「龍胆は枝ざしなどもむつかしけれど、こと花どもみな霜枯れ
たるに、いとはなやかなる色あひにてさし出たる、いとをかし」
清少納言の「枕草子 草の花は」の一節です。「リンドウは枝の
具合なども見苦しいが、他の花がみな霜枯れている中で、華や
かな色合いに咲いてとても美しい」というような意味。色のない
晩秋の野辺にリンドウの紫はとても映えたのでしょう。平安の昔
から好まれた花だったのですね。ところが、それと同じ様な意味
合いの美しい詩を、19世紀のアメリカ、ニューイングランドに見つ
けました。エミリー・ディキンスンの「神は、小さいリンドウの花を
創った」です。
まぶしい庭へ | |
ターシャ・テューダー | |
KADOKAWA/メディアファクトリー |
神は、小さいリンドウの花を 創った。
リンドウは バラの花になりたがった。
けれど、なりきれず、夏のものどもが あざ笑った。
けれど、雪が来るまえに、
リンドウの紫の花は 立ち上がった、
丘じゅうを ただ うっとりさせて。
夏のものどもは 顔をかくして、
あざけりは 静かになった。
エミリー・ディキンスン・ターシャ・チューダー ないとうりえこ訳
「まぶしい庭へ」より
何と美しい詩でしょう。そして、洋の東西を問わず、時代を問わず、
詩人の感性は、これほどにも似ているのですね。
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Tasha Tudor | |
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