今回の研究では、アルマ望遠鏡を用いて銀河系外の爆発的に星を生み出している銀河“NGC 253”の中心部を観測し、100以上の分子種を検出。
その解析により、“NGC 253”中心部には星の進化の様々な段階にある領域が混在している様子を、これまでになく詳細に描き出しています。
また、得られた多数の分子種の分布図に機械学習の手法を適用。
すると、これまで星の進化段階を知るための“指標”として使われてきた分子種に加え、いくつかの分子種が指標として使えることが明らかになりました。
現在進行中のアルマ2計画により、広い周波数範囲の観測に要する時間は格段に短縮されるはず。
このアルマ2計画の後押しを受けることで、今後より多くの指標分子の同時観測により、爆発的に星を生み出すメカニズムの理解が進むと期待されます。
スターバーストのメカニズムを知るカギ
宇宙には、銀河系よりもはるかに高い頻度で星を生み出す“スターバースト”が起こっている銀河があります。
ただ、爆発的に星を生み出したり、逆に抑制したりする仕組みは、いまだよく分かっていないんですねー
星は、材料となる分子ガスが雲のように集まった分子雲の中でも、特に分子ガスの密度の高い場所(分子雲コア)で星が生まれます。
ただ、活発に星を生み出す活動(星形成)の後には、生まれたての高温の星や、死にゆく星の爆発(超新星爆発)が周囲にエネルギーを放出することで、星形成は抑制される傾向にあります。
こうした星の進化の段階は、分子ガスの状態と密接な関係があると考えられ、分子ガスの状態もまた、様々な種類の分子の組成に影響しています。
このことから、分子ガスの組成を調べることが、スターバーストのメカニズムを知るカギとなります。
分子ガスの状態やその組成が異なると、放つ電波の周波数が異なります。
なので、様々な状態や種類の分子を調べるには、広い周波数範囲の電波観測を行うことが有効となります。
今回観測されたのは、地球から約1000万光年という銀河系外で最も近い距離にあるスターバースト銀河“NGC 253”の中心部。
アルマ望遠鏡(※1)を用いて広い周波数範囲で様々な分子が放つ電波信号“輝線”(※2)の探査を行い、100以上の分子種を検出しています。
これは、銀河系外の天体としては、これまでで最高の数となりました。
その中に含まれていたのは、エタノールやチッカリンなど、銀河系外で初めて検出された分子でした。
その分子の解析により、銀河“NGC 253”中心部の星の進化段階を詳しく知ることに成功しています。
星形成の頻度が非常に高い理由
この探査が実施されたのは、“ALCHEMI”というアルマ・ラージプログラム(※3)でした。
“ALCHEMI”というプログラム名は、ALMA Comprehensive High-resolution Extragalactic Molecular Inventoryの頭文字を取ったもの。
錬金術を示す英語“alchemy”をもじったのもので、種々の分子の組成を調べる“星間化学(アストロケミストリー)”という分野を、アルマ望遠鏡で行うプログラムです。
まず、研究チームが見つけたのは、銀河“NGC 253”中心部の分子ガスの密度が高いことでした。
分子ガスの温度や密度が異なると、“どの周波数の電波強度が高く、どの周波数が低いのか”というパターンが異なってきます。
なので、観測されたスペクトル(周波数ごとの電波強度)のパターンから、分子ガスの密度を推定できます。
ここから分かったのは、銀河“NGC 253”の中心部における高密度ガスの量が、銀河系中心部の10倍以上ということでした。
星は、密度の高い場所で、効率よく重力が働いて分子ガスが凝縮すると生まれます。
このことから、銀河“NGC 253”の分子ガス量当たりの星形成の頻度が銀河系の30倍以上と非常に高いのは、分子ガスの密度が高いことに起因している可能性が考えられます。
特定の分子種の検出が意味するもの
では、どのようにして分子ガスは高密度になったのでしょうか?
