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カリガリ博士

2019年02月22日 | 話題
「カリガリ博士」は、第一次世界大戦後のドイツ表現主義の傑作映画で、コアな映画ファンなら必ず観ておくべき映画です。

私はコアな映画ファンではないけれど、おかしな映画は結構観ていて「カリガリ博士」も20代に観た記憶があります。
サイレント映画で確か弁士が付いていた映画でした。

ストーリーは、病院の院長で、精神に異常をきたしているカリガリ博士が、患者の眠り男を使って連続殺人を犯していることを一人の男から語られるのです。
ところが最後に、その事件がすべてその語り手の男の妄想であったことが明かされて終わります。

丸々リメイクではないですが「怪人カリガリ博士」という1960年代位の、確かアメリカの映画もあって、その映画では主人公は魅力的な女性です。
彼女は車の故障で、ある建物に辿りつくのですが、そこから出ることが出来なくなります。
その建物を支配しているのがカリガリ博士で、色々と恐ろしくも奇妙なことが起こります。
この話も最後にそこが精神病院で、その女性はそこの患者であり、すべてが彼女の妄想であったことが明らかにされます。

最後に彼女は治癒して退院するのですが、退院する時の彼女は魅力的な女性ではなく年老いた女で、時折来ていた恋人らしい男性が実は息子で、その息子に連れられて退院するのです。
「怪人カリガリ博士」の方は、私はテレビで観ました。
「カリガリ博士」も「怪人カリガリ博士」も映画のジャンルとしてはホラー・ミステリーになります。

私が「カリガリ博士」のことを思い出したのは、例の乳腺外科医の猥褻事件が無罪になり、色々と報道されたからです。
事件のあらましは江川紹子さんが1月19日に詳しく記事にしています。⇒ここ
無罪判決が出てからの記事もあります。⇒ここ
映画では、おぞましい出来事の数々が精神病患者の妄想であったことは最後まで観客には知らされません。

同様に今回の事件も、おぞましい出来事が患者の麻酔薬による術後妄想であったことは医療関係者を除き周囲の人間には理解されていませんでした。
LINEで原告から被害を聞いた知人が警察に連絡し、警察がすぐに介入し、医師は逮捕され100日以上も拘留され、職も社会的信用も奪われることになりました。

でも、江川紹子さんも書いているように、状況を検証すれば“事件”が実際にあったかどうかは常識的に理解できることでした。
私も満床の4人部屋で、原告と同じベッドの位置で、ドアもいつも開け放した状態の入院を経験しています。
今回の“事件”では、昼間、カーテンは閉じられていますがカーテンのすぐ傍に患者の母親がいる状態で、医師が術後に乳首を5分近くも嘗め回したり、胸を見ながら自慰行為を行ったことになっています。

私は入院中安静にするよう言われていて、トイレも車いすを使うように言われていたのですが、それでは手間だというのでベッド脇にポータブルトイレが置かれ、そこで用を足すように言われました。
夜、同室者も寝静まり、人の出入りの無い状態であればポータブルトイレで用を足すことは出来ましたが、昼間は切迫した尿意を感じていても、どうしてもそこで用を足すことが出来ませんでした。
それぐらい、いつ誰がカーテンを開けるかも分からない、人の気配が感じられるプライバシーが無い状況なのです。
あのような状態で自慰行為は99.99%あり得ません。

麻酔薬による術後のせん妄、それによる幻覚は医療関係者ならよく知られているそうですし、高齢者であれば麻酔薬を使用していなくても夜間にせん妄状態に陥ることはよくあるとか。

麻酔薬でなく意識をうしなわせる胃カメラ検査の鎮静剤でも、私は痙攣を起こして経口ではなく経鼻の検査に切り替えたと後で知らされたことがあります。
同時期に同じ検査を受けた私の同僚は鎮静剤で暴れて、結局胃カメラ検査ができなかったそうです。
もちろん私も同僚もその間の記憶はありません。
私は鎮静剤が覚めても夢うつつで、記憶がはっきりしない状態が続いたので、もう胃カメラ検査で鎮静剤は使わないようにしています。

病院では鎮静剤を使うと検査が楽であると言うだけで、高い確率で痙攣を起こしたり、暴れたりすることがあるとは教えてくれません。
今回も事前に起こりうることを教えていなかったのではないかと推測されます。

今回の“事件”で私にとって印象的だったのは、原告の頑なさです。
麻酔薬で生々しい悪夢や幻覚を見ることはその病院の関係者だけが勝手に言っていることではなく、世界的に知られている医療の客観的事実です。
自分では実際にあったと思われることでも、客観的事実を示されれば考えなおすのが普通ですが彼女はそれをしません。

最初に相談したのが、麻酔薬によるせん妄について無知な知人や警察であり、医療関係者ではなかったことが原因かもしれません。
そこで被害感情が固定化され、引くに引けなくなったとも考えられます。
ただ彼女は江川紹子さんの記事についても明らかに誤読して怒っており、自分の主観が絶対で、客観的に物事を判断することが出来ない人なのではないかと思えることです。
彼女は控訴を望んでおり、医師には気の毒ですが、この“事件”はまだまだ続くのかもしれません。

ところで、この“事件”で、映画の「カリガリ博士」以上にホラーなのは検察と科捜研の対応です。
詳しくはリンクした江川紹子さんの記事を読んでいただくこととして、日本という国、本当に大丈夫なのかとつくづく思わされたのでした。