昭和39年の東海道新幹線開業以来、世界に名だたる日本のshinkansenの象徴として君臨し続けてきた名車、
0系。
丸っこくて優しそうな愛嬌たっぷりの顔で、明るい日本の未来目指してビュワーンビュワーンと東海道山陽新幹線を走り続けてきた青いひかりの超特急0系も、今は隠居して山陽新幹線区間内のみで各駅停車の「こだま」として細々のんびり走り続ける日々。
そんなご隠居さん新幹線の0系にも、いよいよ最後の日が近づきつつある。今後大増備されることが決定した最新型の新幹線車両
N700系に追い出されて、早晩鉄路を去ることがほぼ確定しているのだ。
更に、0系の引退と同時に、新幹線史上最も気合の入った車両(と私は思っているのだよ)である孤高の世界最速ランナー
500系も最速列車「のぞみ」運用から外された上で東海道区間から追い出されて都落ちし、今後0系と同じ運命を辿ると思われる。
新幹線のパイオニアとして世界最先端を突っ走った0系と、ただひたすら世界最速で走ることのみを追求する宿命のもとに生まれた求道者500系。まさに正統派の「夢の超特急」であるこの2つの新幹線車両は、効率を極限まで追求したシステマチックな次世代車輌にバトンを渡し消え去ろうとしている。それと同時に新幹線は「ワクワクする夢の超特急」から「コストパフォーマンスに優れた輸送システム」に進化を遂げようとしている。
今のところ、0系運用全廃と500系の山陽新幹線区間封じ込めの詳細な予定はアナウンスされていない。しかし、今この瞬間が「0系こだまで山陽新幹線をのんびり旅し、500系のぞみで東海道新幹線を疾走する最後のチャンス」であることは間違いない。それなら今乗るしかない!
という訳で、0系と500系に乗って東京に行ってきました。
平成19年10月6日(土曜日)
熊本駅を早朝4:52に発車する始発の鹿児島本線上り特急「有明2」号で出発。
この列車、九州新幹線開業までは西鹿児島から博多まで直通運転する夜行特急「ドリームつばめ」だったが、現在は熊本から博多までの区間のみがそのまま残された結果、極端に朝早い時間に発車するダイヤ設定になっている。
こんな早暁に列車に乗る人なんかいるのかな…と思ったら、予想外にかなりの乗車率。指定席車はほぼ満席になった。今日から3連休なので朝一で出掛ける人が多いのだろう。
熊本発車と同時に気持ち良く眠ってしまい、目が覚めるともう博多到着。ここで山陽新幹線に乗り換える。
博多駅の新幹線ホームに登ると、東京行き「のぞみ2」号が発車していった。「のぞみ2」号は500系で運転されており、このままこの列車に乗りたくなるが、そうしない。プラグドアを閉めて滑る様に急加速して発車していく500系を見送り、ホームで待つこと暫し。入線してきたのは小倉行きの「こだま750」号。今から東京まで行くのに、何故隣の駅までしか行かない区間運転のこだまに乗るのかというと、勿論この「こだま750」号が0系で運転されるからである。やがてヘッドライトを輝かせてホームに滑り込んできたのは待望の0系…あれ?
0系じゃなくて、
100系じゃないか!
新幹線では車輌運用が結構流動的で、車輌変更も頻繁に行われるということは知っていたが、まさか今日の「こだま750」号で車輌変更とは。。。アア、ナンテコッタイ…
まあいい、この先、広島からも0系に乗る計画になっている。気を取り直して、100系で小倉へ向かう。
かつての100系名物だった2階建てグリーン車から転用したふかふかの豪華座席の座り心地を味わう間もなく、あっという間に終点の小倉に到着。
小倉ではN700系を使用した「のぞみ6」号東京行きの発着を見送って、「ふ~んN700系も実車を見ると結構いけてるかな?」とか思っているうちに後続の広島行き「こだま720」号が到着。またしても100系に乗り込み、新関門トンネルを潜って山陽新幹線をのんびり走る。ちょっと加速したかと思うとすぐに山中の駅にこまめに停まっていくこだまの旅は、まるでローカル線の鈍行列車に乗っているようだ…まあ一応特急列車だけど実際「各駅停車」だしね。
小倉から1時間半、広島に到着。さあここから先は待望の0系だ。
広島駅のホームに滑り込んできた「こだま636」号は、塗装が白地に青からグレー系にリニューアルされてはいるもののまさに丸いボンネットに丸いヘッドライトの初代夢の超特急!