分子雲を高密度に圧縮するメカニズムの一つに、分子雲の衝突があります。
分子雲の衝突が起こる可能性があるのは、銀河“NGC 253”中心部のガスや星の流れが交差する領域付近です。
このような衝突の現象も、分子ガスが放つ電波の観測でとらえることができます。
衝突が起こると超音速で進む衝撃波が生じ、氷の微粒子の表面に凍結していたメタノールや二酸化炭素、イソシアン酸などの分子を蒸発させます。
これらの分子はガスとして蒸発すると、電波望遠鏡で観測できるようになります。
今回の研究では、これらの分子種が観測されていました。
このことから、分子雲の衝突が起こっていることが考えられ、それにより分子ガスが圧縮されていると考えられます。
このように、特定の分子種を検出することは、特定の現象や状態を示す“指標”となる場合があります。
また、本研究では銀河“NGC 253”の中心部に、複雑な有機分子が豊富に存在する領域が見つかっています。
この領域では、若い星の形成が活発に起こっていることが知られています。
銀河系内でも、複雑な有機分子は、若い星の周りに豊富に見られます。
これらのことから、銀河“NGC 253”では活発な星形成があり、それは銀河系の中の個々の若い星(原始性)の周りで見られるのと似たような高温、高密度環境を生成している可能性があります。
星形成を減速させるような、前の世代の星が残した過酷な環境も、今回の研究で明らかになっています。
大質量星が一生の最期を迎えると、超新星爆発を起こし高エネルギーの宇宙線を放出します。
この宇宙線により多くのエネルギーが注ぎ込まれている場所では、ガスは濃縮しにくく、星を形成するのが難しくなります。
このような過酷な環境の指標となるのは、水素分子が宇宙線によって電子を剥ぎ取られた結果生じるヒドロニウムなどです。
本研究で得られた電波強度スペクトルから分かったのは、太陽系近傍の少なくとも1000倍以上の速度で、宇宙線により分子の電子が剥ぎ取られている領域があることでした。
星の進化の各段階の指標として使える分子
ALCHEMIプロジェクトでは、アルマ望遠鏡の高空間分解能により、図2のように銀河“NGC 253”の中心領域に星の進化の様々な段階にある個所が混在しているということを、世界で初めて明らかにしました。
さらに、ALCHEMIプロジェクトにより、これまでの銀河系外の天体の研究と比べて、はるかに多くの分子種についての分布図を得ることもできています。(図3)
この分布図に、機械学習の手法を適用することで、星の進化の各段階の指標として使える分子を探査すると、これまで指標として使われてきた分子種に加え、いくつかの分子種が指標として使えることが明らかになります。
そう、より多くの指標分子を同時観測することで、スターバーストのメカニズムの理解を、さらに進展させる道筋を拓くことができた訳です。
ただ、それには広い周波数範囲での観測が必須で、現状では観測にかなりの時間を要してしまいます。
そこで期待されるのが現在進行中のアルマ2計画。
これは、一度に観測できる周波数範囲を広げる“広帯域感度アップグレード(WSU; Wideband Sensitivity Upgrade)”になります。
このアップグレードが完成すると、広い周波数範囲の観測に要する時間が格段に短縮されるんですねー
今回の成果やアルマ2計画により、広い周波数範囲の大規模探査が進むはず。
スターバーストのメカニズムへの理解が飛躍的に進むことが期待されますね。
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その解析により、“NGC 253”中心部には星の進化の様々な段階にある領域が混在している様子を、これまでになく詳細に描き出しています。
また、得られた多数の分子種の分布図に機械学習の手法を適用。
すると、これまで星の進化段階を知るための“指標”として使われてきた分子種に加え、いくつかの分子種が指標として使えることが明らかになりました。
現在進行中のアルマ2計画により、広い周波数範囲の観測に要する時間は格段に短縮されるはず。
このアルマ2計画の後押しを受けることで、今後より多くの指標分子の同時観測により、爆発的に星を生み出すメカニズムの理解が進むと期待されます。
この研究は、国立天文台の原田ななせ助教、欧州南天天文台/合同アルマ観測所のセルヒオ・マーチン博士、米国国立電波天文台のジェフ・マンガム博士を中心とする国際研究チームが進めています。
図1.今回の研究で得られた知見に基づくスターバースト銀河“ NGC 253 ”のイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)) |
スターバーストのメカニズムを知るカギ
宇宙には、銀河系よりもはるかに高い頻度で星を生み出す“スターバースト”が起こっている銀河があります。
