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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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地球帰還後に“はやぶさ2”は拡張ミッションへ! 目的地の候補は地球軌道より内側の小惑星、金星観測の可能性も…

2020年07月28日 | 小惑星探査 はやぶさ2
12月6日に地球帰還予定の小惑星探査機“はやぶさ2”。
イオンエンジンがまだまだ使用可能な状態なので、拡張ミッションにより別の天体を目指すことが決まっています。
拡張ミッションで目指す天体は、多くの候補から2案にまで絞られていて今秋までに決定するようです。
“はやぶさ”の後継機として小惑星“リュウグウ”からのサンプルリターンを行う小惑星探査機“はやぶさ2”。(Credit: JAXA)
“はやぶさ”の後継機として小惑星“リュウグウ”からのサンプルリターンを行う小惑星探査機“はやぶさ2”。(Credit: JAXA)


“はやぶさ2”は拡張ミッションへ

“はやぶさ2”は12月6日に地球に帰還すると、小惑星“りゅうぐう”のサンプルが入っているカプセルを分離。
これで、“はやぶさ2”のミッションはすべて完了になるはずでした。

ただ、カプセル分離後の“はやぶさ2”には、約55%もイオンエンジンの燃料が残っていて、イオンエンジンが設計寿命に達するまで6000時間ほどあります。
イオンエンジンの設計寿命は1万4000時間。帰還までの累積の運転時間は7000~8000時間ほどで、地上試験では6万時間以上の運転も達成している。

このことからJAXAではイオンエンジンが使用可能と判断。
“はやぶさ2”は地球に着陸するとなくエスケープ軌道に入り、拡張ミッションのため別の天体を目指すことになります。

拡張ミッションを実施する場合、必要になるのが追加の運用経費です。
ただ、新規のミッションを立ち上げることを考えれば、はるかに低予算で科学的成果を得ることが期待できるんですねー
初期のミッションは達成済みなので、“はやぶさ2”は失敗を恐れずに拡張ミッションにチャレンジできるわけです。


どんな天体を目指すべきか

拡張ミッション自体は珍しいことではありません。
NASAの彗星探査機“スターダスト”はヴィルト第2彗星からサンプルを持ち帰り、その後テンペル第1彗星に向かい追加の探査を実施しています。

では、“はやぶさ2”はどの天体に向かえばいいのでしょうか?

目指す天体の基準になるのは、“到達できる天体”と“その天体に行く意義”になります。

地球帰還後の“はやぶさ2”には、イオンエンジンの燃料・設計寿命ともに余裕があります。
なので、残りの燃料で到達できる天体が対象になり、軌道によって探査機が受ける熱や発電量が大きく変わってくることにも考慮が必要です。

また、せっかく別の天体に到達しても、新しい発見が期待できないと意味がありません。
そこで重要になってくるのが、まだ誰も探査したことがない天体など、科学的な面白さがあるもの。
“リュウグウ”用に設計された観測装置で十分な観測ができるかどうかもポイントになってきます。


目標天体の絞り込みと探査の方法

天体の探査方法には、天体のそばを通過しながら観測を行う“フライバイ”と天体と速度を合わせて天体の近傍に長時間滞在する“ランデブー”があります。

フライバイの方が軌道設計は容易になります。
ただ、“はやぶさ2”はもともとランデブー探査向けの設計になっているので、拡張ミッションはまずランデブーを優先するようです。

すでに決まっているのは、地球帰還時の“はやぶさ2”がスイングバイによって地球公転軌道の内側に向かうこと。
ここから先、イオンエンジンによる軌道制御と地球と金星によるスイングバイを利用して到達可能な天体を探してみると、地球軌道を通過する約1万8002個の小惑星や彗星の中から、354天体が残りました。
第一段階の絞り込み。(Credit: JAXA)
第一段階の絞り込み。(Credit: JAXA)
目標天体選定の条件は、なるべく燃料を節約し、早く到達できることです。

