Tillie and the Wall (Dragonfly Books) | |
Leo Lionni | |
Dragonfly Books |
どうするティリー? | |
Leo Lionni,谷川 俊太郎 | |
あすなろ書房 |
その壁はずっと前からそこにあって、壁の向こうに何があるかなんて
誰も気にしません。ティリーを除いては。ティリーは朝も夜も考えま
した。壁の向こうには素晴らしい世界があって、きれいなものや面
白い生き物がいるにちがいないって。ティリーは壁の向こうへ行く
ことにきめました。登ってみたり、穴を開けようとしたり、きっと端っ
こがあるだろうと壁に沿って歩いてみたり。でもどうしても行けませ
ん。ある日ティリーは壁の下からミミズが這い出てくるのを見ました。
そうだ!ティリーは壁の下にぐんぐん穴を掘って、とうとう壁の反対
側へ出ました!ところがそこにいたのは、やっぱり同じネズミたち。
やってきたティリーを大歓迎してくれました。ティリーがそこのネズ
ミたちを連れて、壁の下をくぐって戻ると、そこでも大歓迎パーティー
が開かれました。それからは、壁の両側のネズミたちは自由に行き
来するようになりました。
因習や常識を打破するパイオニアというのは、特別な者なのかもし
れません。それにティリーみたいに歓迎されるより、「触らぬ神に祟
りなし」で、たいていの場合は、余計なことをするやつと、排斥され
る場合が多いのではないでしょうか。このかわいらしいネズミのカラ
フルな絵本は、案外と深い意味を持っているようです。
また、この絵本の初版は1989年、ベルリンの壁が崩壊した年です。
ユダヤ人であったレオ・レオニは、二次大戦中亡命をよぎなくされた
とか。戦後長い時間が経ってやっと壁が取り除かれました。それゆえ、
これは彼が特別な思いを持って作った絵本なのでしょう。壁のこちら
にも向こうにも、同じ人々が、生き物が住んでいるんだという思いを。