ただ、爆発的に星を生み出したり、逆に抑制したりする仕組みは、いまだよく分かっていないんですねー
星は、材料となる分子ガスが雲のように集まった分子雲の中でも、特に分子ガスの密度の高い場所(分子雲コア)で星が生まれます。
ただ、活発に星を生み出す活動(星形成)の後には、生まれたての高温の星や、死にゆく星の爆発(超新星爆発)が周囲にエネルギーを放出することで、星形成は抑制される傾向にあります。
こうした星の進化の段階は、分子ガスの状態と密接な関係があると考えられ、分子ガスの状態もまた、様々な種類の分子の組成に影響しています。
このことから、分子ガスの組成を調べることが、スターバーストのメカニズムを知るカギとなります。
分子ガスの状態やその組成が異なると、放つ電波の周波数が異なります。
なので、様々な状態や種類の分子を調べるには、広い周波数範囲の電波観測を行うことが有効となります。
今回観測されたのは、地球から約1000万光年という銀河系外で最も近い距離にあるスターバースト銀河“NGC 253”の中心部。
アルマ望遠鏡(※1)を用いて広い周波数範囲で様々な分子が放つ電波信号“輝線”(※2)の探査を行い、100以上の分子種を検出しています。
これは、銀河系外の天体としては、これまでで最高の数となりました。
その中に含まれていたのは、エタノールやチッカリンなど、銀河系外で初めて検出された分子でした。
その分子の解析により、銀河“NGC 253”中心部の星の進化段階を詳しく知ることに成功しています。
※1.日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。
※2.分光観測を行うことでスペクトルを得ることができる。スペクトルは光の波長ごとの強度分布で、そこに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。個々の元素は、決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質があり、その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。また、スペクトルに現れる吸収線や輝線は、光のドップラー効果によって、私たちの方へ動いている元素が発する光の波長は短く(青く)なり、遠ざかる元素からの光の波長は長く(赤く)なる。なので、この波長の変化量を測定することで、元素の動きを知ることができる。
※2.分光観測を行うことでスペクトルを得ることができる。スペクトルは光の波長ごとの強度分布で、そこに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。個々の元素は、決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質があり、その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。また、スペクトルに現れる吸収線や輝線は、光のドップラー効果によって、私たちの方へ動いている元素が発する光の波長は短く(青く)なり、遠ざかる元素からの光の波長は長く(赤く)なる。なので、この波長の変化量を測定することで、元素の動きを知ることができる。
星形成の頻度が非常に高い理由
この探査が実施されたのは、“ALCHEMI”というアルマ・ラージプログラム(※3)でした。
“ALCHEMI”というプログラム名は、ALMA Comprehensive High-resolution Extragalactic Molecular Inventoryの頭文字を取ったもの。
錬金術を示す英語“alchemy”をもじったのもので、種々の分子の組成を調べる“星間化学(アストロケミストリー)”という分野を、アルマ望遠鏡で行うプログラムです。
まず、研究チームが見つけたのは、銀河“NGC 253”中心部の分子ガスの密度が高いことでした。
分子ガスの温度や密度が異なると、“どの周波数の電波強度が高く、どの周波数が低いのか”というパターンが異なってきます。
なので、観測されたスペクトル(周波数ごとの電波強度)のパターンから、分子ガスの密度を推定できます。
ここから分かったのは、銀河“NGC 253”の中心部における高密度ガスの量が、銀河系中心部の10倍以上ということでした。
星は、密度の高い場所で、効率よく重力が働いて分子ガスが凝縮すると生まれます。
このことから、銀河“NGC 253”の分子ガス量当たりの星形成の頻度が銀河系の30倍以上と非常に高いのは、分子ガスの密度が高いことに起因している可能性が考えられます。
※3.アルマ・ラージプログラムとは、50時間以上の長い観測時間を使うことで、まとまった成果を出すことを目的としたプログラム。
特定の分子種の検出が意味するもの
では、どのようにして分子ガスは高密度になったのでしょうか?
