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ジャニーズ問題

2023年07月24日 | 話題
前々回、末尾でジャニー喜多川の性加害問題について少し書きました。
その直後、snsを中心に大きな話題となった出来事がありましたので、それについて私の思うところを書いてみます。

ジャニーズ事務所の性加害問題については、テレビや新聞といった大手メディアではあまり触れられません。
ですからネットで大炎上した音楽家、山下達郎氏の発言についても知らない人は多いと思います。
というわけで、まず、何があったか簡単に書きます。

最初に断わっておくと、私はジャニーズのアイドル達はむろんのこと、芸能界については興味はありません。
また日本の音楽シーンについてもほとんど知りません。
(最低レベルの常識的なことを知っているくらいです。)
私が書くことは、そういう事柄とは異なることだと思ってください。

と、この記事を書いていて、国連の人権理事会がジャニーズの性加害問題を聴き取り調査するというニュースが入ってきました。
事程左様に、この話題はすでに芸能人の不倫とか、「芸能界ってそういうところだから」とか、そういった次元で捉えてはならないものになっています。

事の発端は音楽プロデューサーの松尾潔氏が、業務提携の契約を結んでいた芸能プロダクションのスマイルカンパニーから、突然、中途で契約を解除されたことでした。
理由はメディアで例の性加害のジャニーズ問題に触れたことでした。

松尾氏側からの詳しい事情は以下の通りです。

「スマイルカンパニー契約解除の全真相」弁護士を通じて山下達郎・竹内まりや夫妻の“賛成事実”を確認|松尾潔のメロウな木曜日

 おだやかな時間をこよなく愛して生きてきた。そんな自分が、55歳にもなって週刊誌記者に初直撃されようとは。ちっとも...

日刊ゲンダイDIGITAL



スマイルカンパニーは、そもそもミュージシャンの山下達郎・竹内まりや夫妻のマネジメントを主な業務とする会社ですが、ジャニーズ事務所とも深い関わりがあり、山下氏はジャニーズタレントへの楽曲提供なども行っています。

松尾氏は山下氏から誘われてスマイルカンパニーと提携したようです。
ちなみに私は松尾氏の名前は今回初めて知りましたが、音楽プロデューサーとして実績も実力もある業界では著名な方だそうです。
そして松尾氏は共にブラックミュージックを愛する者として、山下氏を敬愛していたようです。

松尾氏の発言に対して山下氏はラジオ番組「山下達郎の楽天カード サンデー・ソングブック」で答えました。
それが大炎上必至の主張でした。

以下に山下氏の主張を要約すると、松尾氏は憶測に基づいてジャニーズ事務所の社長である藤島ジュリー氏を批判した。
松尾氏の契約解除の理由は他にもあるがここでは触れない。

自分(山下達郎)は、ジャニー喜多川の性加害問題については今回の報道(BBCの番組以降の報道?)が始まるまで漠然とした噂でしかなく、1999年の裁判のことも聞かされていない。
性加害が本当にあったとすれば許されないことだが、自分が何も知らされていない以上コメントの出しようもない。

以下ジャニー喜多川との関わりや彼のプロデューサーとしての才能の素晴らしさに長々と触れ、彼に尊敬の念と恩義を感じているとしてます。
そして自分が大切にしているのはご縁とご恩だとして、ジャニーズを礼賛しています。
最後に、そのような自分の姿勢を忖度、あるいは長いものには巻かれろと考えるのならそれでも構わない。
そう考える人には自分の音楽は不要なんだろうと言ってます。

以上は私の要約ですが、山下達郎氏の全コメントはこちらにあります。興味のある人は読んでください。⇒MSN

山下氏のコメントで最も炎上したのは最終部分、実質的に、自分の姿勢を忖度だと思う人は自分の音楽を聴かなくてもよいと言っている部分みたいです。
その言葉は山下達郎の音楽のファンだった人を深く傷つけ、Twitterを見ると、ファンを止めるという人が続出しています。

私はファンではないので冷静ですが、ファンの気持ちは分かります。
何よりそれは、敬愛していた相手から突然関係を絶たれてしまうという意味で、今回スマイルカンパニーから途中で契約を打ち切られた松尾潔氏が受けたであろう衝撃と重なるものだったろうと推察します。

松尾氏が言った事は批判というよりは提言で、言葉使いも穏当なものでした。
それに対してスマイルカンパニー及び山下氏が取った対応は第三者から見ても『えっ?!』と思う程激烈なものでした。

