この曲にまつわる裏話はあまりにも有名でしょう。
エリック・クラプトンが、親友ジョージ・ハリスンの妻パティに恋をしてしまい、その苦しい胸の内をさらけ出したのが「いとしのレイラ」です。
もともとは、インド文化に傾倒して、自分を省みてくれなくなったジョージに嫉妬させようと、パティの方からエリックに近づいていったようです。最初はいろいろと相談にのっていたエリックですが、そのうち自分が本気で親友の妻であるパティに恋をしてしまった、というわけです。
パティ・ボイド
この一件でジョージとエリックは仲違いしたかというと、そうでもなさそうです。ドラッグに溺れるエリックを再生させようと、ジョージはこの後もいろいろ力を貸していたみたいですし、だいぶ後のことになりますが、エリックが息子を失って落ち込んでいた時には、エリックを自分のツアー・バンドの一員に加え、立ち直るきっかけを作ってやっています。
もしかして、その時にはすでにジョージは、パティに対する関心をすっかり失っていたのかもしれません。またはインドの文化・宗教に妻以上の価値を見出していたのかもしれません。だからジョージは、パティが誰と付き合おうが全く意に介さなかったのでしょうか。あるいは、エリックとジョージの絆はそんなことでは揺るがないほど固いものだったのでしょうか。
しかし、親友の妻に横恋慕したその気持ちを曲にして、世間に発表しようとする気持ちに共感できない人も多いと思います。きっと作家がスキャンダラスな私小説を書くのと同じで、それがミュージシャンの業というものなのでしょう。
左からエリック・クラプトン、ボビー・ウィットロック、ジム・ゴードン、カール・レイドル
曲は、あまりにも有名なギター・リフで始まります。ヴォーカルが入る直前に転調するのがとても印象的。思いのたけを吐き出すかのようなエリックのヴォーカルは悲痛でさえあります。途中からのデュアン・オールマンによる、すすり泣くようなスライド・ギターのソロは、まるで聴く者の胸をかきむしるかのようです。
曲の後半を彩るのは、ボビー・ウィットロックによる、温かみのあるピアノです。嵐の過ぎ去った後の穏やかさのようなピアノです。そのピアノをバックに、エリックとデュアンがソウルフルなツイン・リード・ギターを聴かせてくれます。
エリック・クラプトン デュアン・オールマン
さて、「レイラ」の後半のピアノ部分は、実はリタ・クーリッジのペンによるものだった、という話があります。ある音楽誌に掲載されたインタビューによると、リタにも「ドミノスに参加しないか」という話があったため、アルバム用の曲の候補として、ドミノスの面々に「Time」という曲を聴かせました。しかし、ドミノス加入の話は立ち消えとなりました。その後、突然ラジオから自分の作った「Time」が「レイラ」の一部となって流れてきたので、リタはとても驚いたということです。もちろんリタは作曲者としてクレジットされていないし、印税なども手にしてはいません。
「いとしのレイラ」のシングル・ヴァージョンは後半部がカットされており、1970年に発表した時はそれほど高い評価を得られたわけではありませんでした。のちロング・ヴァージョンが発表された時に、全米10位のヒットを記録しています。
近年では、三菱自動車のCMに使われていたので、耳馴染みのある人も多いと思います。
「レイラ」は、今でもエリックのライヴでは、ハイライト曲としてひんぱんに演奏されているようです。
デレク&ザ・ドミノスのファースト・アルバム『いとしのレイラ』(1970年)
[歌 詞]
[大 意]
孤独を感じた時あなたは何をしてるんだろう 一人ぼっちでいるんだろう?
