が白人の警察官に射殺され
11月に警察官が不起訴になったのである。
この決定に抗議する動きは全米中に広がった。
(ジョアン・ブランドさん)
「ファーガソンの事件は長年の問題が注目されたきっかけにすぎない。
誰でも犠牲者になり得る。」
いまも残る差別をなくしていきたい。
ジョアンさんは50年前のことを伝えようと若者たちに語る活動に長年取り組んできた。
やってきたのはキング牧師の功績をたたえる石碑の前。
キング牧師が残した“I habe a dream”という有名なスピーチ。
キング牧師が亡くなった後に建てられたこの石碑には
“I had a dream(わたしには夢があった)”と過去形で刻まれていた。
しかし「平等な社会を目指したキング牧師の夢はまだかなっていない」と憤るジョアンさん。
若者たちにはキング牧師の夢を引き継ぎ
社会を変えていってほしいと考えている。
「あなたならなんて書く?」
「今も夢がある」
「それは私たちの夢」
「あなたたちが変えていかなければならない。
きっとできる。」
さらに公民権運動の象徴となった橋を若者たちに渡ってもらった。
(参加した高校生)
「自分が何かを変えることが出来るきがしてきた。
ここで学んだことをみんなに伝えたい。」
(ジョアン・ブランドさん)
「若者たちがしっかりと受け止めてどうあるべきかを考えてくれるでしょう。
彼らが次の世代のためにより良い世界を作ってくれることを望む。」
多くのアメリカ人が求めた自由で平等な社会の実現。
アメリカはそこにたどり着けたのか。
50年という節目にあらためて問われている。