分子雲を高密度に圧縮するメカニズムの一つに、分子雲の衝突があります。
分子雲の衝突が起こる可能性があるのは、銀河“NGC 253”中心部のガスや星の流れが交差する領域付近です。
このような衝突の現象も、分子ガスが放つ電波の観測でとらえることができます。
衝突が起こると超音速で進む衝撃波が生じ、氷の微粒子の表面に凍結していたメタノールや二酸化炭素、イソシアン酸などの分子を蒸発させます。
これらの分子はガスとして蒸発すると、電波望遠鏡で観測できるようになります。
今回の研究では、これらの分子種が観測されていました。
このことから、分子雲の衝突が起こっていることが考えられ、それにより分子ガスが圧縮されていると考えられます。
このように、特定の分子種を検出することは、特定の現象や状態を示す“指標”となる場合があります。
また、本研究では銀河“NGC 253”の中心部に、複雑な有機分子が豊富に存在する領域が見つかっています。
この領域では、若い星の形成が活発に起こっていることが知られています。
銀河系内でも、複雑な有機分子は、若い星の周りに豊富に見られます。
これらのことから、銀河“NGC 253”では活発な星形成があり、それは銀河系の中の個々の若い星(原始性)の周りで見られるのと似たような高温、高密度環境を生成している可能性があります。
星形成を減速させるような、前の世代の星が残した過酷な環境も、今回の研究で明らかになっています。
大質量星が一生の最期を迎えると、超新星爆発を起こし高エネルギーの宇宙線を放出します。
この宇宙線により多くのエネルギーが注ぎ込まれている場所では、ガスは濃縮しにくく、星を形成するのが難しくなります。
このような過酷な環境の指標となるのは、水素分子が宇宙線によって電子を剥ぎ取られた結果生じるヒドロニウムなどです。
本研究で得られた電波強度スペクトルから分かったのは、太陽系近傍の少なくとも1000倍以上の速度で、宇宙線により分子の電子が剥ぎ取られている領域があることでした。
星の進化の各段階の指標として使える分子
ALCHEMIプロジェクトでは、アルマ望遠鏡の高空間分解能により、図2のように銀河“NGC 253”の中心領域に星の進化の様々な段階にある個所が混在しているということを、世界で初めて明らかにしました。
図2.(上)観測から得られたスペクトル。(下)ALCHEMIプロジェクトによる様々な指標分子の観測から見えてきた、銀河“NGC 253”中心部の様式図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Martin, N. Harada, J. Holdship et al.) |
この分布図に、機械学習の手法を適用することで、星の進化の各段階の指標として使える分子を探査すると、これまで指標として使われてきた分子種に加え、いくつかの分子種が指標として使えることが明らかになります。
そう、より多くの指標分子を同時観測することで、スターバーストのメカニズムの理解を、さらに進展させる道筋を拓くことができた訳です。
ただ、それには広い周波数範囲での観測が必須で、現状では観測にかなりの時間を要してしまいます。
そこで期待されるのが現在進行中のアルマ2計画。
これは、一度に観測できる周波数範囲を広げる“広帯域感度アップグレード(WSU; Wideband Sensitivity Upgrade)”になります。
このアップグレードが完成すると、広い周波数範囲の観測に要する時間が格段に短縮されるんですねー
今回の成果やアルマ2計画により、広い周波数範囲の大規模探査が進むはず。
スターバーストのメカニズムへの理解が飛躍的に進むことが期待されますね。
図3.ALCHEMIプロジェクトにより観測された、銀河“NGC 253”中心部における種々の分子種の分布図。青:分子ガスの全体的な分布、赤:衝撃波、オレンジ:比較的密度の濃い場所、黄色:若い星形成、マゼンタ:より発達した星形成、水色:宇宙線の影響。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), N. Harada et al.) |
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