俳諧の謎を解く鍵の句
令和3年8月28日(土)
木曾の情
雪や生ぬく
春の草
木曾義仲の心意気をそのまま、
春草は木曾塚あたりに残る雪の下
から芽を伸ばしている、
の意。
元禄四年(1691)の作。
「木曾の情」・・・木曾義仲の心情・気質。
底本の編者史邦(ふみくに) の自序中
に引かれた句で、義仲寺(大津市)での吟。
◎ 木曾義仲こそ、芭蕉が最も敬愛
する武将であった。
木曾の山の奥に隠れていて、不意に
平氏を急襲して都に攻め入る。
田舎の荒々しい男が、京で高位の公達
になって威張っていた平家の武士たちを、
忽ちに一掃した。
その義仲の所業が、積もった雪を
撥ね除けるような春の草の生命力の
強さを示していて面白いと
芭蕉は詠んでいるのだ。
芭蕉は生前義仲寺の墓「木曾塚」の
近くに庵を結んでいて、
死後は塚の横に自分を葬るように
言い置いていた。
塚のあたりの四季の眺めをこよなく
愛し、それを知らなければ良い句は
生まれてこないと、門弟に語っていた。
四季の眺めは、義仲の心中を
知ってこそ、それを写しても
強い感銘を受けるとも語っていた。
この一句に込められた俳人の
心の深さを読み取ることこそ、
芭蕉の俳諧の謎を解く鍵である。