逃げ回り長いこと隠れて過ごしてる ただ愚かなプライドのためだけに
※レイラ あなたの前に膝まづく
レイラ お願いだ 愛しい人よ
レイラ 愛しい人よ あなたは私の心の苦しみをやわらげてはくれない※
あなたの夫が失望させた時 私はあなたを慰めようとした
愚か者のように恋に落ち 私の全世界はひっくり返ってしまった
※~※Repeat
私の気が狂ってしまう前に この状況を何とかしてくれ
あきらめてるだなんて言わないで そして虚ろに響く愛の言葉を私にくれ
※~※Repeat
Layla(Derek & The Dominos : original)
Layla(Eric Clapton : Live Aid 1985)
■いとしのレイラ/Layla
■歌・演奏
デレク&ザ・ドミノス/Derek & the Dominos
■シングル・リリース
1971年
■作詞・作曲
エリック・クラプトン/Eric Clapton、ジム・ゴードン/Jim Gordon
■プロデュース
トム・ダウド/Tom Dowd、デレク&ザ・ドミノス/Derek & the Dominos
■デレク&ザ・ドミノス(Derek & the Dominos)
エリック・クラプトン/Eric Clapton (guitar,vocal)
カール・レイドル/Carl Radle (bass)
ジム・ゴードン/Jim Gordon (drums)
ボビー・ウィットロック/Bobby Whitlock (piano,keyboard,guitar,vocal)
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デュアン・オールマン(Duane Allmas : guitar)
■チャート最高位
1971年週間チャート アメリカ(ビルボード)51位、日本8位
1972年週間チャート アメリカ(ビルボード)10位、イギリス7位
1971年年間チャート 日本75位
1972年年間チャート アメリカ(ビルボード)60位
ビートルズがデビューして45年になります。すたれるどころか、今なお新たなファンを獲得し続けている偉大なグループです。
ご他聞にもれず、ぼくもビートルズのファンです。ぼくがビートルズを知ったのは、彼らが解散してから後のことなので、リアル・タイムでの興奮とか懐かしさはありません。けれども、一枚一枚とそろえていったレコードやCDのひとつひとつに何らかの思い出のようなものはあります。
そんな訳で、今日は「私的ビートルズ・ナンバー ベスト20」と題したエントリーを書いてみたいと思います。
ちなみに、ビートルズが解散するまでに録音・発表した曲は、別テイクも含めて計236曲。うちオリジナルが199曲、カヴァーが31曲、ジョージ・マーティンのペンによるサウンド・トラックが6曲です。
⑳キャント・バイ・ミー・ラヴ
『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』収録
★中学時代に同級生だった仲良しのハルミちゃんは、なぜか時々いきなり「愛はお金では買えないよ~(^^)」とニッコリして言っていました。確かに。
⑲ひとりぼっちのあいつ(ノウヒア・マン)
『ラバー・ソウル』収録
★アカペラで始まるのが良いな~、と思っていました。この曲はコーラスが好きです。エンディングでひときわ高く入ってくるポールのヴォーカルも好き。
⑱サヴォイ・トラッフル
『ザ・ビートルズ』収録
★ジョージの曲ですね。エリック・クラプトンが歯痛に悩まされているのを面白がって作ったとか。テナー・サックス4本、バリトン・サックス2本のホーン・アレンジがかなりカッコいい。
⑰フロム・ミー・トゥ・ユー
『パスト・マスターズVol.1』収録
★ジョンとポールが「ニュー・ミュージカル・エキスプレス」紙の読者コーナー、「From You To Us」からヒントを得て作りました。ジョンのハーモニカと当時斬新に聴こえたコード進行が好きです。
⑯ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ
『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』収録
★頭文字がLSDとなるところから、ドラッグ・ソングだ、とも言われましたが、ジョンが息子のジュリアンの書いた絵からインスピレーションを得て作ったのが本当です。現実から切り離されて不思議な世界へ連れて行かれる気がする曲です。
⑮ゲット・バック
『パスト・マスターズVol.2』収録
★シングル盤の方のテイクです。先にアルバム「レット・イット・ビー」を買いました。まさかシングルとはテイク違いだとは思わなかったので、わざわざシングル盤も買わなければなりませんでした。乏しい小遣いだったので少しショック。
⑭ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス
『ザ・ビートルズ』収録
★中間部のギター・ソロがエリック・クラプトンによるものだというのは有名な話ですね。マイナー調とメジャー調を行ったりきたりするのがとても印象に残りました。ジョージの歌も哀愁感があって良いですね。
⑬ハロー・グッドバイ
『マジカル・ミステリー・ツアー』収録
★とってもポップな、ポールらしい作品です。覚え易くてメロディーはキャッチー。ポールは今でもライヴのオープニングでこの曲を歌ったりしていますね。
⑫ヒア・カムズ・ザ・サン
『アビイ・ロード』収録
★ぼくはこの曲を聴いてジョージが好きになりました。ソフト・ロックの名曲だと思います。ジョージはこの曲をエリック・クラプトンの家の庭で作ったそうです。