到達は早い天体で2026年末。
ただ、探査機の設計寿命を大きく超えての運用になるので、到達の期限は2031年末までとしています。
この他、太陽から遠すぎないこと、軌道がよく分かっていることなどを制約条件として、さらに目標天体の絞り込みを実施。
その結果、残ったのが“2001 AV43”と“1998 KY26”という小惑星でした。
最後に残った2つの探査案。左が“2001 AV43”、右が“1998 KY26”。(Credit: JAXA)
最後に残った2つの探査案。左が“2001 AV43”、右が“1998 KY26”。(Credit: JAXA)
“2001 AV43”に向かう場合の到達予定は2029年11月。
2024年8月に金星の重力を利用したスイングバイ、その後2回の地球スイングバイを行う予定です。
金星スイングバイ時、すでに金星探査機“あかつき”の延長運用フェーズは終了しているので、このタイミングで観測が行えれば“あかつき”のデータを補完できる可能性があります。

一方、“1998 KY26”に向かう場合の到達予定は2031年7月。
2026年7月に別の小惑星“2001 CC21”をフライバイ観測してから、2回の地球スイングバイを行う予定です。
ミッション期間はやや長くなりますが、2つの小惑星の観測が可能になります。
さらに、注目すべき点は、“1998 KY26”が“リュウグウ”と同じC型小惑星の可能性があること。
そう、探査では“はやぶさ2”の観測装置を最大限に活用できるわけです。

この2つの小惑星以外に、火星を何度もフライバイ観測する案や、金星をフライバイ観測した後に木星へ向かう案もあったそうです。

でも、“はやぶさ2”の太陽電池で活動できるのは火星軌道までなので、木星に行けたとしても着いた頃には電池切れで観測ができない状態…
火星以遠は日本にとって未踏の領域、興味深い案ではありますね。

拡張ミッションは、到達までに、さらに10年前後の長い年月がかかります。

地球帰還時で打ち上げからすでに6年経過している“はやぶさ2”。
過酷な宇宙空間での長旅に耐えられるのか、拡張ミッションは寿命とのシビアな戦いになりそうです。

それでも、“はやぶさ2”は“リュウグウ”でのミッションを達成済み。
失敗を恐れずに拡張ミッションにチャレンジできるので、目標天体に辿り着けただけでもラッキーと考えて応援しましょう。


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ボーイングの新型宇宙船“スターライナー”は2020年の後半に再飛行へ! 試験飛行の事故調査は完了。

2020年07月28日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
2020年7月8日にNASAとボーイングが発表したのは、昨年12月に発生した新型宇宙船“スターライナー”の無人飛行におけるトラブルの調査が完了したことでした。
改善勧告を受けた項目は80か所もあるんですが、もちろんボーイングは対処していく予定。
対処を行ったのち、2020年後半にも再度、無人試験飛行に挑むことを計画しています。
ボーイング社が開発している有人宇宙船“スターライナー(旧CST-100)”のイメージ図(Credit: Boeing)
ボーイング社が開発している有人宇宙船“スターライナー(旧CST-100)”のイメージ図(Credit: Boeing)


無人の飛行試験でトラブルに見舞われた“スターライナー”

“スターライナー”は、ボーイング社が開発している有人宇宙船で、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の商業輸送を目的としています。

無人の飛行試験“OFT(Orbital Flight Test)”のため宇宙へ飛び立ったのが2019年12月20日。
当初は8日間かけて様々な試験を行い、国際宇宙ステーションへのドッキングまで行う計画でした。

でも、打ち上げ直後にトラブルが発生。
予定していた軌道への投入ができず、国際宇宙ステーションへのドッキングを断念します。

飛行も2日間で切り上げることになり、最低限の試験を行ったのみ… 12月22日に地球に帰還する事態になりました。
無人の飛行試験“OFT”のため宇宙へ飛び立ち、地上に帰還した“スターライナー”の試験機。当初は宇宙に8日間滞在する予定だったが、トラブルにより計画は2日間で切り上げられた。(Credit: NASA)
無人の飛行試験“OFT”のため宇宙へ飛び立ち、地上に帰還した“スターライナー”の試験機。当初は宇宙に8日間滞在する予定だったが、トラブルにより計画は2日間で切り上げられた。(Credit: NASA)
帰還後の調査で判明したのは、“スターライナー”のコンピュータがミッションの経過時間を間違って認識していたこと。
その結果、予定していたスラスターの噴射が行えず、地球を回る軌道への投入に失敗したわけです。

