平成23年11月19日、
熊本市立熊本博物館で
「宇宙学校・くまもと」が開催されました。
「宇宙学校」とは、
JAXA宇宙科学研究所の第一線で活躍する研究者が「先生」として登壇し、
学校の授業のようなスタイルで「生徒」の子供たちとの対話を行なって宇宙科学への興味を深めていこうという、
日本各地で順次開催されている催しです。
「生徒」は原則、小学校高学年の子供たちが対象ですが、今回の「宇宙学校・くまもと」では
宇宙に興味のある方どなたでも参加OK とのことだったので、
折角の地元での宇宙学校に僕も(
九州在住の宇宙クラスタの“大きいお友達”連中と連れ立って(笑))参加してきました!
今回の「先生方」は、
“JAXAのイケメン天文学者”こと
阪本成一先生をはじめ、
金星探査機「あかつき」のプロジェクトメンバーのお一人である
佐藤毅彦先生と、
小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトサイエンティストを務められ、「はやぶさ2」ではプロジェクトマネージャとして運用チームを率いられることになる
吉川真先生が登場するという超豪華な顔ぶれです。
「宇宙学校・くまもと」の会場、熊本市立熊本博物館。
先々週、
「HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-」上映会・上坂浩光監督の講演会を行ったばかりですね。
会場は大盛況!
二百数十人分もの参加応募があったそうです。
※「宇宙学校・くまもと」会場内の写真は、許可を得て撮影・掲載しています
午後1時、開校式。
熊本博物館の前野館長の挨拶に続いて、
宇宙学校の校長先生である
阪本成一先生の挨拶があり、宇宙学校・くまもと開校です!
(以下「宇宙学校」授業レポート)
「1時限目」は
佐藤毅彦先生の授業、
「地球に近い」兄弟星たちの探査
★日本の月惑星探査の歩み
1985年のハレー彗星探査(さきがけ、すいせい)に始まり、
火星探査(のぞみ)、小惑星探査(はやぶさ)、月探査(かぐや)、金星探査(あかつき)、そして2014年打ち上げのBepiColomboへ。
★金星の説明
金星は地球より5%小さい。消費税分だけ小さいね(笑)
自転の向きが地球と逆で、とてもゆっくり。200日に1回、西からお日様が登る。
でも、時速360キロの風が吹いている!(スーパーローテーション)
★「あかつき」の説明
パネルを折り畳んでコの字型のフレームに組み合わせたような構造になっていて、真ん中には「大黒柱」のようなチューブが通っている。
(※ここで、実際に「あかつき」の実機を組み立てている様子を映像で紹介)
「現代の名工」が「あかつき」を組み立てた。
搭載している5つのカメラの機能説明。
先生からの説明は、これで終了!あとはたっぷり、生徒である子供たちからの質問の時間です。
Q:人工衛星に付いている線(ケーブル)は何本ありますか?
A:何千本もあって、全部つなぐと総延長は何キロにもなるよ。
ケーブルだけで、何十キロもの重さになるんだ。ケーブルは案外重いので、衛星のデザイナーはとても気をつかうよ。
Q:地球の周りの風の強さはどれくらい?
A:地球は赤道周辺での自転速度は時速400キロくらいだけど、帯状に流れる風「ジェットストリーム」は時速200キロくらいになるよ。
でも、金星はほとんど自転しないのに時速360キロもの風が吹いている。その理由は謎なんだ。
Q:金星に空気はあるの?
A:風が吹くから、当然空気はあるよ。でも、地球の空気とは成分が違うんだ。
97%が炭酸ガスで、気圧は90気圧、気温は460℃もあるんだ!ハンダ付けのハンダが溶ける温度は200℃位なんだけど…
(阪本校長:90気圧というと、海の底くらい?)
そうですね、900メートル潜ったら、だいたい90気圧です。
(阪本校長:空気の濃い金星では、高いビルを建てて飛び降りてもたぶんそのまま地上にフンワリ軟着陸してしまうので、飛び降り自殺は絶対出来ないよ)
昔、ソ連の探査機がパラシュートを開いて金星の地表に降りようとしたんだけど、空気が濃いせいで降りるのに時間がかかりすぎて途中でバッテリが切れてしまったこともあります(笑)
Q:人工衛星の重さはどれくらいなの?