間近で見ると0系は、新系列の新幹線車両に比べて実に「がっちり頑健に」造ってあるのが分かる。先頭部は丸く優雅なラインを描くが、その足回りを固めるスカート(排障器)は線路上のどんな障害物でも容赦なく弾き飛ばすぞと言わんばかりだし(実際、ちょっとした岩なら余裕で跳ね飛ばすらしい)、車体各部はむしろゴツゴツと角ばった無骨な造作になっており、屋根上にずらりと並ぶ空調のルーバーには迫力と威圧感さえ感じる。
車内はよく手入れされて清潔に保たれているが、それでも基本的なつくりの老朽化は隠せない。しかし、それが却ってレトロな昭和の雰囲気を醸し出して独特の味がある。
この洗面台なんか、3面鏡と流しだけのシンプルで洗練されたデザインと色使いがいい感じでしょ?
各車のデッキに掲げられたメーカーズプレート。この編成は製造から20年以上経過した車輌で構成されていることが分かる。
数年おきに新系列の車輌が開発され、新幹線の世代交代の間隔が極めて短くなっている現状を考えると、これだけの長きに渡り走り続ける新幹線車輌は唯一0系だけであろう。
本当に良いものを丁寧に造り、大事に使い込む。日本人が忘れてしまった大切な心を今一度思い出してくれと訴えかけているような、そんな気分になった。
0系の「こだま636」号は陽光溢れる山陽路を各駅停車でじっくり走る。のぞみで駆け抜けてしまうとトンネルが連続するつまらない区間に感じる山陽新幹線も、こだまのペースだとトンネルの合間の明かり区間では秋の田園風景が広がり、畦道に咲き乱れる彼岸花の鮮やかな紅色も目に飛び込んでくる。
途中何度も後続ののぞみとひかりに追い抜かれながら、ご隠居さんの余裕すら感じさせるのんびり旅を終えた「こだま636」号は終着駅新大阪に定時で到着した。700系「のぞみ」や300系「こだま」の東海道新幹線列車が数分おきにひっきりなしに発着し乗客が慌しく乗り降りする新大阪駅で、0系が停車しているホームにだけ夢の超特急の貫禄と独特な穏やかな雰囲気が漂っていた。
0系が広島行きこだまとして折り返し出発していくのを見送り、さあ今度は500系だ。
現在のところ、東海道新幹線では大体概ね2時間に1本ののぞみが500系で運転されている。次の500系のぞみは12:53発の「のぞみ18」号。小一時間の乗り継ぎ時間。
しかしこの「のぞみ18」、博多の発車時刻は10:28なのな、僕が博多を出発した3時間半も後じゃないか。我ながら何やってるんだ…日本一非常識な新幹線の乗客だろうなやっぱり。
何しろ電話予約した今回の旅程の指定券を駅で引き換えるとき、みどりの窓口氏が「お客さん、のぞみが満席だったんですか?こんな面倒くさい乗換えで申し訳ありませんねえ」って本気で気の毒がってたもんなぁ。。。とても「いえ、0系と500系に乗りたくてわざとこういう乗り換えにしたんです」とは言えんかったわい。
さて、新大阪から乗り込んだ「のぞみ18」号東京行きは秋の近江路を快調に飛ばしていく。後継の700系と比べて狭く居住性に劣ると言われることもある500系だが、座席に収まってしまうと航空機のように湾曲した独特のチューブ状の車内もそれ程居心地が悪い訳でもなく、それに山陽新幹線と違ってトンネルが少ないので車窓の風景を楽しめるのがいい。ワゴンサービスから缶ビールを買い、いい気分で新幹線の旅を楽しんだ。しかし、豊橋駅を通過して静岡県に入った辺りで曇り空になり、富士川橋梁を渡りながら富士山を見ることは出来なかった。富士の裾野を駆け抜ける新幹線は日本の象徴ともいうべき風景だが、富士山を見ながら500系が走るのもあと僅か…
新横浜駅を発車し、彼方に東京タワーを望みながら列車は日本の首都東京の中枢部へと進んで行く。再開発ビルの谷間の東京駅に、500系のぞみは定刻に到着した。
通勤電車並みにひっきりなしに列車が発着する東京駅では、遥々九州から到着した超特急500系もゆっくり休むヒマもなく、すぐさま車内の清掃と点検を済ませて再び博多へと折り返し発車して行った。
毎日、ひたすら博多と東京の間を行き来し続ける孤高の最速ランナー500系。そんな500系が東京駅に姿を見せるのも、もうあと僅か。
500系が発車してしまった後の東京駅ホーム。残り少ない500系東京君臨の光景を見ようと集まっていたギャラリーや家族連れが帰り支度をしていると、臨時列車の到着を告げるアナウンスが。やがて500系の去ったホームに滑り込んできたのは…
「幸せの黄色い新幹線」こと“ドクターイエロー”新幹線電気軌道総合試験車!