⑪ドント・レット・ミー・ダウン
『パスト・マスターズVol.2』収録
★シングル「ゲット・バック」のB面でした。ジョンのソウルフルなヴォーカルにはシビれます。ビリー・プレストンのピアノも味があっていいですね。
⑩抱きしめたい(アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド)
『パスト・マスターズVol.1』収録
☆ぼくが初めて本格的に熱中したビートルズの曲がこれです。アメリカ、日本でのビートルズのデビュー曲。ゴスペルの手法を使ったとも言われるメロディーと、ジョンとポールのハーモニーに夢中になりました。
⑨恋を抱きしめよう(ウィ・キャン・ワーク・イット・アウト)
『パスト・マスターズVol.2』収録
☆クレジットは「レノン&マッカートニー」ですが、ジョージも作曲に協力しています。サビの部分での2拍3連符がとても印象に残ります。なんとなくそれまでのビートルズと作風が違ってきたのかな、と思いました。
⑧イエスタデイ
『4人はアイドル』収録
☆ポールがヴォーカルとギターで参加しているだけ。バックの弦楽四重奏はジョージ・マーティンのアイデア。中学の音楽の授業で唯一聴くことのできたポピュラー・ソングがこの曲でした。永遠の名曲ですね。
⑦イン・マイ・ライフ
『ラバー・ソウル』収録
☆ジョンが、故郷のリバプールのペニー・レーンに思いを託して書いた曲。間奏部分のピアノがとてもステキです。これはポールの「エリザベス朝風のピアノを弾いてほしい」という要望に応じてジョージ・マーティンが弾いたんだそうです。
⑥トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ
『リヴォルヴァー』収録
☆リンゴが刻むビート、ジョンのフリーキーな、読経のようなヴォーカル、テープ操作による大胆なサウンド・エフェクトなど、「サイケデリック」としかいいようのない曲です。初めて聴いた時は全く良さが分かりませんでしたが、今ではトリップしたい時に聴きます。
⑤ア・デイ・イン・ザ・ライフ
『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』収録
☆新聞に記載されていた記事をヒントにジョンが作った曲です。この曲も実にシュール。これもドラッグ・ソングと捉えて放送禁止の処分をとった局もあったそうです。交響楽団の起用はポールの案によるもの。彼はほんとうにアイデア・マンですね。
④ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー
『マジカル・ミステリー・ツアー』収録
☆ジョンが子供の頃よく遊んだ孤児院「ストロベリー・フィールド」へ思いを馳せて書いた曲です。とても幻想的で、アイデアに満ちたアレンジが気に入ってます。いったんフェイド・アウトしながら、再びフェイド・インしてくるところなど、異次元の世界を垣間見たような気にさせられます。
③オー! ダーリン
『アビイ・ロード』収録
☆ポールによるロッカ・バラードの逸品。豪快にシャウトするポールの歌声がとてもソウルフルです。アフター・ビートの効いたギターのカッティングがとてもシブくてカッコいい。ジョンが「自分が歌いたかった」と言いましたが、それほど魅力のある曲なんですね。
②ヘイ・ジュード
『パスト・マスターズVol.2』収録
☆ビートルズ最大のヒット・ナンバーがポールの書いたこの曲です。起伏に富んだメロディーはほんとうに美しい。後半のリフレイン部分では、ゴスペル・タッチでオブリガード風に入れるポールのシャウトがたっぷり聴けます。7分以上もある、当時としては珍しく長い曲ですが、その7分間があっという間に過ぎて行きます。
①レット・イット・ビー
『パスト・マスターズVol.2』収録
☆ぼくが初めて聴いたビートルズの曲。小4の時だったかな。ゴスペル風のポールのピアノが鳴っている中、友人の部屋の窓から真っ赤な夕陽が見えたのが強く印象に残っています。この時聴いたのがいわゆる「青盤」。のちにアルバム「レット・イット・ビー」を買った時に、初めてテイクが違うのに気づいてガッカリ。これもやはりシングルを買い直しました。
いざ「ベスト20」のリストを考えるとなると、次々に「あれも入れたい」「これも入れたい」という曲が出てきて、結構悩みました。
「シー・ラヴズ・ユー」「サムシング」「オブラディ・オブラダ」「オール・マイ・ラヴィング」「ミッシェル」「レディ・マドンナ」「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」etc・・・。
でも、こういうのを考えるってとても楽しかったりします。今度は誰のベスト20を作ってみようかな~
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今日はどういうわけか、「コジカナツル3」、それもその中の「『マイ・バック・ペイジズ』を聴きたい病」にかかってるらしく、このアルバム、この曲ばっかり聴いてます。
それで、今日は以前に書いた記事をアレンジして再録することにしました。
「手抜き」とか言わないでね(^^;)。
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今日は「コジカナツル」のサード・アルバム、聴きまくりましたよ。
いや~、「期待を裏切らない」と言おうか、「期待にたがわず」と言おうか、とにかく相変わらずのヤンチャな大人が繰り広げる熱くてヤンチャな演奏に、大マンゾクです!