A:いろいろあるけど、重いものは何トンもあるよ。
日本のH2Aロケットは、地球周回軌道に10トンまでの重さの衛星を持ち上げられるんだ。
今、心配なのはロシアの火星探査機「フォボス・グルント」。火星に向かうのに失敗して、現在地球の周りを回り続けているんだけど、重さが何トンもあるし、推進剤として猛毒のヒドラジンを積んでいるので、もし落ちてきたら大変だ。
Q:宇宙って、なんで軽いの?
A:え~っと、宇宙って軽いのかな?(笑)それは「重力がなくなる」ということだよね!
重力は、地球から離れた宇宙でも弱くなるけど弱くはなるけど、遠くでもちゃんと働くんだ。
(阪本校長:じゃあ、何で宇宙船の中は無重力なんですか?)
それは、地球の周りを回るということは「ずっと落ち続けている」というのと同じ事だからだね。
下りのエレベーターに乗ると、身体がふわっと軽くなることがあるでしょ?あれと同じ事です。
Q:人工衛星が出来上がるまで、何年かかるの?
A:「あかつき」の場合は、2001年にプロジェクトがスタートしたので、9年かけて作ったんだ。
でも実際は、その何年も前から準備をしていたので、十数年かかったことになるね。
(阪本校長:「はやぶさ」の場合は?)
吉川先生:1996年からなのですが、2003年の打ち上げまでに事前準備で十数年かかってます。
佐藤先生:「あかつき」は総予算二百数十億円のプロジェクトですが、予算次第で変わりますが…でも、やっぱりだいたい10年くらいになりますねぇ
Q:宇宙の温度は何度くらい?
A:場所によっても違うんだけど、例えば太陽のすぐまわりは何千度もある。
でも、全体的にはひんやりしていて、絶対温度3℃(マイナス270℃)で平均的なんだ。
(阪本校長:放射熱のお話でした)
Q:ブラックホールのかたちは?
(阪本校長:ブラックホールの質問キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!)
A:間違いなく、丸い!
大きな重力のある天体は、真ん中に集まろうとして丸くなるんだ。
ブラックホールは重力がとても大きいので、丸というか球体以外には成り得ないんだ。
Q:ブラックホールはどうやって出来たの?
A:核融合が進んですべて鉄まで行き着くと、もう熱を出せないので恒星は重力を支えきれなくなって潰れてしまってブラックホールになるんだ。
Q:「あかつき」や「はやぶさ」は、どうして自分の位置がわかるの?
(阪本校長:本人たちは、わかっているのかな?(笑))
A:地球から電波を送って、迷子にならないようにしているよ。
実は明後日、「あかつき」が迷子にならずに金星に行けるように3回目の軌道修正をやるんだけど、私が担当者です。(会場から拍手)
(※「あかつき」の近日点における3回目の軌道制御は、見事に成功しました!佐藤先生、お疲れ様でした!!)
金星探査機「あかつき」の近日点における軌道制御(3回目)の実施について
(JAXA宇宙科学研究所トピックス 2011年11月21日)
Q:宇宙は有限なの?無限なの?
A:たぶん有限。ある時期に、宇宙は生まれたと言われているよ。
Q:ホワイトホールって何?
A:ブラックホールに吸い込まれたものが、異次元を通って出てくるとされているものなんだけど…
ブラックホールが存在することはわかっているんだけど、ホワイトホールは…よくわからないんだ!
私は、存在しないと考えています。
(阪本校長:クエーサーが見つかったとき、「ホワイトホールキタ━(゜∀゜)━!と思ったけど…どうやら違うみたい)
Q:宇宙はどうやって出来たの?
A:謎です。
137億年前に大爆発があって出来たらしいんだけど、なんで爆発したのかが全くわからない!
人類は、宇宙のことの1%も知らないんだと思うよ。
(阪本校長:天文学は、調べれば調べるほどわからないことが増える…)
Q:人工衛星は、どうやって名前をつけるの?
