『詩と真実』という題名の本には先の『筑摩哲学の森の5』やその他数冊
ありますが、本家本元の『詩と真実Dichtung und Wahrheit』はゲーテです。
ゲーテの名前を知らない人はいないと思いますが、実際に読んでいる人
はそういないのでは?かく言う私も、『若きヴェルテルのなやみ』や『ヘル
マンとドロテーア』と言う好短編以外あまり読んでいません。ライトノベ
ルのようにするする読めるというものではありませんからね。私はなん
といっても独文出身ですから、『ファウスト』は、何度か挑戦し、中の『糸
を紡ぐグレートヒェン』の詩は愛唱しています。
グレートヒェンはマルガレーテの愛称形で、ファウスト一部のヒロイン、
現実にもゲーテの初恋の人だったようです。マーガレットの花のような
清楚で美しい少女だったのでしょうね。
この『詩と真実』の中にグレートヒェンのエピソードが出てきます。ゲーテの
自伝といってもよい読み物で、他の多少難解な作品に比べ、楽に、気持
ちよく興味深く読めます。その中に、彼が幼い頃にあったリスボンの大地
震のエピソードがあります。「異常な世界的大事変が生じて、私の心の平
安は生まれて初めて根底からゆるがされた。1755年11月1日、リスボンに
地震が起こって、、、。大地はふるえ、ゆらぎ、海はわきたち、、、、つい
いいましがたまで平和に安らかに暮らしていた六万の人間が、一瞬のうち
に死んだ、、、かくして自然はあらゆる方面からその限りない暴虐をふる
ったのである」(山崎章甫訳 『詩と真実』一部 より)
ゲーテはまだ幼く、実際に体験したわけでもないはずの地震ですが、その
時こうであったと思われる状況、心理的な動揺を実に見事に描き出した文
章です。一年前の東日本大震災と二重写しになりました。
ゲーテの散文はちょっと手ごわいけれど、『野ばら』や『すみれ』などの詩
はシューベルトのリートになっていたりして、多くの人が知っています。
Roeslein,Roeslein,Roeslein,rot, 赤い赤い、小さい野ばら、
Roeslein auf der Heiden. 荒れ野に咲く小さい野ばら