こんなに青い海と空を見たのは、初めてのような気がします。ここは温泉
で名高い南紀白浜の景勝地、三段壁です。高さ50メートル以上の岸壁が
2キロも続いています。地下36メートルまで岩をくり抜いたエレベーターが
通じていて、そこに海へと通じる洞窟があり、波が迫力満点に打ち寄せる
光景を見ることができます。
洞窟はイタリアの青の洞窟を彷彿とさせる自然の驚異ですが、エレベーター
を作るには大変な費用が要ったのでしょうね。地上の乗り場は恐ろしく俗っ
ぽい雰囲気で、大音響の音楽がかかり、商魂たくましいスタッフがエレベー
ターへと恵比須顔で客を誘っていました。下へ降りると記念写真を撮られ、
(もちろん買う買わないは自由ですが)結構大勢が買っている様子でした。
下には、中国風のお堂まであります。昔ここで結ばれることが叶わず海に
に身を投げたカップルがいたとかで、恋人の聖地にもなっているようです。
自然のすばらしい造形を、人間がとことん利用しようとする感じにちょっ
と辟易した私です。
それに比べて、すぐ近くの国の名勝千畳敷では、その名の通り広い岩畳が
紺碧の海に向かって突き出している壮大な景色が楽しめました。
昼食にと、近くの大きな魚市場へ行き、おいしいお寿司を食べました。
こんな場所が大賑わいで俗っぽいのは、大歓迎。こと食欲となるとね。
勝手なものです。空もこの日は海のように真っ青。What a grand day!
藍色、紺色、紺青、瑠璃色、紺碧、海の青を表す言葉は色々ありますが
この海はどれにあたるのでしょう。黒潮の太平洋の濃青の海が、これま
た青い空の下に果てしなく広がっています。
岬の突端にある
南方熊楠の記念館へ行きました。熊楠は「知の巨人」と
称され近年その真価が認識されてきた和歌山出身の博物学者です。知
れば知るほど、その偉大さとまた変人ぶりがわかる面白い博物館でした。
キノコみたいだけど、動物のように動く性質を持つ極小の生物「粘菌」
研究の泰斗であり、また民俗学者でもあり、若いころから欧米に出て、数
カ国語を自在に操ったと言います。科学雑誌「ネイチャー」への数々の寄
稿、その他膨大な文献資料を残しています。生物学者であった昭和天皇に
請われて、近くの上島で進講を行ったそうで、その思い出を天皇が詠った
碑がありました。
博物館の屋上からは四方八方の海が見渡せました。こちらの方向が、アメ
リカ、あちら多がヨーロッパと手すりに表示され、ああ、この青い海を越え
て開国間もない日本から、明治時代に熊楠が単身日本の科学の道を切り
開いていったのだなと、感慨深く眺めました。