secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

リーサル・ウェポン(V)

2009-01-06 21:22:03 | 映画(ら)
評価点:80点/1987年/アメリカ

監督:リチャード・ドナー

時空間をつかさどる二人の刑事、現る!

麻薬捜査課のマーチン・リッグス(メル・ギブソン)は、妻を交通事故で亡くし
絶望し、毎朝自殺するため拳銃を口にくわえる日々が続いてた。
ある日、麻薬中毒者が屋上のビルから飛び下りるという事件がおこる。
当初自殺だと考えられたこの死は、麻薬に薬が混入されていて、飛び下りなくても女は死んでいたことが分かる。
殺人課のマータフ(ダニー・グローバー)は、50歳の誕生日を迎えた次の日、精神的に不安定なリッグスと、この事件を担当することになる。
マータフは、死んだ女がかつてのベトナム戦争の親友であることを知る。

人気シリーズの記念すべき第一弾。
メル・ギブソンは、このシリーズの爆発的なヒットにより、「マッド・マックス」で得た人気と地位を不動のものにした。
僕も大好きな映画の一つ。
何度見てもメル・ギブソンが銃を口にくわえるシーンは迫力がある。

異色の刑事コンビが事件を解決する、という映画でも典型的な作品である。
もちろん、この作品はそれだけの映画ではない。
ただ面白い取り合わせ、というだけではなく、
笑えないはずのシリアスさがそこに流れている。
二人のコンビは一見、何も考えていないような、おバカな行動に走る刑事二人組みに見える。
しかし、重すぎるシリアスな面を持っているため、そのほかの異色コンビものとは違う魅力があるのだ。

▼以下はネタバレあり▼

シリーズに共通しているのは、マータフが周囲の人が巻き込まれた事件に参加し、
リッグスは自身の過去を克服するために事件を解決する、という型である。

リッグスは、妻の死をひきずり、ネガティブな心理状態にある。
非人間的な荒野のトラックに住み、毎朝死ぬために銃に弾丸を込める。
ベトナムで活躍した元特殊部隊の彼は、仕事を死に物狂いでこなし、死と隣りあわせで生きていくことで、なんとか「生」にしがみついている。
しかし、彼は毎朝死んだ妻の写真を見て呟く。
「すぐに君のところに行くからね」と。

そんなリッグスは、事件を解決することで、過去と決別する。
事件が起こり、そして事件の前後で自己を変化させるのが、こうした刑事もの映画の典型であるとするならば、リッグスは、事件を解決することで、自分をとらえている過去に一つの決着をつけるのである。

事件の犯人の一人に、元特殊部隊の男がいる。
そのヨシュアは、リッグスにとって仮想の過去の自分である。
ヨシュアを倒し、物語のラストでリッグスは妻に生きることを誓う。
いつも込めていた死ぬための弾丸を、マータフに贈るのは、彼がネガティブな「死」ではなく、ポジティブな「生」を見詰めはじめたからである。

だから、リッグスはヨシュアをただ逮捕するだけでは駄目だ。
戦って亡霊を供養しなければ、リッグスにとって「事件」は解決しない。
終盤、マータフの庭で他の警察官を抑えてでも、彼は元特殊部隊の男と対決しなければならなかったのだ。
それは、アメリカのベトナムの失敗を払拭するための象徴的なシーンという見方もできるだろう。

過去にとらわれていたリッグスは、ここでようやく決別し、前に進むことができる。
マータフとのやりとりでは爆笑もののユーモアを発揮する男も、このような非常に暗い一面を持ち合わせることで、キャラクターが多面的になり「人間」的になり、観客が容易に感情移入することができるようになる。
射撃の腕が恐ろしくよく、豪快でかっこよいというヒーローは、観客の誰からも愛される。

対するマータフは、周囲の人や知人が事件に巻き込まれることで、事件解決への意思を強くする。
事件の発端となった娼婦は、かつてベトナム戦争での恩人である。
また、彼の娘がさらわれることで、事件解決が困難になり、そしてマータフは怒りをあらわにする。

マータフがいつも部下や家族に囲まれているのは、それを演出するための手段であり、伏線となっている。
マータフは、自分の周りの人が傷つくのが許せないのである。
年齢のせいで体力が落ち、射撃もリッグスに劣る。
ちょっと頭の回転も悪い。
しかし、情に厚く、仲間や家族を大切にする彼の周りには、いつも人が絶えない。
そんな彼のキャラクターも観客が嫌いになるはずがない。

マータフが、社会性をつかさどるとすれば、リッグスは、歴史性をつかさどっている。
マータフは、今の仲間達を大切にし、リッグスは、これまで生きてきた過去から、未来への希望を見出す。
この二人は縦軸の空間と横軸の時空を象徴することによって、時空間を二人が補い合うことになる。
この二人が、馬があいつつ、しかも個性的なのは、そのためである。

実際、刑事ものやアクション映画としては、事件の真相や敵の組織構成など、少し分かりにくく、説明不足な面もある。
しかし、この映画はそれでいい。
なぜなら、彼らの活躍を描いた、彼らの物語なのだから。

リッグスは、この記念すべき一作目で、過去と決別することができた。
しかし、問題はまだ残されている。
妻の死をどう乗り越えるか、という「過去」である。
それは、「リーサルウェポン2」まで待たなければならない。

(2004/11/13執筆)

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