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太陽系の最果て、冥王星では大気の崩壊が急速に進んでいる!? 大気圧のピークは探査機“ニューホライズンズ”が最接近したころ

2020年07月04日 | 冥王星の探査
太陽系の外縁部に位置する冥王星。
今回、冥王星が背景にある恒星を覆い隠す現象の解析から、冥王星の大気圧が2016年と比べて約20%も低下していることが明らかになりました。
冥王星では予想外のペースで大気の主成分である窒素ガスが表面に凝結する、大気の崩壊が進んでいる可能性があるようです。

氷の昇華により生成される冥王星の大気

太陽系外縁部のカイパーベルトに位置する直径2400キロほどの準惑星が冥王星です。

冥王星から太陽までの距離は約50億キロ。
地球と太陽との距離のおよそ30倍も離れた軌道を公転していて、太陽系探査において長らく謎に包まれた未踏のフロンティアでした。

なので、冥王星には多くの謎があり、その中でも不思議なふるまいをする大気の存在が大きな謎になっています。

冥王星の大気は、地表を覆う窒素を中心とした氷の昇華により生成されたと考えられています。

ただ、冥王星の公転軌道は、太陽系の他の惑星に比べて楕円の度合いが大きいんですねー

なので、表面の日射量も季節によって大きく変わっていきます。
その結果、表面にある氷の昇華と凝結のバランスも、季節によって大きく変わると考えられていました。

大気を供給するハート状の領域“スプートニク平原”

1989年以降、冥王星は太陽から遠ざかりつつありました。
にもかかわらず、冥王星の大気圧は1988年に大気が発見されて以来、2016年まで単調に上昇し続けていたんですねー

この謎の解明に大きく貢献したのが、2015年7月に冥王星を訪れたNASAの探査機“ニューホライズンズ”でした。
“ニューホライズンズ”は2015年7月に史上初めて冥王星へのフライバイ(接近通過)による観測を成功させている。
“ニューホライズンズ”は、大気の供給源である窒素の氷が“スプートニク平原”と呼ばれるハート状の領域に大量に貯留されているのを発見。

過去30年近く観測されてきた大気圧の上昇傾向は、この平原の日射量が増えてきたことで、表面の氷が昇華して大気に供給されたことが原因だと考えられるようになります。
太陽系の外縁部に位置する準惑星の冥王星。中央から下に伸びている白く滑らかな領域が“スプートニク平原”(Credit: NASA/JHUAPL/SwRI)
太陽系の外縁部に位置する準惑星の冥王星。中央から下に伸びている白く滑らかな領域が“スプートニク平原”(Credit: NASA/JHUAPL/SwRI)
“ニューホライズンズ”の探査結果から、冥王星の大気が今後どのような運命をたどるのかについて様々な仮説が提唱されています。

いくつかの理論モデルで予測されていたのは、2015年以降は“スプートニク平原”での日射量の減少に伴い、気圧の上昇が止まるか緩やかに低下するとというもの。

でも、これまでの観測結果では、気圧の上昇傾向にはっきりとした変化は見られず…
さらなる観測による検証が求められていました。

予想外のペースで進む大気の凝結

そもそも冥王星の大気は、どのように観測されてきたのでしょうか?

天文学者は探査機を送る前から、冥王星が背景の恒星を覆い隠す“掩蔽(えんぺい)”と呼ばれる現象を地上から観測し、大気の研究を行ってきました。

掩蔽される恒星の光は、冥王星本体にさえぎられる直前に、大気による屈折の影響を受けて折れ曲がります。

そのため、恒星の光は掩蔽の際に瞬間的に明滅することなく、ゆっくりと光が増減。
この増減の緩やかさを計測することで大気圧を知ることができます。
地上から見て探査機が惑星の背後に隠れるとき、または背後から現れるときに探査機から電波を発し、地上のアンテナで電波を受信。このときの周波数変化から、惑星大気の温度を測定する電波掩蔽観測という手法もある。
2019年7月17日、京都大学の研究グループは冥王星による“いて座”の恒星の掩蔽現象を観測。
冥王星の大気の様子を調べるため、掩蔽の観測データを詳細に解析しています。

観測に用いられたのは、ハワイのハレアカラ山頂に設置されている惑星大気観測専用望遠鏡“T60望遠鏡”でした。
掩蔽観測の概略図。冥王星の大気がレンズのような役割を果たして恒星の光が屈折し、冥王星の内側に回り込んでいる。(Credit: 有松亘/AONEKOYA、(枠内画像)東北大学)
掩蔽観測の概略図。冥王星の大気がレンズのような役割を果たして恒星の光が屈折し、冥王星の内側に回り込んでいる。(Credit: 有松亘/AONEKOYA、(枠内画像)東北大学)
観測から得られた恒星の光度変化を解析して明らかになったのは、2019年の冥王星(表面付近)の大気圧が、直前の観測結果(2016年)と比較して約21%も低下していること。

どうやら、冥王星の大気圧は“ニューホライズンズ”が最接近した2015年頃にピークを迎え、その後1年間当たりおよそ7%のペースで急速に低下しているようです。
過去の掩蔽観測(誤差棒つき黒丸)及び今回(誤差棒つき赤四角)から判明した冥王星の表面付近での大気圧の変化。大気が発見された1988年から2016年にかけてはほぼ単調に上昇していたが、2019年の観測結果は2016年と比較しておよそ21%も低下している。(Credit: Arimatsu et al. Astronomy & Astrophysics, 2020 を改変)
過去の掩蔽観測(誤差棒つき黒丸)及び今回(誤差棒つき赤四角)から判明した冥王星の表面付近での大気圧の変化。大気が発見された1988年から2016年にかけてはほぼ単調に上昇していたが、2019年の観測結果は2016年と比較しておよそ21%も低下している。(Credit: Arimatsu et al. Astronomy & Astrophysics, 2020 を改変)
これまでの理論モデルでは、“スプートニク平原”における日射量の減少に伴う大気圧の低下ペースは、せいぜい1年間当たり1%程度と予測されていました。

でも、今回の観測で分かった急速な気圧低下は、これまでの予測を覆すものになりました。
冥王星では、予想外のペースで大気の主成分である窒素ガスが表面に凝結して、大気の崩壊が進んでいる可能性があるんですねー

太陽系の果てにありながら数年間で劇的に変化している冥王星は、今後どのような変化を見せてくれるのでしょうか?

掩蔽の観測を続けていけば、冥王星の大気の特性が分かり謎が明らかになるはずですよ。


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