奈良県の北葛城郡広陵町に百済寺(くだらでら)というお寺があります。
ここは広陵町というだけあって、ちょっと歩けば古墳に行き当たる古代
史の宝庫のような土地柄で、竹取物語ゆかりの神社もあります。
その一角のまさに「百済」という地名の所にある小さなお寺ですが、
「百済」という地名の由来もあまり定かではなく、ここに大寺があっ
たかどうか、疑問視されているようです。
案内書きによれば、聖徳太子の御代に始まり、舒明天皇がここに
移したという、とんでもない歴史を持つ大寺だったらしいのですが、
今は三重塔があるだけの寂しげな無住の小寺です。
その一部が春日若宮神社という神社となり、今に至るようですが、
周囲の鄙びた風景の中に建つ古色蒼然の三重塔が趣き深く、歴
史的な信ぴょう性はともかく、心静まる良いお寺です。
「百済野の萩の古枝に春待つと居りし鴬鳴きにけむかも」
百済野の萩の古い枝に春を待っていた鴬はもう鳴いたでしょうか
山部赤人の歌碑が、梅の咲きはじめたこの季節になんとも似つか
わしく、塔の裏のあたりから鶯の声が聞こえてきそうな気配でした。
真っ赤な椿が、曇天の下沈んだ景色の中にいっそう可憐に見えました。