滅多に見ることの出来ないドクターイエローが、目の前にいる!これは鉄道ファンならずとも興奮しますぞ。
出会うと幸せになれるというドクターイエロー。しっかり堪能しました。
折り返し発車していくドクターイエローを見送って、さてこれから秋葉原に潜伏中の友人Kのアジトを訪ねるか…と、そのKからメールが。何だ?
「何?今から急に仕事が入って、夜中までかかりそう?」
仕方がない、夜中までそこら辺を走り回って時間を潰すか。
という訳でとりあえず秋葉原駅のコインロッカーに荷物を放り込み、東京駅まで戻ってから地下ホームに潜り込み横須賀線に乗って横浜へ(何で東海道線じゃなくてわざわざ横須賀線に乗ったんだろう…今思うと不思議だ)。横浜駅で改札を出て、横浜市営地下鉄乗り場へと向かう。改札近くにある「はまりんコンビニ」でお気に入りの
はまりん(リンク先は横浜市営「はまりんくらぶ」)のオリジナルグッズを買い込む。新製品のはまりんエコバッグをゲット。これは実用的でなかなかいい!
それから市営地下鉄で湘南台へ。横浜から湘南台までは乗った事がなかったんだよね、これでめでたく横浜市営地下鉄ブルーライン(あざみ野~湘南台)全線完乗。
来年春に開業する横浜市営地下鉄の新路線グリーンライン(中山~日吉)にも早く乗りたいなぁ。。。それにグリーンラインを使うと横浜から
JAXA宇宙科学研究本部の最寄り駅の横浜線の淵野辺まで港北ニュータウンのセンター南を経由する面白いルートで行けるから、夏の
JAXA宇宙科学研究本部相模原キャンパスの
一般公開に行く時に楽しみが増えそうだ。
湘南台ではまりん地下鉄と別れて、さてこれからどうするかね。
とりあえず、小田急線に乗り換えて藤沢へ。藤沢で秋葉原までの切符を買ってJR東海道線に乗り換えるが、東京行きの上り電車ではなく熱海方面行きの下りに乗車して茅ヶ崎で降りる。ここから相模線に乗り換え、いわゆる「大回り乗車」で遠回りして秋葉原を目指すのだ。
相模線は7年ほど前、勤め先の研修で浜松に赴任していた頃に暇つぶしで青春18きっぷで乗りに来た事があるが、ひたすら田圃の中を行くえらく鄙びた路線という印象しか残っていない。今日はもう日も暮れてしまい車窓は見えないが、家並みや商店の明かりもまばらなのでやはり田圃の中を走っていることが分かる。旅先で日が暮れて車窓も真っ暗だし、寂しいなぁ。。。
橋本・八王子と乗り継いで、八高線の高麗川から川越直通電車で川越を目指しているとKからメールが入った。たった今仕事が終わったので今から秋葉原に来い?そんな事言われても今埼玉県内だぜ、ちょっと待っててくれ。と返信。
結局、川越から埼京線の快速に乗り継いで、新宿から中央線と総武線経由で秋葉原に到着したのはその1時間後、午後11時過ぎ。
秋葉原駅に迎えに来てくれたITベンチャー企業の創業者で若きCEOであるKはiPodの最新型モデルiPod touchを片手に、ショルダーバッグから音楽をかき鳴らしながら現れた。
「何だよそのバッグ?」
と聞くと彼はニヤリと意味深な笑みを浮かべ、
「スピーカー内臓ディスクケースが入ってるんだ。秋葉原ではこんなもの当たり前のツールなのだよ」とのたもうたのであった。。。
平成19年10月8日(月曜日)
2日間に渡りKと一緒にアキバを遊び歩き、ジャンク品PCパーツのガレージセール(本当に半地下の車庫でガラクタ同然の部品を量り売りしている)や間口が1メートルもないような薄暗く穴倉のような部品屋を訪ね歩いたり、何故か最近秋葉原界隈で流行中の中東系外国人経営のケバブ屋で本格派ドネルケバブを買い食いしたり、メイドブームもここまで来たかという感のある「メイド眼鏡店(普通の眼鏡屋なのだが、何故か店員がメイドの格好をしている不思議な店)」に大笑いしたり、果ては裏通りの公園でライトセーバーを振り回して演舞していた自称「アキバの守護神」という謎の有名人「Aヒーロー」さんに会ったりして(見た目は怪しいけど話すと純朴でいい人でした)、散々秋葉原を満喫した。
