The Grass so little has to do - 草はなすべきことがあんまりない -
A Sphere of simple Green - 単純な緑の広がり-
With only butterflies to brood ただ蝶の卵を孵し
And Bees to entertain 蜜蜂をもてなすだけ - 亀井俊介編「ディキンソン詩集」より
生前はほとんど知られず短い生涯を終えたが、今ではアメリカ最高の詩人の一人
に数えられるエミリ・ディキンソン。厳しいピューリタニズムの宗教的束縛の中
で、深い洞察と繊細かつ大胆でユニークな言葉で綴られた数々の詩は、人の心
を揺さぶらないではいません。自分を律することの厳しい人だったようですが、
こんな自然への讃歌のような詩もあるんですね。草木の芽吹くこの季節に読むと
ことさら愛おしい詩です。I wish I were a Hay-わたしは乾草になれたらいいのに-
という行で、この詩は終わります。読んだ私にも、こんな草になりたいという思い
が溢れます。
『野鳥観察とパンくず ― エミリ・ディキンソンの「生」の探求 ― 』という
ディキンソン研究論文を、英文学徒の妹が発表しました。良い論文です。
詩の中の花や鳥から考察したディキンソン論です。「貧しさを表すパンくずと、
豊さを表すパン」の対比が的を得ていて、文章もなかなかに格調高く、我が
妹の論文ながら感心しています。もっとも私は、ディキンソンの詩にしろ誰
の詩にしろ、表面をかすめ読みするだけの全くの素人愛好家にすぎず、ディ
キンソンについて、彼女を題材にした小説などから得た、わりとゴシップ的な
一面しか知らないのですが。
ともあれ、生前には10編ほどの詩しか世に出ず、死後に本国アメリカは言うに及
ばず、今も世界中で愛好され、研究されているんなんて、彼女の詩の持つ深く大
きな魅力を感じずに入られません。