写真:H-IIAロケット16号機打ち上げから約1時間後の種子島宇宙センター大崎射場
平成21年11月28日、JAXAの種子島宇宙センターからH-IIAロケット16号機が打ち上げられました。
ロケット打ち上げはJAXAにとっての「年間最重要行事」というか「一大イベント」。
毎回、打ち上げキャンペーンが行われ華々しくアピールされます。しかし、今回のH-IIAロケット16号機打ち上げは事前に殆ど公表されず、ひっそりとこっそりと準備が進められました。
何故なら…今回の打ち上げの「積み荷」となる衛星は日本政府の
情報収集衛星「光学3号機」だから。
危険で厄介な隣人である“北の共和国”の動静に目を光らせるべく、秘かに打ち上げられ秘かに運用される情報収集衛星、極力その情報を外部に漏らすまいと慎重な打ち上げとなります。
そんな異色の打ち上げとなった今回も、熊本県八代の自宅から日帰り強行軍で見に行きました、種子島へ!
打ち上げ前日の金曜日は早めに就寝。
しっかり仮眠を取ってから午前3時頃、熊本県八代をクルマで出発。
しかし、自宅周辺では星がきれいに見えていたのに、九州道八代IC付近は視界が全く利かない濃霧。11月の末とは思えない暖かさ、いや暑さのせいか。
無事に鹿児島港まで走れるか不安になりますが、九州道は八代IC以南は殆どトンネル区間なので霧の影響を全く受けることなく走行可能。ああ良かった。
鹿児島県に入る頃は霧も晴れ渡り、降るような星空。真っ暗な山の中をオリオン座に向かって走りながら「この分なら、天候も期待できそう!」
(しかしこの見通しは甘かった…全く、天候だけはどうにもならない)
予定通り、夜明け前には鹿児島港に到着。
桜島がきれいな夜明けです。
この風景を見ると「さあ、今からロケットを見に行くぞ!」と気分が高まります。
予約していた種子島行き高速船「トッピー」始発便に乗船。
「トッピー」船内にこんな表示が。
この船は以前は佐渡島航路に使われていたんでしょうかね?
ジェットフォイルの「トッピー」は波静かな錦江湾をスイスイ南下。
揺れないし乗り心地がいいので、ジェットフォイルに乗るとすぐ眠くなります。今回も、途中で開聞岳を寝惚け眼で見たような記憶があるけど気がつけばもう種子島の西之表港に到着間近。
(ところで、
先日惜しまれながら運行を終えた大分のホーバークラフトをこの航路で引き取ってくれないかな…ホーバーならジェットフォイルを補完する運行が出来ると思うんだけど。でも、佐多岬以南の外海は波が高すぎてムリかなやっぱり)
西之表港からは、移動のスピードが勝負です。
「トッピー」始発便の西之表港到着は午前9時05分、H-IIAロケット16号機の打ち上げ時刻は午前10時21分。
時間の余裕は僅か1時間16分しかありません。この間に、種子島北部の西之表から種子島宇宙センターのある南部の南種子町まで移動しなければならないのです。
島の中とはいえ、この間の距離は40キロくらいあります。普通に路線バスで移動すると1時間以上もかかるのです。しかも、今年に入って種子島では路線バスの大幅減便が行われたせいで高速船とバスの接続が悪くなってしまい、バスの出発を待っていると到底打ち上げには間に合いません。
そこで、今回は機動性を優先させてレンタカーを手配しておいたのです。
事前にレンタカー会社に連絡して「ロケット打ち上げを見に行きたいので、とにかく急ぐ」と伝えておいたので、港まで送迎に来てもらえました。
迎えに来てくれたレンタカー会社の事務所の人によると、今日は他にも「ロケット見学組」の予約が入っていて、島内でももう空車はないとのこと。
レンタカー会社の事務所まで送ってもらい、大急ぎで受付を済ませてすぐに出発。
そしてひたすら島内を南下。勿論急ぐ余り事故っては元も子もないので、安全運転を心がけます。
走ること1時間足らず、どうにか10時過ぎにはいつもの打ち上げ見学スポット
