これまで見ることができなかった太陽の両極域を観測するための探査機。
ヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機“ソーラーオービター”が、6月15日に初めて太陽に接近し、表面まで7700万キロの距離まで到達したようです。
太陽の両極域を観測する探査機
2020年2月10日、アメリカ・フロリダ州にあるケープカナベラル空軍基地から1基の“アトラスVロケット”が打ち上げられました。
このロケットに搭載されていたのはヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機“ソーラーオービター”。
“ソーラーオービター”は太陽を斜めに周回する軌道に投入され、これまで見ることができなかった太陽の両極域を観測するんですねー
これまで地球や人工衛星、探査機からは見ることができなかった太陽の両極域は、太陽活動を理解する上でカギになると考えられている部分です。
この領域が観測し易くなるので、今まで見たことのない画像、新しい発見が期待されます。
6月15日に“ソーラーオービター”は、初めて楕円軌道上で太陽に一番近づく点“近日点”を通過。
このときの太陽表面からの距離は、地球~太陽間の半分にまで迫る約7700万キロでした。
近日点通過の1週間で探査機が行ったのは、搭載された6基のカメラを含む10種類の科学機器の動作確認。
撮影された画像は7月中旬に公開される予定です。
2つの探査機による相互補完的な観測
今年初め、ハワイにある口径4メートルの望遠鏡“ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡”が、太陽をより高解像度で大きく撮影しました。
でも、地上からだと大気の影響を受けるんですねー
なので、宇宙から観測したときと比べて太陽スペクトルのほんの一部しか見ることができませんでした。
では、太陽を観測する探査機ではどうでしょうか。
2018年に打ち上げられたNASAの太陽探査機“パーカー・ソーラー・プローブ”は、太陽の非常に近くまで接近して観測を行います。
ただ、太陽に近づき過ぎるので、カメラのセンサーがその高熱に耐えることができないんですねー
なので、“パーカー・ソーラー・プローブ”には、太陽を直接とらえるカメラは搭載されませんでした。
逆に、太陽を撮影できない“パーカー・ソーラー・プローブ”にとって“ソーラーオービター”のカメラを含む観測機器は極めて重要な助けになります。
2つの探査機による相互補完的な観測により、単独のミッションよりも多くの成果が得られるはずです。
惑星の重力や公転運動量などを利用した軌道変更
6月15日に初期フェーズを終えた“ソーラーオービター”は、2020年12月と2021年8月に金星の重力、2021年11月には地球の重力を利用して軌道変更“フライバイ”を実施。
これにより、初期運用軌道になる太陽を周回する長楕円軌道に投入され、黄道面、つまり惑星の公転軌道とほぼ同じ面上を移動することになります。
科学観測の開始は2021年11月を予定しています。
その後、金星へのフライバイにより、“ソーラーオービター”は地球やその他の惑星が太陽の周りを回る公転面から離れ、太陽を斜めに周回することに。
高緯度から太陽を観測することで、観測史上初めて太陽の両極をはっきりととらえることになります。
太陽極域の観測は、太陽磁場のふるまいを理解することにもつながります。
さらに、磁場によって発生する太陽風や、太陽風が太陽系全体の環境に及ぼす影響についても研究が発展するはずです。
最終的に“ソーラーオービター”が接近するのは、太陽から水星までの距離よりも短い4200万キロの位置。
ちなみに“パーカー・ソーラー・プローブ”は、2024年に太陽の表面から600万キロほどしか離れていない距離を飛行するようです。
2020年7月17日_追記
近日点の通過中に撮影した太陽の姿
“ソーラーオービター”が6月15日に近日点(約7700万キロ)を通過したときの画像が公開されました。
“ソーラーオービター”には、6つのイメージングセンサーが搭載されていて、それぞれが太陽の様々な表情を撮影します。
なかでも、紫外線撮像装置“Extreme Ultraviolet Imager(EUI)”がとらえた画像には、研究者たちが“キャンプファイヤー”と呼ぶ太陽表面の小さな爆発や非常に小さな規模の太陽フレアらしきものが写っていました。
研究者たちが考えているのは、“キャンプファイヤー”が太陽表面よりも外側のコロナ部分の方が300倍も高温になる理由を説明するものだということ。
この現象を詳しく理解するのに必要になるのが、“キャンプファイヤー”部分の温度を正確に調査することです。
もちろん“ソーラーオービター”には、そのためのスペクトル撮像装置が搭載されているので、謎の解明に向けて研究者たちの期待は高まっているようです。
通常、探査機が撮影する最初の画像は、搭載している機器の動作試験を兼ねたものになります。
なので、最初の撮影で何らかの発見をするとは期待されていないんですねー
最初の段階から“キャンプファイヤー”のような画像をとらえ、最高のスタートを切った“ソーラーオービター”ですが、これまでに前例のない困難にも遭遇しています。
それは、新型コロナウィルスのパンデミックによるもの。
ドイツ・ダルムシュタットにあるヨーロッパ宇宙運用センターの管制チームの多くが、1週間以上にわたり在宅勤務に移行せざるを得なかったことです。
その間は、必要最低限の人数での監視操作が求められ、重要な操作もリモートから実行していたそうです。
現在、“ソーラーオービター”はすべての機能が正常なことが確認され、計画通りにミッションを継続中のようですよ。
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ヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機“ソーラーオービター”が、6月15日に初めて太陽に接近し、表面まで7700万キロの距離まで到達したようです。