A:「かぐや」は公募したけど、人工衛星の「親」の人たちが決めることもあるよ。
「あかつき」は「親」が決めた名前だけど、もし公募すれば「めがみ」とか「みょうじょう」とかベタな名前になるだろうなぁ…と心配しました(笑)
今では、「AKATSUKI」の名前は欧米の研究者にも浸透しています。
「あかつき」の中村正人プロジェクトマネージャは「ひばり」という名前にしたかったみたいだけど、ちょうど打ち上げ時期に「はやぶさ」が地球に帰ってくるので、「『ひばり』は『はやぶさ』に喰われるかも」と思いました(笑)
(阪本校長:特急列車の名前もよく人工衛星につきますね)
Q:人工衛星は、何で出来ているの?
A:「あかつき」のパネルはアルミで出来ているよ。ハニカム構造というもので、軽くて丈夫なんだ。
(阪本校長:情熱と根性で出来ています!)
ここで、1時限目終了。
休憩時間、先生方の周りには子供たちが集まって大騒ぎ!
どんなことをお話ししてるのかなぁ…
続いて、「2時限目」は
吉川真先生の授業、
小惑星探査機「はやぶさ」-その7年間の物語-
★「はやぶさ」の説明
大きさも重さも「あかつき」と同じくらい。
命名の由来は、鳥のハヤブサから。
★来週、ここ熊本博物館に「はやぶさ」の地球帰還カプセルが来ます
前面ヒートシールドは現在分析中なのでレプリカだけど、それ以外は本物。
★イトカワから持ち帰った粒子も分析中
来年から、世界中の研究者に提供を開始します。
★今年度、「はやぶさ2」が正式にプロジェクトスタート!
2020年には地球に戻ってくるので、会場にいるみなさん、是非将来は「はやぶさ2」プロジェクトに関わって下さい!
ここから、子供たちからの質問の時間。
Q:いま小学6年生なんですけど、「はやぶさ2」プロジェクトに関わるにはどうすればいいですか?
A:あなたは、今なにが好きですか?
あなたと同じ質問を、よく大学生からも受けるんだけど、分野を絞る必要はないんだ。
宇宙の仕事にはいろんな分野があるので、自分がやりたいことをどんどんやりなさい。
(阪本校長:そして、なんでもいいからトップを目指せ!)
Q:「はやぶさ」と「はやぶさ2」の違いは?
A:基本的にはほとんど同じだけど、目指す小惑星のタイプが違うんだ。
また、「はやぶさ2」では小惑星の表面にクレーターをつくってそこに降りるんだけど、これはとても難しい。
Q:「はやぶさ2」に期待することは何ですか?
(阪本校長:(即答)安全に行って帰ってくること!キリッ)
A:映画にならないように(笑)
イトカワには無かったものが取れることですね。水や有機物、生命の元となるもの。これに期待しています。
Q:「はやぶさ」をつくる時に、工夫したことは?
A:イオンエンジン。今までと違う新しいエンジンをつくるのに苦労した。
ターゲットマーカ。弾まないように、お手玉構造にした。
ミネルヴァ。車も足もないのに、おもりをモータで回して移動する。残念ながらイトカワには降ろせなかったけれど…
サンプラーホーンも工夫しています。
Q:あのボール(ターゲットマーカ)が、転がって宇宙に落ちたらどうなるの?
A:イトカワの平らな場所にボールを落としたから、転がっても宇宙には落ちないよ。
それに、小さくても重力はちゃんとあるからね。
Q:「はやぶさ」の持って帰ったイトカワの石には、太陽系のむかしに関する情報は入っていたの?
A:今、分析中。もう少し詳しく調べないとね…
まだ、最初のステップです。
Q:今後の探査機がどこに行くか、もう決めてるの?
A:「はやぶさ2」は小惑星に行くよ。他のアイデアとして、火星、木星、水星…
行ったことがない場所がありすぎるけど、お金が無いので、一番効果的な場所を目指すんだ。
(阪本校長:月に降りようか、とも考えてるよ)
Q:「はやぶさ2」には、どんなパーツを付けるつもりですか?
A:「はやぶさ」とほぼ同じなんだけど、
アンテナを3種類、イオンエンジン、化学エンジンを12個…観測装置は一部違うけどほとんど同じ。
平面アンテナを2つ付けることと、「爆弾」を持っていくこと。ここは「はやぶさ」とは違うよ。
Q:イオンエンジンはどうやって噴射しているの?