「長谷展望公園」に到達。
やはり土曜日という事もあってか、地元の方と思われる人々、家族連れやグループで大賑わいです。駐車場もほぼ満車。
また、今回は情報収集衛星打ち上げとあってか公園内にも警備の警察官の姿が目立ちます。
しかしこの天気…雲がいやな感じに低く垂れ込めています。
でも、今更どうしようもない。
とりあえず、打ち上げを見る場所を探します。
ここ長谷公園は広大な芝生広場があり相当大人数の観客を収容できますが、どういう訳だかH-IIAロケットの打ち上げられる種子島宇宙センター大崎射場の方角右前方には木の茂みがあって視界を塞いでしまっています。その為、芝生広場の右側では直接ロケットのいる場所を見ることが出来ません。
また、ロケットを見に集まった人たちを誘導して前方から順番に場所を詰めたりするようなことも行われないので、余計に混雑に拍車がかかっているように思えました。
ともあれ、どうにか周りの人の邪魔にならない場所を探して三脚をセットして、デジカメを動画モードで据え付けます。
既に打ち上げ予定時刻まで10分を切っていてカウントダウン音声も聞こえてくるので、緊張感が高まります。
カウントダウンが5秒前の時点でデジカメの録画をスタート、目視でしっかり大崎射場の方角を見つめます。
そしてカウントダウンゼロ…リフトオフ!強烈な光が、彼方の方角に燈ります。
ゆっくりと上昇する硬質の光。
H-IIAがいま、旅立ちます。
「あ…クリスマスツリーみたいだ…」
これが今回の打ち上げの感想。
茂みのかげに燈ったH-IIAの噴射炎は、宇宙に行くクリスマスツリーのイルミネーションのようでした。
とてもきれいな打ち上げでした。
リフトオフからわずか数秒後、H-IIA16号機は雲に飛び込み姿を消しました。
「ああ~!」
長谷公園に集まった全ての人が雲の先にわずかに覗く青空を見上げます。
「雲から出て来い、見えろ、見えろ!」
しかし無情にもH-IIA16号機はそのまま二度と雲間から姿を現すことなく、宇宙へと旅立って行きました。
雲の中から、ロケットエンジンのバリバリという爆音だけが地上に降り注ぎます。
地上と雲の間には、H-IIA16号機の辿った道筋がロケット雲となって残されました。
ロケット雲もやがて、風にかき消され消えていきました。
そして、長谷展望公園からはすぐに誰もいなくなりました。
打ち上げ実況放送を流していたスピーカーだけが芝生広場に残されましたが、これもすぐに片付けられてしまいました。
このため、衛星が無事に分離され軌道に投入されたかどうかが判らないまま、今回のH-IIA16号機打ち上げは終わってしまいました。
衛星が軌道に乗って初めて打ち上げは成功となります。打ち上げそのものの詳細を極力伏せたい事情のある情報収集衛星故に仕方がないこととは言え、打ち上げの成否を知らぬまま、何とも落ち着かないままで僕も長谷展望公園を後にすることになりました。
長谷公園入り口には、いつも通りに打ち上げ日時を示した告知看板が出ていました。
長谷周辺でも、打ち上げ時の射場付近の道路封鎖を告知する看板が出ていました。
通行止めは打ち上げ30分後に解除されています。
陸上の道路だけでなく、海上も封鎖されています。
さて、もう射場付近の封鎖は解除されているので、打ち上げ直後の射点を見るために種子島宇宙センターまで行ってみましょう。
種子島宇宙センター入り口には検問所のテントが残っています。
やはり今回のH-IIA16号機打ち上げは「情報収集衛星」搭載という事情から、かなり厳しい警戒態勢が敷かれていたようです。
種子島宇宙センター敷地内の山中「ロケットの丘展望所」から、さっきH-IIA16号機が打ち上げられたばかりの大崎射場吉信第1射点(一番右側のタワー)を見ます。
施設には照明が灯され、第1射点のタワーには噴射で炙られた焦げ後が生々しく残っています。