当然、言っていることもツッコミどころ満載と言おうか、破綻しています。
大炎上もむべなるかな、です。

傷ついた山下達郎のファンは別にして、多くの人が一番問題にしたのは、山下氏が、松尾氏は憶測に基づいてジャニーズ事務所の社長である藤島ジュリー氏を批判したと言ったその中で「憶測に基づいて」の部分だったと思います。

聞き手は『いや裁判でジャニー喜多川自身が認めてるでしょ』と思っても、山下氏は裁判のことも聞かされていなかったと言うのです。
要するに、直接ジャニー喜多川や会社関係者の口から聞かされてないんだから知るわけもないと言っているわけです。
その理屈は、同じくジャニー喜多川の性加害を知らなかったと言った社長の藤島ジュリー氏とよく似てます。

二人とも、性加害があった事実そのものを認めていないのです。
どうやら直接本人(被害者ではなく加害者のジャニー喜多川)の口から聞くか、自分の目で性加害の現場を見ない限り認めないみたいです。
(というより、二人とも、言われなくても知っているけど認められないということでしょうか。)

実は私、この山下氏の言い方というか、論理の立て方には既視感があります。
昔、数十年前のこと、ある市民運動の場で活動していた頃、私があることに疑問を持って問題にした時、周囲の人達が一斉に取った態度がそれだったのです。
「そんなこと聞いたこともない」「知らないし関心もない・・・」
もちろん私は事実関係を提示していたのですが。

その時に私が指摘したことは、彼らがそんな風に言ったら、今までその人達が主張していたことの全てが意味のない嘘になるような事柄でした。
それでも「そんなこと聞いたこともない」みたいな言い方をした理由は、今なら分かります。
要するにその問題を取り上げれば、自分達が身を置くある種の“業界”の身内批判になるから、だったようです。
私にはそういう身内意識が皆無だったので、当時は訳が分からず驚愕しました。

そこの人達の中には私の100倍どころか1000倍くらい政治的に意識の高い人達もいて、以来長い間私は、そこの人達がよく口にし、行動のベースにもしていた「護憲」とか「人権」とか、その周辺の言葉を聞くと、心に鉛の玉が降ろされたような気分になりました。
その種の言葉とともに、どうしても「そんなこと聞いたこともない」といった彼らの言葉や、山下氏が松尾氏に対して取ったと同質の怒りと冷たさの入り混じった態度を思い出すからです。
それは山下達郎のファンだった人達が、今回の一件で山下達郎の楽曲を聞けなくなったのとよく似た心理だと思います。

要するに自他ともに認めるリベラルの世界だろうが、お洒落なシティポップの音楽シーンだろうが、この日本を支配している原理、即ち義理人情、ご縁とご恩の重視、身内主義、は変わらないってことです。
そういう意味で、自らに鑑みて山下達郎の人格批判をできる人はこの日本に100人に一人くらいしかいないんじゃないかとも思います。
だから今そうであるように、正義感に
満ち満ちて誰か個人をやり玉に上げることは無意味と考えます。

それをやってしまうと、大半の人が同様なのだから、人間に、日本人に、絶望するだけです。
そして自分はどうなのかと考えると沈黙するしかないです。
そうならずに個人を叩ける人はただの偽善者です。

では過去の関係重視ではなく、未来志向的にどう考えれば良いのか。
山下氏を怒らせた松尾氏が語ったことがまさにそれでした。
松尾氏は以下のように書いています。

私は、今回の疑惑を放置することは、ジャニーズ事務所だけの問題じゃないと思っています。一番の弊害は、今回の報道やマスコミの有り様を見た子供たちが、もし性犯罪・性暴力の被害者になったとき、「声を上げても無駄だ」という諦めの気持ちになるかもしれないことです。疑惑を放置することで、社会全体が諦めの気持ちを子供たちに植え付けかねないのではと怖れを感じています。

私は以前に「誘拐」と題した記事を上げたことがあります。

誘拐 - 緑陰茶話   - みどりさんのシニアライフ -

今回はちょっとシリアスなテーマです。野田聖子総務相が、2月2日の衆議院予算委員会で立憲民主党の阿部知子氏が性犯罪被害者への対応を尋ねたのに対し、性犯罪被害ではない...