今回は、ゲストととして多田誠司(サックス)がフィーチャーされています。
また、2曲目の「カンタロープ・アイランド」のみ、TOKU(フリューゲルホルン)が参加しています。
彼らの奥行きの深さ、スケールの大きさに、改めて驚嘆します。
ピアノの小島良喜のプレイ、まるで尽きることのなく湧き出る泉のようですし、鶴谷智生のドラミングは、打楽器の範疇には収まりきれないような色鮮やかなものです。それを金澤英明が深みのある安定感バツグンのベースで包み込んでいます。
ゲストは多田誠司、TOKU。
このふたり、懐の深いコジカナツルの三人に支えられ、安心して自由奔放にブロウしているのがまた楽しい。
「コジカナツル・ワールド」の面白さ楽しさ、もうぼくはほとんどトリコになっているのかも。
ジャンルの垣根なんか超越した、素晴らしいユニットです。
このアルバムの9曲目に収められた「マイ・バック・ペイジズ」の演奏の凄まじいこと!
無私無欲、己を燃やし尽くすことだけに力を注いだ、神がかったような素晴らしい演奏です。
この曲に浸っていると、きれいなものや胸を打たれるものを見たり聴いたりした時に、「素直にそれに感動できる自分」になれる気がするんです。
「マイ・バック・ペイジズ」は、もともとはボブ・ディランの作品で、彼の4枚目のアルバム、「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」(1964年)に収録されています。
「あの時のぼくはずっと年寄りだった。今のぼくははあの時よりずっと若い」と歌っている曲です。とても抽象的かつ難解な歌詞で、自己批判的なものも含まれているようです。
ディランは、アコースティック・ギターだけをバックに、自分をさらけ出し、訴えかけるように歌っています。
ボブ・ディラン キース・ジャレット
「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」 「サムホエア・ビフォー」
原曲はトラッド・フォーク風の3拍子ですが、バーズが8ビートのフォーク・ロックとしてカヴァーしています。これを多少リハモナイズ(原曲のコード進行の再編)し、ゴスペル・ロック調にアレンジして演奏したのが、キース・ジャレットです。アルバム「サムホエア・ビフォー」(1968年)の1曲目に収められています。
コジカナツルの「マイ・バック・ペイジズ」は、このキース・ジャレット・ヴァージョンを踏襲しているようですが、キースが内省的に、ロマンティックに演奏しているのに対し、コジカナツルは、よりブルージーに、よりロック色を強めていて、外に向けて膨大な力を発しているかのような、実にエネルギッシュな演奏を展開しています。
「コジカナツル3」のライナーによると、この曲は、アルバム・レコーディング2日目の最後に録音されたそうです。それまでの録音作業でかなり疲れていた状態での演奏だったようですが、そんなことを微塵も感じさせない、異様な熱気をはらんでいます。三人それぞれが、自分の持てるものをとにかく楽器に注ぎ込むことだけに集中しているかのような、凄まじい演奏です。ほとんど無我の境地に近いものがあるんじゃないかな。そんな気さえするのです。
イントロはベースの金澤英明によるルバートでのソロです。最初の一音から、ふくよかで、深みのある音色に心を揺さぶられます。テーマをモチーフにしたこのソロは、金澤氏の心象風景を見ているようでもあります。すでにもうこのへんで泣けそうになるもんなあ。素晴らしいです、金澤氏。
インテンポになると、引き続きベースがテーマのメロディーを弾きます。そっと寄り添うように小島良喜のピアノがバックで鳴っている。そのままピアノがテーマを引き継ぐと、それを鶴谷智生のドラムが力強く盛り立てる。
左から金澤英明、鶴谷智生、小島良喜 (写真提供『ひげ』さん)
小島氏のピアノ・ソロが、これまた素晴らしい。ブルージーで、パワフルで、しかもとってもメロディック。そのうえ、えも言われぬ優しさにあふれている。とにかく「愛」が一杯に詰まっているような、そんなソロなんです。
バックで支えるベースとドラムは、よりグルーヴィーに、より激しさを増してゆきます。揺るがぬビートで低音をしっかりと支えながらサウンド全体を包み込んでいる金澤氏のベース、燃え盛っている内面があふれ出して止まらないかのような鶴谷氏のドラム。