一応、企業経営者であるKの業務に余り迷惑をかけてもいけないので、そろそろ退散することにする。
生き馬の目を抜くITビジネスの激務の側ら、丸2日も仕事をほったらかして面倒を見てくれたKに礼を言って、ついでに「実は11月の3連休のスカイネットアジア航空の格安バーゲンセールチケット買っちゃったんだ。という訳で来月も遊びに来るよ~」と告げて、唖然とするKと別れて熊本行きの寝台特急「はやぶさ」に乗り込む。
この2日間、寝る間も惜しんで遊びまわっていたので(本当に、Kのオフィスの片隅のサーバーの隙間でタオルケットに包まって数時間仮眠しただけだ)、乗車後缶ビールを流し込むとそのままベッドにシーツを張ってカーテンを閉めて自動的に寝入ってしまった。かくして、今までの拾有余年の乗り鉄人生の経験上初めて寝台列車でおやすみ消灯放送前に寝てしまうことになったのである。
まさに一生の不覚(?)。
平成19年10月9日(火曜日)
昨夜は夜中に目が覚めて、洗面所に歯を磨きに行ったり、その後ベッドに戻って車窓を眺めてたら姫路駅に運転停車したりしたような微かな記憶があるのだが定かではない。
朝になり、本格的に目を覚ますと列車は岩国を発車するところだった。これは僥倖である。何しろ僕は自慢ではないが下りの「はやぶさ」に乗るときはいつも徹底的に宵っ張りの朝寝坊であり、神戸や明石を過ぎるまで起きていて翌朝は下手すると小倉を過ぎるまで寝ているのが常なのだ。昨夜、寝不足のせいで早寝したおかげで、いつになく早起きすることが出来たのだ。
という訳で、未知の経験である早朝の山陽本線を往く「はやぶさ」の車窓を楽しんでいると、おはよう放送と車内販売開始の挨拶があった。僕はいつも「はやぶさ」に乗る時は寝酒をしこたま飲んで翌朝は熊本到着まで二日酔い状態なので、当然食欲もなく車内販売を利用したことはないのだが、せっかくの機会なので弁当を買ってみた。でも同時に缶ビールまで購入したのは内緒だ(つうか、朝8時前から当たり前に缶ビールを販売する車販の商品ラインナップも凄いな)。
下り「はやぶさ」の車内販売(併結運転する「富士」でも同時に行われる)で販売される弁当は、あなごめしと幕の内の2種。今回購入したのは幕の内。
見た目は何の変哲もないただの幕の内弁当だが、実はこの幕の内、知る人ぞ知る日本屈指の稀少弁当なのだ。
山陽本線柳井駅前の仕出し屋さんがつくっているこの幕の内弁当、何と下りの寝台特急「はやぶさ」「富士」積み込み専用で1日数個しか製造されず、列車内でしか入手することが出来ない幻の柳井駅弁なのだ(ちなみに柳井駅での駅弁販売は数年前に廃止されている)。
以前から一部好事家の間で話題になっていたこの「はやぶさ」「富士」限定幕の内、早寝早起きのおかげでとうとう賞味することが出来る。
本当に何の特徴もない純粋な幕の内弁当でしたが、ご飯に微かな炊き立ての温かさが残っていたのが嬉しかった。あと、おかずも実に素朴で、美味しく頂きました。この次から下り「はやぶさ」に乗る時は早起きしてまた食べたいぞ。
「はやぶさ」は下関駅で機関車を交換し、関門トンネルを潜り九州に入る。
何度も目にしたEF66の切り離しとEF81の連結。あと何回見ることが出来るだろう?
門司駅でEF81が切り離され、九州で御馴染みのED76が連結される。
「帰って来た…」と感じる一瞬。「富士」編成を切り離し、「はやぶさ」は熊本目指しラストスパート。
幻の幕の内を肴に朝から缶ビールを流し込んだせいか、小倉を発車するとまた眠くなり毛布をかぶって二度寝を決め込んでしまい気がつくと大牟田を発車するところだった。
定刻に熊本に到着した「はやぶさ」に別れを告げ、八代行き普通電車に乗り込む。
また近いうちに、「はやぶさ」車中で素朴な幻の幕の内を食べたいものだ。