句作の歓び
令和3年8月20日(金)
一露も
こぼさぬ菊の
氷かな
一滴もこぼすまいと、寒菊はそこに
置く露を氷としていることだ、
の意。
元禄六年(1693)年の作。
前書き「苑蠡(えんれい) が
趙(ちよう)南(なん) のこゝろを
いへる『山家集』の題にならふ」
菊がもつ隠逸のイメージと
黄金色に輝く姿とを、二つながら
示す。
◎ 菊という秋の花に露がかかって
いると思うと、露は氷っていた。
外は寒い。
しかし、氷った露の外光に輝く
ところは実に美しい。
風が吹いても、びくともせぬ立派な
細工物である。
このわび住まいの庵にも、様々な
自然の美が示されていて、実に楽しい。
三句とも同じ甘酒造りの日の小景。
寒菊をごく自然に詠み、菊の氷った
露の美しさを、自分は温かい庵の内
にいて見ているというだけなのだが、
すぐ近くの台所の下の花の様子に
秋の名残を見出し、やがて咲く梅を
望んでいる内心を書かずに
読者に想像させている。
句作の手腕の軽やかで、
自然なところが素晴らしいし、
庵の狭い庭にも、普く目を巡らして、
句作に喜びを見出している芭蕉の
心が気持ちいい。