今なお、打ち上げ時の熱気が伝わってくるようです。
これだけ射場に近い場所から打ち上げを見ることが出来ればさぞかし凄い迫力でしょうが、勿論この場所は打ち上げ時には封鎖され無人となります。
山道を降りて、宇宙科学技術館付近にやって来ました。
種子島宇宙センターのシンボル、直立したN-I ロケットと寝転んだH-IIロケットの実物大模型。
残念ながら今日は宇宙科学技術館は打ち上げに伴い臨時休館しています。
僕が種子島宇宙センターで一番気に入っている場所、小型ロケット発射場の先にある渚にて。
波の向うに大崎射場が見えます。
ここまで歩いてきたら、とうとう雨が降り始めました。日本の南方海上に季節外れの台風が発生しているせいか、波も高くなっています。
「なんかここんとこ、この場所に来ると大抵天気が荒れてるんだよな~、この前の
皆既日食の日も雨が降ってたし…」
種子島宇宙センター内には、まだ部外者の立ち入りが規制されてる区画があるので、一旦外に出ます。
せっかくレンタカーを借りているので、有効活用すべくちょっと走ってみましょうかね。
という訳で、やって来たのはここ。
門倉岬。
種子島最南端に位置し、鉄砲伝来の地として知られる観光地です。
今日はやはり離島までの間のちょっとした観光で訪れている「ロケット見学組」らしき人の姿を見かけました。
門倉岬は断崖絶壁になっています。
こんな荒々しい場所に、鉄砲を積んだ南蛮(ポルトガル)船が流れ着いたんですねぇ。
…文字通り、難破船だったんでしょうね。
門倉岬で海を見てから、種子島宇宙センターに戻る途中、
南種子町の交差点に何やら横断幕が出ています。
よく見てみると…
「おお!
H-IIA16号機の打ち上げは成功したのかー!!」
この横断幕を見て、初めて知りました。
おめでとう、H-IIA16号機。
「情報収集衛星 光学3号機」、日本の平和を頼んだぞ!
さて、種子島宇宙センターに戻ってきました。
さっきは入れなかったこの場所へと向かいます。
竹崎展望所。
報道関係者が取材を行うプレスセンターがあり、報道用の打ち上げ撮影やVIPが打ち上げを視察するのに使われる場所です。
新聞やTV等でのH-IIAロケット打ち上げの写真や映像は、ここで撮影されます。
まだマスコミ関係の取材車が残っていますね。
先程、マスコミ関係者がH-IIA16号機打ち上げの撮影を行っていたであろう屋上の撮影所に登ってみました。
屋上にはカウントダウンクロックが出されたままになっていますね。
望遠。
砂浜の向うに、大崎射場が見えています。
さらに望遠。
報道で御馴染のアングルで吉信第1射点が見えます。
ちなみに、竹崎展望所の裏手は漁港になっています。
さらにこの周辺はサーファーが波を求めて集まるビーチになっていて、竹崎展望所の建屋の1階には何故かサーファー用のシャワー室もあったりします。
レンタカーを返却したりしないといけないので、そろそろ西之表に戻りましょうかね。
帰り際に、大崎射場へと続く入り口まで行ってみました。
当然ですが、関係者以外の立ち入りは出来ません。
門扉は堅く閉ざされています。
丘の向うに、大型ロケット組立棟 (VAB)が見えています。
この次に、ここで組み上げられるH-IIA17号機は来年の初夏に
金星探査機「あかつき」を打ち上げることになるんでしょうね。
火星探査機「のぞみ」や
小惑星探査機「はやぶさ」、
月周回衛星「かぐや」に続く、遠くの宇宙へと向かう探査機の打ち上げなので楽しみです。
是非とも、また打ち上げを見に来たいですねぇ。
夕陽の西之表港から「トッピー」に乗って、さようなら種子島。
今回も楽しいロケット打ち上げでした。
また来るぞ!
…でも、出来れば今度はカラッと雲一つない快晴の青空を見せて欲しいな。
一度この目でH-IIAロケットからの固体ロケットブースタ(SRB-A)の分離を見てみたいんだよ。。。
(レポート終り)