この三人が一体となって頂点を目指し、突き進んで行くのです。興奮しないワケがない。やんちゃだけれど骨っぽい、そんな三者の息の合った様子は爽快感にあふれ、感動的でさえあります。
「魂がこもっている」、というのは、こんな演奏のことを言うのでしょう。
「名演」と言われているものは数多くありますが、近年では、コジカナツルのこの演奏も文句なしの名演だと言えるのではないでしょうか。
今日のぼくの心は、この演奏を聴きたがってやまないのです。
◆マイ・バック・ペイジズ/My Back Pages
■発表
1964年
■作詞・作曲
ボブ・ディラン/Bob Dylan
■演奏
[コジカナツル]
小島良喜(piano)
金澤英明(bass)
鶴谷智生 (drums)
■収録アルバム
コジカナツル3 (2005年)
■プロデュース
コジカナツル
ホテルのラウンジで演奏していた時がありました。毎週金・土曜の夜です。
ラウンジ側の要望で、演奏するのは主にスタンダード・ジャズでした。
時間は1セット30分で、8時から、9時から、10時から、11時からの4ステージです。
演奏時間は、1セット30分なので、曲数にすると5~6曲になります。
編成はピアノ・トリオ。
ピアノさんもぼくも、スタンダード曲が入った譜面帳を持っているので、「次、『枯葉』ね」とか「次、『ミスティ』ね」という風に、だいたいその場で曲を決めていました。
演奏中にリクエストを頂くこともあります。
お客さんによっては「『兄弟船』をやってくれ」なーんてリクエストもあって、そんな時は「申し訳ありませんが、ジャズのステージですので」、とラウンジのスタッフが丁重にお断りをする場合もあります。
でも、だいたいの方は、よく知られているジャズの曲とか、ビートルズ・ナンバーなどをリクエストして下さいます。
ある夜のことです。
演奏中に、ラウンジのスタッフがステージに近づいてきて、そっとリクエスト・カードを置いていきました。
取り合えず演奏を終わらせてカードを見ました。
6枚ありました。
すると、なんと、カード6枚全てに「サマータイム」と書かれていたのです。(複数の曲をリクエストして下さった方もいらっしゃいましたが)
夏の夜だっただけに、「サマータイム」のリクエストが来る可能性は高かったんですが、さすがにこれにはちょっとビックリしました。
また、ある別のお店で演奏した時のことです。
この時は前もって何を演奏するかを打ち合わせていたのですが、2セット目に、と決めておいた5曲がすべてリクエストとかぶってしまったことがあります。
スタンダード曲を中心に演奏している時は、1~2曲は打ち合わせておいた曲とリクエストが重なることはよくあることなのですが、リクエストの全曲が打ち合わせておいた曲と重なったのは、後にも先にも、その時の一度だけです。
よく演奏されるような曲ばかり選んであったから、というのも原因のひとつなんだと思いますけどね。
これ、数学的に考えると、どれくらいの確率になるのでしょうか。(^^;)
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♪自分的名盤名曲163
TBS系に「悪魔のようなあいつ」というドラマがありました。原作阿久悠氏、脚本は長谷川和彦氏、演出に久世光彦氏の名前があります。ぼくはこのドラマを見た記憶はないのですが、沢田研二扮する主人公は酒場のシンガーであり、高級男娼であり、3億円事件の犯人でもあり、不治の病に冒されているという設定で、「70年代が醸し出していた危うい空気が漂っているドラマ」という解説をどこかで読んだことはあります。
このドラマの主題歌が、主役の沢田研二が歌った「時の過ぎゆくままに」です。作詞はドラマの原作者の阿久悠、作曲は沢田研二のバックバンドのキーボード奏者・大野克夫。アルバム「いくつかの場面」に収録されています。
沢田研二の14枚目のシングルである「時のすぎゆくままに」は、約92万枚を売り上げ、オリコン・チャートでも5週連続1位となり、自身最高の大ヒットを記録しました。
『いくつかの場面』
沢田研二はグループ・サウンズ全盛期に、タイガースのリード・ヴォーカルとして圧倒的な人気を誇りました。愛称の「ジュリー」は、沢田が女優ジュリー・アンドリュースの大ファンであるところからつけられたものだそうです。
