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内之浦宇宙空間観測所から見た小惑星探査機「はやぶさ2」/H-IIAロケット26号機の飛翔
平成26年12月3日。
今日、遂に小惑星探査機「はやぶさ2」が種子島宇宙センターから打上げられ、宇宙へと旅立つ。
待ち望んだこの日を、僕は大隅半島の港町・内之浦で迎えた。
僕らが愛した「はやぶさ」の弟は、やはり種子島ではなく、兄が旅立った地で送りたい。
そう心に決めていたのだ。
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熊本県南部の自宅からクルマで高速道路を南下して、内之浦までは約4時間。
到着した内之浦宇宙空間観測所は、やや雲があるものの青空が広がるいい天気。
この空なら、「はやぶさ2」を載せたH-IIAロケット26号機の描くロケットロードがきれいに見えそうだ。
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内之浦宇宙空間観測所内に建つ、日本のロケットの父・糸川英夫先生の像が見晴かす太平洋の彼方に、今日はうっすらと種子島の島影も見える。
こんな好天は滅多に無いことだ。
「ああ、そうだ…思えば、『はやぶさ』が地球に帰ってきた日も、空一面の雲の中に彼がいる辺りだけぽっかりと雲が切れて青空が覗いていたっけ…
まったく、兄弟揃ってあっぱれな晴れ男だよ、あいつらは!」
打上げ時刻が近づく。糸川先生の像の近くにある管理棟から内之浦宇宙空間観測所のスタッフの皆さんも駆け出してきて、皆で海の彼方を見つめる。
そして、運命の13時22分04秒。
「はやぶさ2、リフトオフ!」
…思わず叫ぶが、暫く何も見えない。
だが、次の瞬間。
「来た!来た!!はやぶさ2だー!!」
誰ともなく上げる叫び声に、海の上の空を凝視すると…
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「…そうだ、翔べ、宇宙へ行け!はやぶさ2!!僕らの、一番新しい弟…!!」
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目視出来たのは、僅か数秒。
次の瞬間には、H-IIAロケット26号機の機影は雲の中に吸い込まれて見えなくなってしまった。
でも、僕の目にはしっかりと、青空に真っ赤な爆炎を噴き出し真っ白なロケット雲を引いて天へと駆け上っていくH-IIAと「はやぶさ2」の姿が焼き付いて残像のように残っていた。
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やがて、ロケットロードも空へと溶けていった。
だが、今回の「はやぶさ2」の打上げは一筋縄ではいかない。
彼はこれから一旦、ロケットエンジンを停止して地球を回るパーキング軌道に入る。
そして通常の地球周回軌道を翔ぶ衛星と同じように約90分かけて地球を一周し、午後3時頃には再び日本の上空へと戻ってくるのだ。
日本の空へと戻ってきた「はやぶさ2」はエンジンを再起動して一気に加速し地球重力圏脱出軌道を駆け登り、そのまま目指す小惑星へと続くたった一本のか細い軌道にしがみつくようにして地球を去っていく。
「はやぶさ2」を地球の重力から「放り投げ出す」エンジン再起動の後、彼はようやくH-IIAロケット26号機から切り離されて独り立ちする。
そして、自分の力で目を開いて太陽を探し、姿勢を整え太陽電池パドルを開いてエネルギーを作り始める。
「はやぶさ2」誕生の瞬間である。
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その瞬間、彼が発する「産声」を、ここ内之浦宇宙空間観測所にある34mパラボラアンテナが補足し受信するかも知れない。
内之浦の34mパラボラアンテナは、彼の兄が最後に地球に送ってきた地球の姿の画像を受信したパラボラである。
兄の最期の声を聴いた34mパラボラが、弟の産声を聴く…
そんな瞬間が見られるかもしれない。
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だが結局、内之浦宇宙空間観測所の34mパラボラアンテナは午後3時を過ぎても「はやぶさ2」が昇って来るであろう西の空を向くことは無かった。
せめて、今現在彼が翔んでいるであろう方角の空を眺めていると、「はやぶさ2」のH-IIAからの分離が確認されたとの一報が入ってきた。
「やった!打上げは成功だ!!…とうとう、本当に旅立ったんだなぁ」
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※ちなみに、「はやぶさ2」の「産声」は内之浦ではなくNASAのゴールドストーン局が受信した模様
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帰り路、内之浦宇宙空間観測所のある山から降りて行くと、内之浦の町が夕暮れに沈もうとしていた。
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“旅立ちの地は種子島に移ったけれど、はやぶさの弟の母港もやはりここ内之浦です。
これから先、弟の旅路をどうぞ暖かく見守ってやって下さいね…”
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平成26年12月3日、「はやぶさ」の弟、小惑星探査機「はやぶさ2」誕生。
宇宙へと旅立つ。