A:キセノンをイオン化して噴射する。イオンは電気を持っている、これを利用する。
Q:なぜ、「はやぶさ」はこのようなミッションをやることになったの?
A:プロジェクトメンバーは「世界初」をやりたかった。NASAもやっていないことを。
NASAはイトカワのような小さな天体には行っていないし、サンプルリターンもしていないんだ。
Q:ターゲットマーカはこのあとどうなるの?
A:何もなければ、ずっとそこにあるよ。
隕石が当たれば、弾き飛ばされてしまう。イトカワが大きい惑星に近づけば、どこかに飛んでいってしまうかも知れない。
Q:世界一たくさん小惑星を見つけた国は?
A:アメリカ。
地球に接近する天体を探している。地球にぶつかると大変だから!
(阪本校長:吉川さん、これから宇宙学校が終わったら、日本で地球に接近する天体を探している岡山の美星スペースガードセンターに講演に行かれるんですよね)
Q:「はやぶさ」にはいくらお金がかかったの?
A:本体に120億円、打ち上げるロケットに100億円、あとは運用経費と込みで…二百数十億円ですね。
「はやぶさ2」は300億円くらいかかる。
アメリカの小惑星探査機「オシリス・レックス」は本体だけで500億円、ヨーロッパが検討している計画も同額ぐらい。
Q:吉川先生は「はやぶさ」のカプセルに名前を入れましたか?
A:私は入れていません。
(阪本校長:あれはねぇ、川口先生は「もし名前が手書きだったら、絶ッ対に!許さなかった!!」って声が震えるくらい怒ってたよ(笑))
Q:「はやぶさ2」は地球に帰ってきたら燃え尽きてしまうの?
A:燃え尽きない予定。姿勢制御エンジンを噴かして、地球から軌道をそらします。
Q:人工衛星には人間は乗れないの?
A:「はやぶさ」は小さいから…
(阪本校長:強引に乗ると「片道旅行」になっちゃうよ)
アメリカは、地球に近づく小惑星に人間を送ろうと積極的に考えていますね。
…質問は尽きませんが、残念ながらこれにて授業は終了。
最後に、閉校式での先生の挨拶です。
佐藤毅彦先生:
私が星に興味を持ったきっかけは、小学校4年生の時、林間学校で見た明るい北斗七星です。
当時は渋谷の五島プラネタリウムも、建物の外まで行列が出来る程の大人気でした。
先生に勧められて進学した中学校で太陽観測部に入って、そこで「はやぶさ」のイオンエンジンを担当した國中均先生に同級生として出会いました。
私は、大変良い先生に出会えました。好きな世界に目を開かせてくれました。
先生と、そして周りの友人とよい関係を築くことは大切です。
多くの人が集まって力を発揮する惑星探査において、人から好かれるというのは大切な事です。
吉川真先生:
私も佐藤先生と同じく小学4年の時に望遠鏡を買ってもらい、自己流で天体観測を始めました。
中学高校とは運動部に入り、登山をしていました。科学者に必要な体力は付いたので良かったです。
大学に入って、3年の時に天文学科を選びました。小惑星の軌道計算をやっていました。
惑星探査よりも天文学をやろうと思っていたんですが、気が付けば「はやぶさ」チームにいました。
自分が好きな事をしてきたので、こうなったのかなぁ(笑)
…以上、子供たちの宇宙科学への興味を大いに刺激したであろう充実した内容で、
「宇宙学校・くまもと」は無事に閉校!
おとなの宇宙ファンも、子供たちの活発な質問とそれに対する超一流の先生方の明快な回答を聴いていると、忘れかけていた自由な発想と好奇心を思い出させてくれるようで有意義でした。
子供もおとなも楽しい「宇宙学校」、機会があればまた参加したいです!
帰り際、教壇の上に置かれていた吉川先生の「イトカワ模型」と、
「はやぶさ2」のターゲット天体「1999 JU3」の模型を発見。
イトカワラッコと違って、1999 JU3は球体に近いかたちをしているんですね。
それにしても、ラップに包まれた1999 JU3は「剥いた里芋」そっくりだなぁ