タイガース解散後はスーパー・グループのPYGを経て、ソロ・シンガーとして活躍します。
とくに1970年代後半から80年代にかけての人気は物凄いものがありました。出す曲出す曲みなヒット。ゴージャスで、イキで、キザで、そのくせちょっとチープな「ジュリー」を演じているかのような沢田研二は、煌びやかな真のスーパー・スターだと思います。視線のひとつ、仕草のひとつがとにかくカッコいい人でした。
また俳優としても活躍、シリアスなものからコメディ、コントまで幅広くこなしていたのを覚えています。
「時の過ぎゆくままに」は、歌謡曲ぽさを残しながら、どこかバタ臭い洋楽の香りが漂っている、大野克夫の珠玉の名バラードです。
退廃的な歌詞で、男の色気にあふれた雰囲気があります。甘くてツヤのある沢田の歌声がしっとりと、抑え気味に歌っています。そのヴォーカルに絡みつく井上堯之のギターがこれまた艶っぽい。1コーラス目は、ギターとピアノだけのアコースティックな伴奏、2コーラス目から大々的にストリングスが加わり、雰囲気を盛り上げます。どこかせつなくなるような、良い曲ですよね。
大野克夫は、「時の過ぎゆくままに」で初めて沢田研二の曲を担当、以後も阿久悠とのコンビで沢田に「勝手にしやがれ」「カサブランカ・ダンディ」など、計11曲を提供、全てヒットに結びつけています。
沢田がバックに従えているのは、日本テレビ系刑事ドラマ「太陽にほえろ」のテーマなどでお馴染みの「井上堯之バンド」。これは、日本の歌手が自分の専属バンドと行動を共にした初めての例だそうです。
エンターテイナーとしてのこだわりを持つ沢田研二は、ステージではかつてのヒット曲を歌うのを好まず、「その時の自分の歌」を歌うことを貫き通しています。そのため歌番組の出演が大幅に減りましたが、もちろん今でも精力的にステージをこなしているようです。
【歌 詞】
◆時の過ぎゆくままに
■シングル・リリース
1975年8月21日
■歌
沢田研二
■作詞
阿久悠
■作曲・編曲
大野克夫
■プロデュース
佐々木幸男
■収録アルバム
いくつかの場面(1975年)
■録音メンバー
☆井上堯之バンド
井上堯之(guitar)
速水清司(guitar)
岸部修三(bass)
田中清司(drums)
大野克夫(keyboards)
■チャート最高位
1975年週間チャート オリコン1位(5週連続計5週 1975年9月22日~10月20日)
1975年年間チャート オリコン4位
エレクトリック・ライト・オーケストラ(以下ELO)のサウンドって、なんてポップでキャッチーなんだろう、といつも思ってしまうのです。彼ら、というより、バンド・サウンドの支柱であるジェフ・リンのポップ・センスや、アレンジの妙には少なからず心を動かされます。
バンド内にヴァイオリンとチェロを加えた特異な編成ですが、紡ぎだすサウンドはとてもオーソドックスなポップ・ロックです。オーソドックスとは言っても、決してありきたりのサウンドではなく、そのメロディー・ラインの美しさといったら、あのビートルズにも匹敵するのではないか、と思ったりするほどです。
このアルバムに収められている曲は、どの曲がシングル・カットされても不思議のない佳曲ぞろい。アルバム自体、全英5位、全米6位の大ヒットを記録して、プラチナ・ディスクを獲得しています。そして、その中から「ドゥー・ヤ」(全米24位)、「オーロラの救世主」(全米13位)、「哀愁のロッカリア」(全英9位)、テレフォン・ライン(全米7位)の、4曲のシングル・ヒットが生まれました。
1曲目の「タイトロープ」から耳を奪われます。現代的なシンセサイザーの音に始まり、それと対比するように荘厳なストリングスが入ってきます。一転メジャーに転調、ミディアムのシャッフルに乗って軽快なロック・サウンドが繰り出されます。
2曲目の「テレフォン・ライン」はELOの、というより1970年代を代表するバラードのひとつだと思います。ナチュラルで美しいメロディーを、優しいストリングスと、厚いコーラスが支えています。サビ部分のドゥ・ワップを思わせるコーラスがとてもノスタルジック。泣ける曲ですね。
3曲目は「哀愁のロッカリア」。タイトルから想像できるように、アリアとロックン・ロールを融合させた、実験的ながらとても楽しいハードな曲です。