その後、地上からのコマンドで修正されたものの、それまでに大量の推進剤を浪費していたので、国際宇宙ステーションへのドッキングができなくなってしまいました。

また、ソフトウェアの欠陥により、大気圏再突入の直前、宇宙飛行士が乗るクルー・モジュール(カプセル)と、サービス・モジュール(機械船)を分離した際に、スラスターが間違った向きに噴射される可能性があったことも判明。

最悪の場合、クルー・モジュールとサービス・モジュールが衝突し、姿勢が乱れたり、耐熱シールドを破壊することで、再突入が失敗に終わる危険もあったようです。

さらに、宇宙船から地上に向けた通信リンク(ダウンリンク)が断続的になるトラブルも発生。
これにより、地上から宇宙船にコマンドを送ったり、制御したりする運用に影響が出たそうです。

こうしたトラブルを受けて、NASAとボーイング社は共同で調査を実施し、80項目にも及ぶ改善勧告を作成しています。

勧告の全リストは機密により非公開とされているものの、項目の内訳は以下の通り。
試験やシミュレーションの追加や強化 21項目
プロセスと運用の改善 35項目
ソフトウェアの修正 7項目
要求事項 10項目
知識獲得とハードウェアの修正 7項目

両者の調査チームは、技術的な原因だけでなく、ボーイング社とNASAのそれぞれ、また両社間における組織的な原因についても調査を行い、提言を行っています。

すでに、ボーイング社は2回目の無人飛行試験“OFT-2”の実施を発表しています。
現時点での“OFT-2”実施予定は今年の後半、それまでに勧告への対処が行われることになります。
具体的な日時については未定で、“OFT-2”にかかる費用はボーイング社が負担する。

NASAでは、今年末までに“OFT-2”が実施され、今後の開発や試験が順調に進んだ場合、有人での飛行試験は2021年の春ごろになると考えています。


有人宇宙船“スターライナー(旧CST-100)”

ボーイング社の商業用旅客機“ストラトライナー”や“ドリームライナー”に連なる名前が付けられた有人宇宙船“スターライナー”。

スペースシャトルのような翼は持たず、アポロ宇宙船やスペースX社の“クルードラゴン”と同じカプセル型の宇宙船です。
クルー・モジュールと呼ばれる宇宙飛行士が乗り込む部分と、スラスターやタンク、バッテリーなどが収められたサービス・モジュールの2つから構成されています。

機体は、アポロ宇宙船よりは大きく、NASAの有人ミッション用宇宙船“オライオン”よりは小さい全長約5.0メートル、直径約4.5メートル。

クルー・モジュールに搭乗できる宇宙飛行士は最大で7人。
耐熱シールド以外の主要な構造物は、最大で10回の再使用を可能としています。

サービス・モジュールには、発射台や飛行中のロケットから脱出する際に使う4基の強力なスラスターのほか、姿勢制御や軌道変更に使うスラスターが集まったポッド、そして太陽電池などを装備しています。

宇宙に滞在できるのは、宇宙船に7人の飛行士が搭乗した場合だと約2か月間、国際宇宙ステーションにドッキングした状態では210日間ほどになります。

スペースシャトルの引退以降、NASAは月や火星、小惑星などの、より遠い目標に集中することになり、国際宇宙ステーションのような地球低軌道への宇宙飛行士の輸送を、民間企業の手にゆだねるという路線をとっています。

この国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の商業輸送契約をNASAから受注したのが、スペースX社とボーイング社です。

とくにスペースシャトル引退後、アメリカは国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送をロシアのソユーズ宇宙船に依存していて、自前の輸送手段を確保するためにもアメリカの民間宇宙船の完成は急務になっていました。

ただ、ボーイング社の“スターライナー”が足踏みしている一方で、昨年3月に無人での飛行試験に成功しているのがスペースX社が開発している有人宇宙船“クルードラゴン”です。

今年の5月には、2人の宇宙飛行士を乗せ、初の有人での飛行試験に飛び立ち、国際宇宙ステーションにドッキング。
飛行士2人を乗せた“クルードラゴン”は8月2日に無事フロリダ沖に着水し、最終テストミッションを成功させています。

“クルードラゴン”の本格運用の初号機には、JAXAの宇宙飛行士の野口さんら4人が搭乗し、打ち上げは10月23日を予定しているそうです。
民間宇宙船による、国際宇宙ステーションへ向けた定期的な宇宙飛行士の商業輸送が始まることになります。


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