goo blog



私はこの記事の中で子供の頃に巻き添えで誘拐されかけたことと、その後には性加害を受けかけたことを書きました。
いずれも未遂でしたが、その経験の中で一番私に衝撃を与えたことは、子供である自分の身に起こった事を親や周囲の大人に言っても誰も信じてくれないということでした。

今回のジャニー喜多川による性加害の件でも「なぜその時に言わなかったのか」とか「ジャニー喜多川が死んでから言うのはおかしい」とか「証拠を示せ」とか、もはやセカンドレイプとしか言いようがない誹謗中傷が飛び交っています。

ただでさえ13歳や14歳の思春期前期の男の子が自分の身に起きた性虐待を人に言うことがどれだけハードルが高いか、想像できないのでしょうか。
さらに年少の子ならもっと難しいです。
服部吉次さんは8歳でジャニー喜多川から性虐待を受け、それを公にしたのは70年後の78歳です。

私の場合、20歳くらいになってようやく自分の身に何が起きかけたのか分かりましたが、誘拐という出来事の背景を理解するにはもっと時間がかかりました。
そして30年くらいたって、ようやく人に話し始めました。
それまで黙っていたのは、最初に言った時に信じて貰えなかったので、そういう話は言っても無駄と思っていたからです。

今回も、snsはやらないという情報弱者の山下達郎氏でも、元ジャニーズジュニアの人達が何人も告発しているのは知っていたと思います。
でも彼らの存在や言い分は完全に無視です。
それもまた、「聞かされていない」「知らされていない」のでしょうか。

もう一つ、ジャニー喜多川はもう死んでいるのに今更訴えるのは卑怯という声も多くあります。
しかし今回新たに声を上げた人達はジャニー喜多川が死んだから声を上げたのではなく、イギリスBBCの報道がきっかけでした。
日本の社会には自浄能力がなく、あくまで外圧でしか動かないからです。
そしてBBCの番組の企画は5年前、ジャニー喜多川がまだ生きていた時から始まっています。

それ以前に、ジャニー喜多川による性加害への告発は古くは1960年代から、何度も何度も為されているのです。
ただ日本の法律では2017年まで強姦等の性被害は女性に限られてしか適用されませんでした。
その上、告発しても大手メディアは取り上げず、取り上げ方も芸能界の暴露ものというキワモノ扱いでした。
当然、そこにあった子供に対する性虐待という事実は無視され続けてきたのでした。
彼らはそういう現実を見ています。
それでもまだ「なぜ死んでから言うのか」と言うのでしょうか。
おかしいのはそれだけではありません。
加害者は死んでも被害者は生きており、さらに共犯者もその姿勢をかえることなく今も生きているからです。

この場合の共犯者とは、会社組織としてのジャニーズ事務所であり、自分達の利益を考えてジャニーズ事務所に忖度し、ジャニー喜多川の悪業を極力伝えなかったメディアであり、また自分達の利益を優先してジャニーズ事務所に忖度しまくっていた音楽業界やエンターテイメント業界の人々です。

ジャニーズ問題で発言した松尾氏を、唐突に契約を打ち切るという形で自らの仕事の場から排除して当然とした山下氏の対応はその典型です。
彼らがご縁とご恩に流されず毅然とした態度を取っていたら、ジャニーズ事務所は生き残れず、ジャニー喜多川の何十年にもわたる悪行で傷つく少年達はいなかったのです。

ご縁とご恩が、時に生活がかかるほど大切なものであるのは私にも分かります。
でも、それを優先させることが身内でない弱者を見捨てたり、踏みつけにすることに繋がっていたら、そこは人としての踏ん張りどころではないでしょうか。
それにしても今後、メディアはどう動くのでしょうか、注視したいです。

未来志向的に見て、もう一方の私達、業界関係者ではない一般人もまた、その対応が問われるのではないでしょうか。
一般人にとっての最悪の対応は、この問題をキワモノと捉えることだと思います。
ジャニーズ問題を自分とは関係のないキワモノ扱いにして頭っから無視する、もしくは面白おかしくネタにする、正義ぶって所属するタレントの個々を下卑た好奇心の対象にする。
そんなことをすれば、この先被害者となった人間は固く口を閉ざすだけであり、日本の社会は性犯罪者にとっての天国となります。

ジャニーズ問題は日本の社会が本当に性犯罪の被害者となった子供を守れるのか、そもそも子供を大切にできるのか、問いかけているように思います。
取り敢えずは8月4日の国連人権理事会の報告を待つことにします。