そのほか、これもポップな「オーロラの救世主」、珍しくハードなギターのリフが印象的な「ドゥー・ヤ」など、名曲のオン・パレードです。
クラシカルなストリングスと現代的なキーボード群の対比も面白いと思います。またどの曲にも取り入れられている整然としたコーラスが効果的ですね。
楽しく聴かせるための仕掛けも多く、そのあたりもポール・マッカートニーの作風に似ている、と言えるでしょうか。
ELOの4枚目のアルバム「エルドラド」あたりから顕著になってきたポップ性のひとつの集大成が、この「オーロラの救世主」というアルバムだと思います。
デビュー以来の、5枚(ベスト・アルバムを除く)のアルバムで育んできた、ELO独自のポップ・ロックのひとつの到達点と言えるかもしれません。
◆オーロラの救世主/A New World Record
■歌・演奏
エレクトリック・ライト・オーケストラ/Electric Light Orchestra
■リリース
1976年9月11日
■プロデュース
ジェフ・リン/Jeff Lynne
■収録曲
A① タイトロープ/Tightrope
② テレフォン・ライン/Telephone Line ☆全米7位、全英8位
③ 哀愁のロッカリア/Rockaria! ☆全英9位
④ ミッション/Mission (A World Record)
B⑤ ソー・ファイン/So Fine
⑥ オーロラの救世主/Livin' Thing ☆全米13位、全英4位
⑦ アバヴ・ザ・クラウズ/Above the Clouds
⑧ ドゥー・ヤ/Do Ya ☆全米24位
⑨ シャングリ・ラ/Shangri-La
※ All tracks written by Jeff Lynne
☆=シングル・カット
■録音メンバー
【Electric Light Orchestra】
ジェフ・リン/Jeff Lynne (lead-vocals, guitars, electric-piano, percussion)
リチャード・タンディ/Richard Tandy (keyboards, synthesizers, guitar, percussion, backing-vocals)
ケリー・グロウカット/Kelly Groucutt (bass, percussion, lead-vocals⑦, backing-vocals)
ベヴ・ベヴァン/Bev Bevan (drums, percussion, backing-vocals⑦)
ミック・カミンスキー/Mik Kaminski (violin)
ヒュー・マクドウェル/Hugh McDowell (cello, percussion⑦)
メルヴィン・ゲイル/Melvyn Gale (cello)
【guests】
メアリー・トーマス/Mary Thomas (operatic-vocals)
パティ・クアトロ/Patti Quatro (vocals <uncredited>)
ブリー・ブランド/Brie Brandt (vocals <uncredited>)
アディー・リー/Addie Lee (vocals <uncredited>)
■チャート最高位
1976年週間チャート アメリカ(ビルボード)5位、イギリス6位、日本(オリコン)60位
1977年年間チャート アメリカ(ビルボード)6位、イギリス16位
1978年年間チャート イギリス47位
キース・ジャレットがチャーリー・ヘイデン、ポール・モチアンと1966年に組んだバンドが、彼の初めてのパーマネントなピアノ・トリオです。このトリオは、1968年10月30~31日にロサンゼルスのライヴ・ハウス、「シェリーズ・マン・ホール」でライヴを行ないました。その演奏を収めたライヴ・アルバムが、「サムホエア・ビフォー」です。このトリオは2日間で34曲を演奏しましたが、このアルバムにはそのうちの9曲が収録されています。
全9曲のうち7曲がキースのオリジナルで、残りはスタンダード曲とカヴァー曲が1曲ずつ取り上げられています。
