「若い頃に読んだ本を思い出して、もう一度読みたいと思ったけれど、廃版
のようで手に入らなかったのを、娘が手を尽くして探し出してくれて、読むこ
とができてうれしい」というような内容の投書が新聞に載っていました。それ
はジョージ・エリオットだかの小説でしたが、歳のせいか、私もそういう本が
数冊あります。「日向が丘の少女」もそのうちの一冊です。中高年なら、
なつかしく思い出される方も多いでしょう。世界少年少女文学全集の北欧
編に入っていました。その次に入っているアレックス・キヴィという人の「七
人兄弟」というのもいいお話です。乱暴者の七人兄弟の話ですが、素朴で
ユーモラスで、温かく誠実で。二編とも、近頃読まれないのは残念です。
ノルウェーの農村地帯、日向が丘農場にはシュンネーベという女の子、そこ
から見下ろす樅の木農場にはトールベルンという男の子がいました。幼友
達だった二人はいつしか互いに惹かれあっていきます。シュンネーべは美し
い少女に成長し、次々求婚者が現れます。一方トールベルンは周りの悪い影
響もあって、大変な乱暴者になリ、人々に敬遠されます。そんなトールベルン
を信仰心厚くまっとうに暮らすシュンネーベの両親が、娘の相手として許すは
ずもなく、二人はつらい日々を過ごすのですが、シュンネーベのトールベルン
への思いは片時も変わらず、それが通じてやがてトールベルンは誠実な若者
へ生まれ変わり、二人は結ばれます。
淡々とした筆致の中に深い愛情の感じられる美しい小説です。作者のビョル
ンソンは、同時代、同国人のイプセンとよく比較されます。イプセンの作品
には社会性、政治性があり、外に向かっていますが、ビョルンソンはつつま
しい市井の人々の暮らしを淡々と描き、派手なメッセージ性とは無縁です。
ノルウェーの人々がイプセンよりビョルンソンを好むのが分かります。読ん
だ後、温かい優しい気持ちになる読み物ってそうたくさんはありませんが、
この「日向が丘の少女」はそのような本の一冊です。
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