太陽の両極域を観測する探査機
2020年2月10日、アメリカ・フロリダ州にあるケープカナベラル空軍基地から1基の“アトラスVロケット”が打ち上げられました。
このロケットに搭載されていたのはヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機“ソーラーオービター”。
“ソーラーオービター”は太陽を斜めに周回する軌道に投入され、これまで見ることができなかった太陽の両極域を観測するんですねー
これまで地球や人工衛星、探査機からは見ることができなかった太陽の両極域は、太陽活動を理解する上でカギになると考えられている部分です。
この領域が観測し易くなるので、今まで見たことのない画像、新しい発見が期待されます。
6月15日に“ソーラーオービター”は、初めて楕円軌道上で太陽に一番近づく点“近日点”を通過。
このときの太陽表面からの距離は、地球~太陽間の半分にまで迫る約7700万キロでした。
近日点通過の1週間で探査機が行ったのは、搭載された6基のカメラを含む10種類の科学機器の動作確認。
撮影された画像は7月中旬に公開される予定です。
太陽探査機“ソーラーオービター”の太陽初接近のアニメーション。(Credit: ESA/MediaLab) |
2つの探査機による相互補完的な観測
今年初め、ハワイにある口径4メートルの望遠鏡“ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡”が、太陽をより高解像度で大きく撮影しました。
でも、地上からだと大気の影響を受けるんですねー
なので、宇宙から観測したときと比べて太陽スペクトルのほんの一部しか見ることができませんでした。
では、太陽を観測する探査機ではどうでしょうか。
2018年に打ち上げられたNASAの太陽探査機“パーカー・ソーラー・プローブ”は、太陽の非常に近くまで接近して観測を行います。
ただ、太陽に近づき過ぎるので、カメラのセンサーがその高熱に耐えることができないんですねー
なので、“パーカー・ソーラー・プローブ”には、太陽を直接とらえるカメラは搭載されませんでした。
逆に、太陽を撮影できない“パーカー・ソーラー・プローブ”にとって“ソーラーオービター”のカメラを含む観測機器は極めて重要な助けになります。
2つの探査機による相互補完的な観測により、単独のミッションよりも多くの成果が得られるはずです。
惑星の重力や公転運動量などを利用した軌道変更
6月15日に初期フェーズを終えた“ソーラーオービター”は、2020年12月と2021年8月に金星の重力、2021年11月には地球の重力を利用して軌道変更“フライバイ”を実施。
これにより、初期運用軌道になる太陽を周回する長楕円軌道に投入され、黄道面、つまり惑星の公転軌道とほぼ同じ面上を移動することになります。
科学観測の開始は2021年11月を予定しています。
惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、探査機の速度や方向を変えることができる。燃料を消費せずに軌道変更と加速ができ、このような飛行方式をフライバイあるいはスイングバイという。
太陽を中心に描いた太陽探査機“ソーラーオービター”の軌道。(Credit: ESA/ATG MediaLab) |
高緯度から太陽を観測することで、観測史上初めて太陽の両極をはっきりととらえることになります。
太陽極域の観測は、太陽磁場のふるまいを理解することにもつながります。
さらに、磁場によって発生する太陽風や、太陽風が太陽系全体の環境に及ぼす影響についても研究が発展するはずです。
最終的に“ソーラーオービター”が接近するのは、太陽から水星までの距離よりも短い4200万キロの位置。
ちなみに“パーカー・ソーラー・プローブ”は、2024年に太陽の表面から600万キロほどしか離れていない距離を飛行するようです。
2020年7月17日_追記
近日点の通過中に撮影した太陽の姿
“ソーラーオービター”が6月15日に近日点(約7700万キロ)を通過したときの画像が公開されました。
近日点通過の1週間で撮影された画像(Credit: NASA / ESA) |
なかでも、紫外線撮像装置“Extreme Ultraviolet Imager(EUI)”がとらえた画像には、研究者たちが“キャンプファイヤー”と呼ぶ太陽表面の小さな爆発や非常に小さな規模の太陽フレアらしきものが写っていました。
研究者たちが考えているのは、“キャンプファイヤー”が太陽表面よりも外側のコロナ部分の方が300倍も高温になる理由を説明するものだということ。
この現象を詳しく理解するのに必要になるのが、“キャンプファイヤー”部分の温度を正確に調査することです。
もちろん“ソーラーオービター”には、そのためのスペクトル撮像装置が搭載されているので、謎の解明に向けて研究者たちの期待は高まっているようです。
かつていないほど接近した“ソーラーオービター”が初めて見た太陽(Credit: ESA/ATG MediaLab) |
なので、最初の撮影で何らかの発見をするとは期待されていないんですねー
最初の段階から“キャンプファイヤー”のような画像をとらえ、最高のスタートを切った“ソーラーオービター”ですが、これまでに前例のない困難にも遭遇しています。
それは、新型コロナウィルスのパンデミックによるもの。
ドイツ・ダルムシュタットにあるヨーロッパ宇宙運用センターの管制チームの多くが、1週間以上にわたり在宅勤務に移行せざるを得なかったことです。
その間は、必要最低限の人数での監視操作が求められ、重要な操作もリモートから実行していたそうです。
現在、“ソーラーオービター”はすべての機能が正常なことが確認され、計画通りにミッションを継続中のようですよ。
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