キースのピアノは、クラシックやゴスペルなどをベースにしていることが伺えますが、このアルバムでは、ビル・エヴァンスのようなリリカルな部分、よりフリーで前衛的な部分、そして伝統的・古典的なジャズの三つのアプローチを行っているようです。そして、その三つがうまくバランスを取りながら、このトリオの音楽世界を、バラードやロック、ラグタイム、あるいはフリー・ジャズなど、どんなスタイルにも定まらない、幅広くて自由なものにしている、と言えるでしょう。
まず、ゴスペル・ロック調の「マイ・バック・ペイジ」と、「パウツ・オーヴァー」が印象に残りました。中でも目玉は1曲目の「マイ・バック・ペイジ」だと思います。これはボブ・ディランのオリジナル曲ををカヴァーしたものです。原曲はシンプルな3拍子ですが、キースはこれを8ビートのゴスペル・ロックにアレンジして聴かせてくれます。イントロのピンと張り詰めたベース・ソロの後に入ってくるピアノが美しい。何かに祈りを捧げるかのような、内省的で荘厳な雰囲気が漂ってくる曲です。
「ムーヴィング・スーン」は、例えばオーネット・コールマンのような前衛的な要素が見られる、大胆なフリー・ジャズです。まるで音の塊を叩きつけるような激しいピアノに呼応して、ベースとドラムスも一丸となり、突き進んでゆきます。
「プリティ・バラッド」「モーメント・フォー・ティアーズ」「君に捧ぐ」は美しいバラードです。キースが本領を発揮してリリカルに歌い上げていますが、ただ甘さに流されるのではなく、端正で知的な、そして生々しいピアノを聴かせてくれるのです。
タイトル・ナンバーの「サムホエア・ビフォー」は、少しばかりノスタルジックな雰囲気を持っています。スウィング感覚にあふれたタッチが生きています。
「ニュー・ラグ」では、意識的に古いスタイルを取り入れ、それを斬新な感覚で解釈しているのでしょう。これと対をなすのが、よりオールド・ファッションでエキサイティングなラグタイムの「オールド・ラグ」だと思います。
左から キース・ジャレットpiano、チャーリー・ヘイデンbass、ポール・モチアンdrums
このアルバムを録音した時のキースは、まだ23歳。しかしその年齢以上に彼のピアノは、幅広く、成熟しているような気がします。また、サイドを固めるチャーリーとポールのふたりも経験が豊かで、やはり幅広い音楽の世界と接していました。そしてメンバーがこの3人だからこそ、トリオが鮮やかな閃きを見せることができたのではないでしょうか。
この頃のキース・ジャレット・トリオは、すでに他に類を見ない独自性があり、幅広い領域の音楽と関わりを持っています。何にも捉われることのない、自由奔放なサウンドは、キースの音楽の原点とも言えるものでしょう。そしてそれは、今のキース・ジャレット・トリオである「スタンダーズ」にまで脈々と受け継がれているのではないでしょうか。
◆サムホエア・ビフォー/Somewhere Before
■演奏
【キース・ジャレット・トリオ】
キース・ジャレット/Keith Jarrett
チャーリー・ヘイデン/Charlie Haden
ポール・モチアン/Paul Motian
■録音
1968年8月30~31日 (カリフォルニア州ロサンゼルス、シェリーズ・マンホール)
■リリース
1969年5月
■プロデュース
ジョージ・アヴァキアン/George Avakian
■収録曲
A① マイバック・ペイジ/My Back Pages (Bob Dylan)
② プリティ・バラッド/Pretty Ballad (Keith Jarrett)
③ ムーヴィング・スーン/Moving Soon (Keith Jarrett)
④ サムホエア・ビフォー/Somewhere Before (Keith Jarrett)
B⑤ ニュー・ラグNew Rag/New Rag (Keith Jarrett)
⑥ モーメント・フォー・ティアーズ/A Moment for Tear (Keith Jarrett)s
⑦ パウツ・オーヴァー/Pouts' Over (And the Day's Not Through) (Keith Jarrett)
⑧ 君に捧ぐ/Dedicated to You (Sammy Cahn, Saul Chaplin, Hy Zaret)
⑨ オールド・ラグ/Old Rag (Keith Jarrett)
■レーベル
ヴォルテックス・レコード/VortexRecords