ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

オールマン・ブラザーズ・バンド フィルモア・イースト・ライヴ (At Fillmore East)

2007年06月17日 | 名盤


  「フィルモア・イースト」とは、プロモーターのビル・グラハムが、ニューヨークのイースト・サイドにあった映画館跡地に開設したライヴ・ハウスです。1968年から閉店した1971年までの短い期間、多くの名演奏を生んだことで知られています。
 そのなかで1971年3月12~13日にかけて行われたのが、オールマン・ブラザーズによる歴史的なライヴでした。


     
     グレッグ・オールマン(左)、デュエイン・オールマン


 オールマン・ブラザーズは、デュエインとグレッグのオールマン兄弟が中心になって結成されました。ブルーズをベースに、カントリー、ジャズ、ソウルなどのアメリカの土着音楽をミックスした彼らの南部魂丸出しの、泥臭くて豪快なハード・ロックは、誰からともなく「サザン・ロック」と呼ばれるようになっていきました。
 オールマンズの売り物と言えば、ツイン・ギターの紡ぎ出す音色の対比やアンサンブルの妙、ツイン・ドラムスによる、重量感がありながらも決してもたることのないリズムと、アフター・ビートの効いたグルーヴ感でしょう。


     


     
 
 
 デュエインのスライド・ギターはまるで生き物が雄叫びをあげているかのような生々しさがありますね。「スカイ・ドッグ」のニックネーム通り、まさに彼のフレーズは、アグレッシヴに宙を駆け巡っていて、張り詰めた空気を醸し出しています。
 デュエインの緻密なスライド・ギターと、ディッキー・ベッツの音色の太いギターは、いわば「柔と剛」の取り合わせ、とでも言えないでしょうか。
 そして、デュエインの空翔るようなアドリブ・ソロと、グレッグの少ししわがれた、黒っぽくて渋いヴォーカルが交錯し、緊張感と豪快さが同居したハイ・レベルな演奏が延々と行われているのです。


     
     ディッキー・ベッツ


 演奏は、ライヴ録音だけあって、インプロヴィゼイションの続く、長尺の曲ばかりです。
 1曲目の「ステイツボロ・ブルーズ」の冒頭でいきなり鋭く切り込んでくるデュエインのスライド・ギターにはマイってしまいます。
 3曲目「ストーミー・マンデイ」はリズムが重く粘っています。中盤のオルガン・ソロからジャズっぽくスウィングするところなどに、バンドの柔軟な力量が現れている、と言えそうです。
 6曲目、ディッキー・ベッツ作の「エリザベス・リードの追憶」が、このアルバムにおけるハイライト曲のひとつでしょう。いや、それ以上に、ロック史に残る名演かもしれません。ツイン・ギターとオルガンのユニゾンによるリフがとても印象的な曲です。ジャズの要素を導入した、白熱のインプロヴィゼイションがたっぷり聴かれます。
 ラストの「ウィッピング・ポスト」は、スタジオ盤だと5分そこそこの曲なのですが、ここでは23分以上の大作に変身しています。この曲はオールマンズのライヴにおける定番曲として有名です。8分の11拍子のテーマを持ちますが、ボーカル部分になるとジャズ・ワルツとなります。そして延々とギター・ソロが堪能できるジャム・セッション風の曲となっています。


     
     グレッグ・オールマン


 この頃のデュエインは、あのデレク&ザ・ドミノスのセッションにも加わり、一層名を上げています。エリック・クラプトンはデュエインをドミノスに引き抜こうと画策したようです。デュエインのギターはエリックにも多大な影響を与えたんですね。


     
     デュエイン・オールマン


 このライヴ・アルバムは、ビルボードのアルバム・チャートで全米13位の大ヒットを記録しましたが、この作品はサザン・ロックばかりでなく、ロック・ミュージックのライヴ・アルバムとしても屈指の物だと言えるでしょう。というよりも、ブルーズとかサザン・ロックとかにジャンル分けにするのは無意味かもしれません。いわば、アメリカン・ポピュラー・ミュージックの偉大なる遺産だと捉えるべきだと思います。


 このライヴ・アルバムによって、オールマン・ブラザーズはアメリカを代表するバントとして自他共に認める存在となりました。
 しかし好事魔多し。同年10月、デュエインがバイクでトラックに追突、わずか24歳でその人生を終えることになってしまいました。
 しかしバンドは結束を固め、その後はメンバー・チェンジを繰り返しながら活躍します。そして紆余曲折のすえ、二度の解散~再結成をはさんで、現在でも現役として活動しています。1995年にはロックの殿堂入りを果たしました。



◆オールマン・ブラザーズ・バンド・フィルモア・イースト・ライヴ/At Fillmore East
  ■歌・演奏
    オールマン・ブラザーズ・バンド/The Allman Brothers Band
  ■録音
    1971年3月12~13日 (フィルモア・イースト、ニューヨーク市)
  ■リリース
    1971年7月
  ■プロデュース
    トム・ダウド/Tom Dowd
  ■収録曲
    A① ステイツボロ・ブルース/Statesboro Blues (Blind Willie McTell)
     ② 誰かが悪かったのさ/Done Somebody Wrong (Clarence Lewis, Bobby Robinson, Elmore James)
     ③ ストーミー・マンデイ/Stormy Monday (T-Bone Walker)
    B④ ユー・ドント・ラヴ・ミー/You Don't Love Me (Willie Cobbs)
    C⑤ ホット・ランタ/Hot 'Lanta (D. Allman, G. Allman, Betts, Trucks, Oakley, Johanson)
     ⑥ エリザベス・リードの追憶/In Memory of Elizabeth Reed (Dickey Betts)
    D⑦ ウィッピング・ポスト/Whipping Post (Gregg Allman)
  ■録音メンバー
   【The Allman Brothers Band】
    デュエイン・オールマン/Duane Allman (guitar, slide-guitar)
    グレッグ・オールマン/Gregg Allman (organ, piano, vocals)
    ディッキー・ベッツ/Dickey Betts (guitar)
    ベリー・オークリー/Berry Oakley (bass)
    ジェイ・ジョニー・ジョハンソン/Jay Johanny Johanson (drums, congas, timbales)
    ブッチ・トラックス/Butch Trucks (drums, tympani)
   【Guests】
    トム・ドゥーセット/Tom Doucette (harmonica②③④)
    ジム・サンティ/Jim Santi (tambourine)
  ■チャート最高位
    1971年週間チャート  アメリカ(ビルボード)13位
    1971年年間チャート  アメリカ(ビルボード)96位



コメント (6)
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